化怪《バケ》〜幽霊騎士に守られて、呪われた私は恋を知る〜

名無し

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吸血鬼がレベルアップしました

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「さあ!餌の時間ですよ、ケルベロス!」
「ガァアァアアァッ!!!!!」

 その咆哮は、部屋全体をビリビリと揺らした。主人の命令を受けて昂るケルベロスは、吸血鬼に従順な様子で、目隠しさん目掛けて鋭い爪を振り下ろす。しかし、凶暴ではあるが、所詮は獣といったところか。その攻撃は単純だった。目隠しさんが大鎌でケルベロスの腕をあっさりと斬り落とす。すると、床にバシャンと血液になって広がった後、再びケルベロスの欠落した腕に集合して、その部位を再生させたのであった。

「無駄ですよ!液体を斬ったって無意味なのは、子供でも分かります!」
「………戦ってる間も五月蝿い奴だ………」

 勝ち誇る吸血鬼に鬱陶しそうにボヤいた目隠しさんは、ケルベロスの引っ掻き、噛み付き、尻尾の薙ぎ払い、数々の止まない猛攻を交わしながら、部屋中のホルマリン付けにされている女性たちの機械を次々と壊し始めた。鎌で1つ1つ斬っては、中の液体と女性の死体が溢れ出す。

「ヤケクソになったのか!無駄なことを!さあトドメを刺せ!ケルベロス!」

 目隠しさんの真意に気付かぬまま、吸血鬼がそう高らかに号令する。ケルベロスはその命令に応えるように吠えた後、大きな口を開けながら目隠しさんに向かって猛スピードで走り出した。しかし、目隠しさんは何故か避ける素振りを見せず、その場に立ち塞がってケルベロスを一瞥した。諦めたのか、と勝ちを確信して鼻で笑う吸血鬼。しかし、そんな吸血鬼の思いとは裏腹に、ケルベロスは突然床に倒れ込んだ。特に目隠しさんの攻撃を受けた訳でもない。一体何事かと焦る吸血鬼が、ようやく自分の足元の状況に気付いたのだ。

「これは…………ホルマリン水溶液………」

 気付けば床は水浸しになっていて、そこらに付着していた血液を洗い流しているかのようだった。目隠しさんは、この為に女性を保管していたあの機械を壊していたのだ。ケルベロスの体は、足から徐々に水溶液によって滲み始め、やがてその形を保つのが難しくなっていった。動けずその場に倒れ込むケルベロスを、目隠しさんが鎌で真っ二つに斬り裂く。血液となって弾けたケルベロスは、そのままホルマリン水溶液の中へ溶けて沈んでいった。

「………なるほど。私は貴方のことを見くびっていたようだ」
「………流石にこれだけ血を使えば、もうストックも尽きただろう………」
「そうですね。ストックはありませんが」

 吸血鬼の目は、部屋の片隅で震えながら一部始終を見ていた私に移された。その目線が私に向けられたことを目隠しさんもいち早く気付いたものの、吸血鬼は僅かに残された床の血痕を辿って一瞬で私の前に辿り着く。強引に腰を抱き寄せ、怯えた目で見上げる私に微笑んだ。

「補充すれば良いだけです。その為の妻なのですから」
「貴様………ッ!!」

 吸血鬼は口を開け、鋭い牙を見せ付けた。私の体は相変わらず催眠術にかけられたままなので、碌な抵抗をしようとしない。胸元が開けたドレスから覗く、その白い首筋に顔を埋めようとする。その瞬間に、何をしようとしているのかを察したのだろう。怒りに身を任せた目隠しさんが一瞬の間に、吸血鬼の元へ移動しその首を呆気なく掴んで持ち上げたのだ。

「がっ…………!?」
「…………恋白に触るな………下衆が………!」
「貴、様………っ!私に何を………!無礼な!!!」

 目隠しさんが触れている吸血鬼の首から、ブワッと勢いよく炎が上がる。人形ちゃんと戦っている時にも見た、触れたものを燃やす力だ。

(すごい…………!吸血鬼を捕らえた!)

 意識の中で、目隠しさんと吸血鬼の戦いを見守りながら、目隠しさんの強さに息を呑む。私は完全に、この戦いは目隠しさんの勝利であると安心しきっていた。

 目隠しさんの手から離された吸血鬼は、未だ燃え続ける自分の顔や体に苦痛の叫び声をあげ、悶え苦しんでいた。この炎が吸血鬼の全てを燃やし尽くせば、一件落着。私に掛かった催眠術も解け、目隠しさんも吸血鬼の魂を食べられる。そして元に戻ったら、目隠しさんに冷たい態度を取ってしまったこと、こうして迷惑をかけてしまったことを謝ろう。

『目隠しさ………「吸血鬼様っ!!!!」

 呼ぼうとした名とは違う名前を、目の前の私は叫んでいた。燃える吸血鬼にガバリと抱きついて、悲しそうに涙を流している。その様子を見て驚いているのは、目隠しさんだけじゃない。私自身も、自分の行動に頭を殴られたような衝撃を受ける。

 やがて吸血鬼だけを燃やしていた筈の炎が、抱きつく私のドレスにも移っていくのを見て、目隠しさんは慌てて炎を消した。ジュウジュウと皮膚が焼ける独特な臭いと煙を発しながら項垂れる吸血鬼に、私はあろうことか生命力を分け与え始める。

「恋白、何をしている………!」
『何してるのよ馬鹿!そんなことしたら………』

 尽き掛けていたエネルギーを補給して、ゆらゆらと立ち上がる吸血鬼。焼けて爛れた顔や髪は戻っていないが、決まっていた筈の勝敗は分からなくなってしまった。

「嗚呼…………、私の美しい顔が………、顔が…………!!!!」

 吸血鬼は復活するなり、胸元から手鏡を取り出して自分の姿を確認した。そこに映るのは、先程までの美しい端麗な顔立ちではなく、剥き出しになった骨、解けた皮膚、焦げて無くなった髪………、それこそ本当に幽霊のような、ゾンビのような姿に変わり果てていた。その姿に絶望、悲しみ、怒り………、色んな感情に体を震わせている。

「貴様…………、よくも…………よくモこの私ヲ…………」

 そして吸血鬼がとった行動に、私はヒッと小さく悲鳴を上げて口を覆った。転がっていた女性たちの死体を、ボリボリと貪り始めたのだ。1人、また1人と、自慢のコレクションを飲み込んでいく。そしてその度に、吸血鬼の体は大きく、禍々しい球体のような姿に変わっていった。その球体は、吸血鬼が食べてきた無数の人間や女性たち、そして霊たちが融合して出来た、悍ましいものであった。

「…………階級を上げたのか………!」
「貴様、絶対ニ許サン………!捻リ潰シテ食ッテヤル!!!!」

 最早化け物に変わり果てた吸血鬼の前で、目隠しさんはただ静かに鎌を構えて立ちはだかっていた。
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