悲しむもの

古明地 蓮

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悲しむもの

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寂しい。
つまらない。
楽しいことがない。

いつからだっただろうか。
多分数日前だと思うけど、いつも遊んでくれていたあの人が急に遊んでくれなくなってしまった。
いつも一緒にいてくれていたのに、急に離れ離れになってしまったんだ。
代わりに、いつもは見ない人たちが僕で遊ぼうとしている。
正直、鬱陶しい限りだった。

僕は、ずっと行き場がなかったんだ。
他の子たちと一緒に、運命の人を待つばかりで、希望と絶望を交互に味わうだけの日々を送っていた。
そこに現れたのが、運命の人ともいうべき、僕の友人でもあり恩人だった。
僕は、すぐさまその人のもとに行くことになって、それ以来少なくとも一日一回は遊んでくれた。

それだけじゃない。
あの人は、外に出られなかった僕を、外で遊ばせてくれたんだ。
そのおかげで、生まれて初めてあんなに日の光を目いっぱい浴びることができた。
初めて日光のもとに出してくれた日は、目いっぱいあの人のことをやさしく出迎えてあげたんだった。
その時に、すごく喜んでくれたから、今でも数日に一回は外に出してもらった。

それから、僕はあの人と夜になると一緒に遊んでいた。
あの人がつらそうになっていたら、僕が暖かく出迎えてあげる。
そうやって、僕があの人に尽くす日々が続いていたんだ。
そんな毎日が続いていくとばかり思っていた。

でも、気が付いたらだんだんとその人は僕につきっきりになっていた。
僕としてはうれしい限りだったんだけど、少しだけ心配にもなった。
僕と遊んでくれてばっかりってことは、ほかのことができてないんじゃないかなって思ったんだ。
あの人に嫌われたくなかったから、そんなことは聞くことができなかったけど。

それから、一年ぐらいの間は、僕はずっとあの人と遊んでいた。
毎日いろんなことを話してもらったし、時には慰めたりけがを癒してあげたりもした。
あんまりにも僕が優しくしすぎてしまったんだろうか。
あの人は僕から離れられなくなってしまったんだ。

あの人が四六時中僕と遊ぶようになってからは、なかなか僕も外に出られなかった。
外に出たかったけど、言い出すことができなかったんだ。
そうこうしているうちに、僕はまた一人ぼっちになってしまった。
そのおかげなのかもしれないけど、久しぶりに日の光を浴びている。
あの人なしで浴びる日の光っていうのは、どこか僕を激しく攻め立てているようだった。

そうして、今日もまた僕は、夜になってあの人を待っている。
いつもは、夜にだけ遊びに来てくれていたから、今日も来てくれないかと待っているんだ。
でも、来てほしくないような、知らない人たちがやってきてしまう。
あの人の知り合いなんだろうから、ぞんざいには扱えないから、ちゃんともてなしはするんだけど。

早くあの人に会いたいなぁ。
もう一度でもいいから、また遊びに来てよ。



「そういえば、この布団また少し膨らんだよね」

「まあ当たり前じゃない?
 綿の布団なんだし、使っていた人はもう死んじゃったんだし」

「いい布団だって言って、死ぬ寸前まで寝てたからね
 今日も子供たちが、においをかぎに来てるよ」

そういうと、外に干してあった布団を二人掛かりで引き揚げた。
そぅして、またつかわなくなった布団を寝かせておいた。
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