あの七夕の日を忘れない

古明地 蓮

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久しぶりの買い物

忙しくない朝

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朝は何度でもやってくる。
暁家に来てから、とにかく寝覚めが最高になったと思う。
まず布団がいい。
とにかくいつも、ふかふかしていて、気持ちいい。
そして、枕もいい。
へなへなな枕ではなく、
しっかりとしている。
そんな訳で、最高の睡眠と最高の寝覚めを提供してくれている。
お陰様で、前まで嫌いだった朝が、好きになれそうな勢いだった。
朝は、貧血かつ低血圧の影響で、フラフラになってしまうから、嫌だった。
今では、その辛さよりも、心地良さの方が上回っていた。
僕は夢を見ない人だが、まれに悪い予兆として、夢を見ることもある。
例えば病気が発覚する前日に、何故か夢を見た。
あまり覚えていないが、とても悪いことの予感がした。
他にも、親の事故の時とかもそうだ。
だから、寝る前には、夢を見ないように、神に祈っている。
でも、あんまり神様について信じてはいない。
結局は自分の運と実力だと思っているからだ。
そろそろ本気で起きないと文句を言われそうなので、ちゃんと起きることにした。
起きて最初にすることは、自分の部屋の窓を開けることだ。
とにかく、朝日は健康にいいと先生から聞いている。
カルシウムの吸収に影響しているとか言っていた気もする。
まあ、今はそんなことは関係なくなっているが。
この勢いのまま、下の階に降りると、驚いてしまった。
暁さんがまだ寝ていたからだ。
正確には、まだ下の階に降りてきていなかった。
時計を見ると、朝ごはんを食べる時間過ぎそうだった。
しかし、彼女の部屋に入るのも気が引けた。
ふと、壁に目をやると、カレンダーが目に飛び込んできた。
昨日、学校で聞いた、昨日の日付から、今日の日付を計算すると、なんと今日は土曜日だった。
しかもカレンダーには、

「全休」

と書いてあった。
こんなことだったら二度寝したくなってしまうが、頭が痛くなるのでやめておいた。
昼寝でもなんでも、変な時に寝ると頭がとにかく痛くなる。
そんな訳で、暁さんが降りてくるまでの間、時間が出来てしまった。
そういえば、入ってはいけないとは言われていないが、入ってない部屋があるのを思い出した。
このリビングの隣にある、和室だ。
和室には、何故かピアノが置いてあるの走っていた。
ちなみに、少しだけピアノを引いたことはある。
最後に引いた覚えがあるのは何年も前だったが、ちょっと鍵盤に触れると、色んな曲を思い出した。
取り敢えず、自分が一番好きな曲を引いてみた。
誰の作曲家もわからない「モルダウ」だった。
この曲を知っている人ならわかるだろう。
サビ前のメロディーが非常に綺麗なのだ。
かなり昔の事だが、伴奏者でもないのに、曲が好きだから練習していた。
小学校で、6年生送る会で歌った時の事だ。
何故か、練習の日に、伴奏者が2人とも休みになって、誰も弾けなくなってしまったことがあった。
そんな時に、少しだけ練習した僕が引いたことがあった。
ほとんど最初のとこしか引けなかったが、楽しかったのを覚えてる。
でも、結局は本番に伴奏者がやってきたので、僕の出る幕はなくなった。
それでも、その時に練習したので、ほとんどの部分は弾けるようになっていた。
やっぱり、あの曲の和音はかっこよく響くので、弾いてて楽しい。
そんな訳で、僕が楽しく弾いていると、階段の方から物音がした。
ピアノを中断して、階段の方に向かうと、

「おはよう」

と、寝起きの暁さんに挨拶された。

「おはよう」 

と、ちゃんと返した。
「なんでこういう日ぐらいもうちょっと寝ないの?
   せっかくの休日ぐらい休もうよ」

「今日が休みなの知らなかったんだよ
   それで、朝早くに起きちゃってさ
   二度寝すると頭痛くなるから、二度寝もできないし」

「二度寝できない体質って辛いね
   そういえば、さっきモルダウ弾いてたでしょ」

「そうだけど?」

「朝の支度している間も弾いててくれない?
   モルダウは好きな曲なんだけど、弾けなくってね
   だから、家にいてモルダウが聞けるのは嬉しいんだ」

「そうだったんだ
   僕もモルダウ好きだから練習したんだよ
   分散和音だけでほとんど弾けてカッコイイからね」

「ちゃんとモルダウの良さがわかってくれる人がいたんだ
   全然話変わるけど、今日は何時に出かける?
    今がだいたい8時ぐらいだけど」

「10時に家を出るのでどうかな?
   店が開くのもそのぐらいだろうし」

「2時間もあれば、準備も終わるだろうしね
   それじゃあ、10時に家を出るために準備しようか」

「そうだね
   でも、暁さんが顔洗ってる間とかはピアノ弾いてるね」

「じゃあ、頼んだよ
   それとさ、いい加減苗字にさんとかくんとか付けて呼ぶのやめにしない?」

「確かにそうだね
   光だっけ」

「そうだよ
   蓮であってるかな」

「あってるよ
   名前で呼ぶようになったら、本当にカップルとかと間違われそうだね」

「家の中だけにしよっか」

「学校だけ元に戻せば良くない?
   こっちの方が呼びやすいし」

「そうしよっか
   それじゃあ、顔洗ったり、ご飯作ったりしてるね」

「分かった」

彼女がリビングに入っていったのをみてから、僕は和室に向かった。
さっきと同じように、モルダウを弾き始めた。
5回目ぐらいのモルダウの終えた時に、

「そろそろご飯になるからおいでー」

と言われたので、ピアノを元に戻し、リビングに行った。
すると、いつもは見ない可愛らしい服装の暁さんがいた。

「ほら、早く食べないと冷めちゃうよ」

「そ、そうだね」

「なんかあったの?」

「いや、暁さんの格好があまりに可愛かったから」

「買い物の日ぐらいいい服を着るもんじゃない?
   男子にはわかんないかな」

「その気持ちはわかるんだけどさ
   私服の暁さんを見るのが初めてだったから」

「なるほどね
   ま、急いで食べちゃおうよ
   買い物終わったら将棋したいからさ」

「いいね
   それじゃ」

「いただきます」

昨日と一緒で、2人の声が重なった。
テーブルの上には、ハムエッグと、トーストが置かれていた。
暁さんの料理はほんと美味しいなぁ、と思いながら食べていると

「そういえば、蓮の私服ってあるの?」

「1着だけは持ってるよ
   ジーパンにパーカーのなら」

「後で着てみてよ
   さすがにその格好で出かけるわけにも行かないし」

「今はパジャマだしね」

なんて会話をしながら食べていると、食べ終わっていまう。

「ごちそうさま」

食器を全てカウンターに置いて、

「それじゃあ、私服になってくる」

と言って、自分の部屋に行った。
私服に着替える前に、今日の薬を飲んだ。
病院にあった私服で、好きだったものだけ残っている。
あの時に、もしもの為にかばんに詰めておいたのだ。
お気に入りのジーパンにパーカーのセット。
ジーパンは紺色でパーカーは緋色だ。
あと、重ね着用の黒いパーカーを着た。
誰に買ってもらったのかも忘れたが、とにかく昔からお気に入りだった。
だんだんと体が成長するにつれて、服もサイズを合わせて買い続けた。
だから、このセットは何年も前から変化していない。
そんな、一番のお気に入りセットでしたに向かうと、

「意外と似合ってるね」

と、暁さんに言われた。

「女子に似合ってるって言われると嬉しいかな
   それじゃあ、片付けしたら出かける?」

「もういつでも出られるよ」

「それじゃあ、行こっか」

と言って、僕達は買い物に向けて出かけるのだった。
外は最高の天気で、冬なのに少し暖かく、晴れていた。
いつもこんな日がいいのになぁと思ってしまうのだった。
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