あの七夕の日を忘れない

古明地 蓮

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新たな日々

新しい家にて

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「お邪魔します」

と言って、暁家に入った。
取り敢えず靴を脱いで、家に上がった。
彼女は、家に上がるや否や、玄関の電気を付け、靴を脱いで、リビングに行ってしまった。
あとを追うようにリビングに入ろうとすると、入室が止められた。
仕方なく廊下を見渡すと、洗面所を見つけたので、手を洗った。
蛇口周りに一切の汚れがなく、使ってる洗剤までもが、高級感を醸し出していた。
手を洗い終えた頃に、リビングの方から、

「入っていいよ」

と聞こえたので、リビングに向かった。
リビングは、そこそこに整頓されていたが、ホコリがちらかっていた。
多分、僕みたいな人が唐突に家に来るとは思いもよらぬことで、散らかっていたものを整頓したのだろう。
取り敢えず、邪魔にならなさそうなところに荷物を置き、椅子に座った。
ちょっと一息ついていたら、暁さんの声がした。

「先に八雲くんの部屋を案内しとくね
   ちょっと着いてきて」

と言われたので、声のした方をむくと、リビングを出た先にある階段の前に彼女がいた。
いつの間にそんなところに
と、思ったが、きっと、椅子に座って休んでいる間に、手を洗ったりしていたのだろう。

「今行く」

と言って、僕も階段に向かう。
階段を昇った先には、小さめの部屋がいくつも並んでいた。
階段の一番近くの部屋には、「光」と書いてあった。
きっと、これが彼女の部屋だろう。
その隣には、「彼方」と書いてあった。
これは、きっと病院で話した、暁 光の妹の部屋だろう。
その次の部屋あたりかと思っていたが、結局彼女はその次の次の次の部屋に僕を連れていった。

「ここが今日から八雲くんの部屋だから
   この部屋は、昔に親戚が使ってたんだけど、もう使ってないんだ
   さっき見た部屋たちは、私の部屋とか、妹のとか、両親の部屋だから、入らないようにね」

なるほど。
確かに、海外に赴任したとは言えど、家族は家族だもんな。
帰ってきた時のために、部屋を残していたんだ。

「もちろん、そんなことはしないよ
   こんなにいい部屋を貰えただけで十分だから」

「それなら良かった
   ご飯を下で作ってるから、できたら呼ぶね
   それまで、この部屋を自由にアレンジしたりして待っててね」

「わかった」

「あと、布団はその押し入れの中に入ってるからさ
   使う時は出して、終わったらちゃんと片付ける
   それはきちんとやること」

「はーい」

「それじゃあ、下に行ってるから
   何かあったら呼んでね」

そう言うと、彼女は下に降りていった。
取り敢えず、押し入れを開けると、布団と、ハンガーがあった。
そういえば、下の階にカバンを置いてきてしまった。
部屋のことがあったので、完璧に忘れていた。
あの中には、色々なものが入っているので、とりあえず回収に向かう。
階段をおりて下の階に行き、リビングに入ると、

「何かあった?」

と、彼女が声をかけてきた。

「カバンとりにね
   部屋に置いておこうと思って」

そう言って、自室に向かった。
押し入れにあったハンガーに今日来ていた制服をかけた。
カバンを漁ると、朝に病院を抜け出すまで来ていた、パジャマが残っていたので、とりあえずそれに着替えておいた。
シンプルなものだから、来ていて文句も言われないだろう。

あとは、カバンの中身を整理したら、食事に行こう。
カバンの中には、降圧剤や鎮痛剤が、数週間分くらいはあった。
足りなくなったら、またあの病院に行ってもらうことにしようかな。
僕の担当の先生にだけ会えば、多分上手くやってくれるはずだ。
ただ、この薬たちを彼女に見られては行けないので、取り敢えず押し入れに隠しといた。
さすがに僕の部屋に来ることは無いだろう。

鎮痛剤はそれでいいかもしれないが、降圧剤は水がないと飲めない。
水筒にでも入れた水で飲むことにしようかな。
幸い、うちの学校は置き勉が許可されていたので、教科書の持ち帰りがなくて楽だ。
お陰様で、ロッカーが全生徒分完備されている。
しかも鍵付きで、容量もかなりある。
だから、僕もずっと置き勉をしている。
そのため、いくらかカバンに隙間があるので、水筒ぐらいは持ち運べそうだった。
それに、相当隙間があったからこそ、パジャマをカバンに押し込んで、学校に行けたわけだ。
取り敢えず、持って帰ってきた荷物を片付け終わった頃に、

「ご飯ができたよ」

と、声がかかった。

「今行くよ」

と、伝え、僕は部屋を出た。
にしても、彼女は本当に、僕みたいな知らない人を家に泊めてもよかったのだろうか。
こんなことをしていたら、いつか大変なことになりそうで心配だった。
下に降りると、すごいいい匂いがした。
ジューシーな肉の匂いだった。

「今日は、八雲くんがうちに来た記念ということで、ハンバーグにしてみたけどどうかな?」

「よくこんな上手く作れるね
   綺麗に肉の旨みが閉じ込められてるみたいで、凄いよ」

「ありがとう
   冷めないうちに食べちゃお
   そういえば、さっきから気になってたんだけど、そのパジャマはどこから来たの?
   もしかしなくても、カバンに入っていたとか」

「ぶっちゃけその通りだよ
   入院していた時に着てたものだね
   親がちょくちょく持ってきてくれたんだ」

「じゃあさ、そのパジャマなかなか古いんじゃない?」

「1年くらいかな
   ずっと来てたからヨレヨレだけどね」

「そうなんだ
   それじゃあ、いただきます」

「いただきます」

美味しい
久しぶりに食べたハンバーグは、最高の美味しさだった。
あまりの美味しさに、
2人ともずっと黙ったまま食べていて、気づいたらハンバーグが無くなっていた。

「美味しかった
   ご馳走様」

「ご馳走様
   片付けは私がやっておくから、お風呂はいってきていいよ」

「わかった」

そういや、風呂ってどこにあったっけ。
とりあえずトイレの方に向かってみると、トイレの隣が風呂だった。
自室に一度戻り、風呂用のタオルやら着替えやらをもって、もう一度風呂場に向かった。

さすがは豪邸といった感じで、風呂がとにかく大きかった。
3平方メートルぐらいは、ある感じで、とにかく凄かった。
体と髪の毛を洗って、湯船に浸かると、最高の心地だった。

できるなら、30分位は使っていたかったけど、病気のこともあるので、早めに上がってしまった。
もっと浸かりたいと思いながら、風呂場を後にした。
着替えを済ませてリビングに戻ると、片付けが完璧に終わっていて、食事前と同じ状態に戻っていた。
暁さんってほんとハイスペックだな。

ふと見渡したが、暁さんの姿がなかった。
とりあえず椅子に座っていると、階段をおりてくる音がした。

「それじゃあ、お風呂入ってくるね」

そう言って、彼女は風呂場に行ってしまった。
話し相手も居なければ、本もない。
暇で仕方が無いので、テレビをつけてみたが、自分には合わないコントやお笑いなど、くだらないものしかやってなかった。

持ち手無沙汰になった僕は、テレビの周辺を見回した。
すると、テレビの下を見ると、なんと将棋盤があった。
コマも揃っていたので、適当に並べてみてから、詰将棋をしてみた。
一人でやっていると、なかなか悲しい気持ちになるが、楽しかった。
8回目の詰将棋が終わったところで、暁さんが風呂から出てきた。

「あ、早速将棋盤が出てる
   元々今日は、八雲くんに勝つまでやろうと思ってたんだけど、いいよね?」

「いいよ」

いやなんかものすごい迫力で言われたもんで、驚いてしまった。
それからというもの、怒涛の7連戦が繰り広げられた。
だんだんと暁さんも上手くなってきているのだが、なかなか僕が詰むことは無い。
そんな訳で、なんとか7連戦を乗りきって、フッと一息ついた瞬間だった。
ものすごい睡魔が襲ってきたのだ。
そして、気がつけば朝になってしまっていた。
結局、彼女との試合は、7戦7勝で、僕の寝落ちで終わってしまったのだった。
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