化怪《バケ》〜幽霊騎士に守られて、呪われた私は恋を知る〜

名無し

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 気が付いた時、私の体はふわふわと浮かんでいて、何も無い真っ白な空間に漂っていた。徐々に頭が覚醒してくると、先程まで吸血鬼さんと会話をしていて、その途中で体の異変を感じ、そのまま意識を手放したことを思い出す。私死んだの?ここは天国か何か?と混乱していると、遠くの方から篭った声が響いてきた。

『貴様………、馴れ馴れしく恋白の名を呼ぶな………』

 その声は、間違いなく目隠しさんのもので、私は慌てて声がした方へと駆け寄る。そこには、吸血鬼さんと対峙する目隠しさんの姿と、何故か吸血鬼さんの方に寄り添っている、私自身の姿があった。その光景と、その光景を見ている私の間には、分厚いガラスのような透明な隔たりがあって、向こう側に行く事はできない。一体この状況は何なのか。それに、何故私が目の前にいて、吸血鬼さんの隣に立っているのか。分からないことだらけだが、恐らく私を助けにきてくれたのであろう目隠しさんの姿が、何だかすごく嬉しかった。

(目隠しさん、助けに来てくれたんだ…………)

 あんなに冷たくして、勝手に1人になって、その結果攫われてこの有様だというのに、ちゃんと助けに来てくれた。嫉妬して不安になっていたせいもあってか余計に嬉しさを実感した。

『それはこちらの台詞です。貴方こそ、私の妻の名を馴れ馴れしく呼ばないでいただけますか?』
「つ、妻!?ちょっと、勝手なこと言わないでよ!」

 しかし嬉しさを噛み締めていたのも束の間、勝手なことを言って私の肩を抱く吸血鬼に、私は思わず声が裏返りそうになった。バンバンと透明な壁を叩きながら抗議する。だが、こちらの声は全く聞こえていないようだった。そこにもう1人の私がいるのを考えると、ここは精神世界か何かなのだろうか。

「吸血鬼ー!私を騙したのねー!」

 何度もこちら側で声を荒げたところで、やはりその声は届くはずもなく。私の本心とは関係なく、吸血鬼と目隠しさんの間でどんどん話が進んでいってしまう。私はここにいるのに………。

 やがて吸血鬼が、私に吸血鬼か目隠しさんかを選ばせるとか何とか言いだした。そんなの当然、目隠しさんの手を取るに決まっているのに、目の前の私は吸血鬼を選ぶ。それどころか、目隠しさんのことを怖いと言って、吸血鬼にしがみ付いていてギョッとした。

「何してるのよ私………!目隠しさんの前でそんな………!」

 自分で自分に呆れる。すぐ色んな霊にホイホイと着いていく軽い女だと軽蔑されないだろうか。ヒヤヒヤハラハラとするが、よくよく考えると、目隠しさんにとっては私の気持ちが誰に向けられていようと、関係ないのではないだろうか。目隠しさんに対して意識して、ヤキモチを妬いているのは私だけで、目隠しさんからしたら私はただのエネルギー源。呪いを解除すれば、お役御免………。自分で勝手にそう考えを膨らませて、ずきりと痛む胸を抑える。

 しかし、そんな私の想像とは裏腹に、目隠しさんはかなりご立腹であった。そして、そんな目隠しさんを見た吸血鬼が口にした、「嫉妬深い男は醜いですよ」という言葉に、沈んでいた心が少し浮つく。

(妬いて………くれてる………?あの目隠しさんが………?)

 その言葉に対して否定も肯定もしない目隠しさんの真意は分からない。けど、もしその可能性が少しでもあるのなら…………。

(こんな状況でちょっと嬉しいなんて………)

 もしかしたら、もしかしたら、そうなの………?と頬を赤く染めて、床にのの字を書いている内に、目隠しさんは鎌を構えて床を蹴った。同時に吸血鬼は、何か赤い液体が入った瓶を取り出して、それを足元へ落とす。目隠しさんが大鎌を一振り二振りするだけで、黒い斬撃はかまいたちの様に部屋を飛び交っていった。照明は消え、吸血鬼のお気に入りだと言っていたコレクションの機械は粉々に砕け、中から女性の体がドロッと液体ごと転がり出てくる。しかし肝心の吸血鬼を斬った感触は無く、ランプの火だけがぼんやりと不気味に揺れる薄暗い空間の中で、目隠しさんは消えた吸血鬼のことを探していた。

「こちらですよ」

 目隠しさんの足元から吸血鬼の声がして、そこににゅるりと姿を現した吸血鬼が、手から赤い棘のようなものを発射した。至近距離で放たれたそれを目隠しさんも咄嗟に避けたものの、頬や肩、脚などに擦り傷を残し、じわりと血が滲む。避けた棘はそのまま壁にぶつかって、べちゃっと真っ赤な液体になり、壁のシミへと変わり果てた。

(………血か………)

 棘はどうやら血液で作られているもののようで、それを目隠しさんが冷静に分析する。吸血鬼は、血を武器に変えたり、床に垂れた血溜まりを伝って移動したり身を潜めることができるらしい。やがて壁に付着したその血は、再び棘へと成形され、目隠しさん目掛けて発射された。更には、吸血鬼が懐から新たな血を取り出して床に叩き付け、その血液から赤く光る剣を作り出すと目隠しさんに斬り掛かった。

「私の妻たちから採取した血液のストックは沢山ありますからね………。どこまで耐えられるか、試してみましょうか!」
「………チッ………!」

 小さく舌打ちをした目隠しさんが、壁から飛んでくる棘を鎌で払い落とした後、吸血鬼の剣も受け止めた。斬り合いを続ける2人だったが、その最中にも吸血鬼は更に瓶を割り、床にドバドバと血溜まりを作っていく。その血液から、1体、2体、3体と吸血鬼の分身が現れ、同じように目隠しさんに斬り掛かってきた。

「目隠しさん!!」

 血液がある限り、どんどん増えていく吸血鬼の手数。やがて目隠しさんは全てを受け切ることが出来なくなり、その体に深い斬撃を受けて膝を付いた。ドバドバと目隠しさんの血も床に流れていく。その血すら、吸血鬼の術により鋭利な凶器となって、目隠しさんに襲い掛かった。傷で痛む体を何とか起こして、かろうじて避けた目隠しさんは、圧倒的に不利な状況に追い込まれていた。

(こんな所で戦ったら、吸血鬼が有利に決まってる………!)

 相手の根城に乗り込んで戦っているのだ。吸血鬼には、色んな準備も策も整っている。目の前で目隠しさんが戦っているのに、目隠しさんが怪我を負っているのに、何もできないことが歯痒い。

「これだけ私の攻撃を受けて、その程度の傷で済んでいるとは、素晴らしいですよ」
「………………」
「おや。褒めているのですから、もう少し嬉しそうな顔をしたらどうです」

 パチンと吸血鬼が、何度目か分からない指鳴らした。すると、薄暗い部屋に無数のコウモリたちが姿を現した。よく躾けられた大量のコウモリは、みな器用に口に瓶を咥えてバサバサと飛んでいる。そして一斉に、その瓶を床に落とした。どんどん広がっていく血液。やがて血は何かを作り出そうと1つに集まり始め、最後には3つの頭を持った犬………、大きくて獰猛なケルベロスを作り出したのだった。

「さあ、そこの小賢しい悪霊を食ってしまいなさい!」

 ケルベロスは恐ろしい咆哮を上げ、吸血鬼の命令に従うように、鋭い爪を目隠しさん目掛けて振り下ろした。
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