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夢探し
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僕は、夢を嫌った。
昔は、いろんな夢を持っていたし、叶えるためにたくさん努力もした。
でも、ふとした時に努力はむだになった。
まるで砂漠の砂のように。
僕は白い天井を見つめるだけの生活をしている。
無意味としか思えない大量の薬で、崩れ落ちそうな体を支えている。
どうせ長くは持たないとわかりきっているのに。
僕は、いろんな重病を患っていた。
そのことにさえ、知ったのは最近のことだ。
これまでに、何度も体に激痛が走ったことがあったけど、気にしないでいた。
それが、まさかここまで重い病気に起因していたとは、思いもよらなかった。
病気と知られてからは、僕はずっと入院している。
追いかけていたすべての夢も、あきらめざるを得なかった。
自分の特技としていた、緻密な作業が禁止されてしまったから。
だから、自分にとって無意味にしか感じられない日々が続いていた。
もう、いっそのことこんな人生辞めてしまいたいと思うほどに。
弱り切った手を、握ったり伸ばしたりしてみる。
力がないのが、火を見るより明らかになってしまった。
それがあまりにも悲しくて、布団で顔を覆い隠した。
そうして、僕は瞼を閉じた。
まるで最後の眠りにつくかのように。
僕は誰かの背中を見ていた。
その人は、ピアノの音を綺麗に操っていた。
いろんな人の注目を集めながら、美しい旋律を重ねていく。
一通り弾き終わると、拍手が響き渡り、蜃気楼のごとく消えた。
そして、また誰かを見ていた。
その人は、何度もキャンパスに筆をぶつけていた。
その絵は、本来見えないはずの何かを映し出すような色合いしていた。
そして、最後に「最後の夢」と題名を書き記した。
次の人は、工芸をしていた。
美しい陶器のお皿に、紋様を付けていた。
等間隔に、きれいに並べられた紋様は、万華鏡でも眺めているような気分に浸らせた。
その人は、お皿に満足したように笑い、次のお皿を近くの棚から取り出した。
それから、いろんなことをしている人を見続けた。
計算をしている人、実験をしている人、困っている人を助けている人。
誰一人とっても、自分のしていることを誇らしげに思い、働いているようだった。
人間の鏡のような人たちだった。
でも、その人たちを見て、僕はつらい思いをした。
それは、一人目の人を見た瞬間に気が付いた。
これは、僕の夢が叶った時の姿なんだなって。
見てきた人全員が、一度は僕が夢に見たことをやっていた。
人間でもなんでも、鏡は見ている人を映し出す。
あの人たちのことを見ていたら、自分の情けなさが目についてしまったんだ
自分では、彼らがやっていることのどれももうできない。
もう目をふさいでしまいたい。
そう思って、僕は自分の手で目をふさいだ。
目が覚めると、ひどくうなされていたように、寝汗がぐっしょりとしていた。
白い部屋が、丁度日が昇り始めるころの、朝焼けに包まれた。
僕は、近くにあったスマホを取ると、いつもはあまり開かないソフトを開いた。
それは、小説を書くための、縦書きライター
そこには、過去に何度も挫折した、未完の小説がたまっていた。
震える手で新しい小説を作成して、題名を書き込む。
「夢の中で」
そうして、最初の一文を考えている間に、僕の視界は真っ白に包まれた。
昔は、いろんな夢を持っていたし、叶えるためにたくさん努力もした。
でも、ふとした時に努力はむだになった。
まるで砂漠の砂のように。
僕は白い天井を見つめるだけの生活をしている。
無意味としか思えない大量の薬で、崩れ落ちそうな体を支えている。
どうせ長くは持たないとわかりきっているのに。
僕は、いろんな重病を患っていた。
そのことにさえ、知ったのは最近のことだ。
これまでに、何度も体に激痛が走ったことがあったけど、気にしないでいた。
それが、まさかここまで重い病気に起因していたとは、思いもよらなかった。
病気と知られてからは、僕はずっと入院している。
追いかけていたすべての夢も、あきらめざるを得なかった。
自分の特技としていた、緻密な作業が禁止されてしまったから。
だから、自分にとって無意味にしか感じられない日々が続いていた。
もう、いっそのことこんな人生辞めてしまいたいと思うほどに。
弱り切った手を、握ったり伸ばしたりしてみる。
力がないのが、火を見るより明らかになってしまった。
それがあまりにも悲しくて、布団で顔を覆い隠した。
そうして、僕は瞼を閉じた。
まるで最後の眠りにつくかのように。
僕は誰かの背中を見ていた。
その人は、ピアノの音を綺麗に操っていた。
いろんな人の注目を集めながら、美しい旋律を重ねていく。
一通り弾き終わると、拍手が響き渡り、蜃気楼のごとく消えた。
そして、また誰かを見ていた。
その人は、何度もキャンパスに筆をぶつけていた。
その絵は、本来見えないはずの何かを映し出すような色合いしていた。
そして、最後に「最後の夢」と題名を書き記した。
次の人は、工芸をしていた。
美しい陶器のお皿に、紋様を付けていた。
等間隔に、きれいに並べられた紋様は、万華鏡でも眺めているような気分に浸らせた。
その人は、お皿に満足したように笑い、次のお皿を近くの棚から取り出した。
それから、いろんなことをしている人を見続けた。
計算をしている人、実験をしている人、困っている人を助けている人。
誰一人とっても、自分のしていることを誇らしげに思い、働いているようだった。
人間の鏡のような人たちだった。
でも、その人たちを見て、僕はつらい思いをした。
それは、一人目の人を見た瞬間に気が付いた。
これは、僕の夢が叶った時の姿なんだなって。
見てきた人全員が、一度は僕が夢に見たことをやっていた。
人間でもなんでも、鏡は見ている人を映し出す。
あの人たちのことを見ていたら、自分の情けなさが目についてしまったんだ
自分では、彼らがやっていることのどれももうできない。
もう目をふさいでしまいたい。
そう思って、僕は自分の手で目をふさいだ。
目が覚めると、ひどくうなされていたように、寝汗がぐっしょりとしていた。
白い部屋が、丁度日が昇り始めるころの、朝焼けに包まれた。
僕は、近くにあったスマホを取ると、いつもはあまり開かないソフトを開いた。
それは、小説を書くための、縦書きライター
そこには、過去に何度も挫折した、未完の小説がたまっていた。
震える手で新しい小説を作成して、題名を書き込む。
「夢の中で」
そうして、最初の一文を考えている間に、僕の視界は真っ白に包まれた。
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素敵な作品を読ませて頂き有難うございました。
感想ありがとうございます
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それでも努力し続けたらいいのはわかっていても、ちょっと嫌気が刺してきて、やめたいって思ってしまうんです
でも、成功した後には、そんなこともいい思い出って語れるのかもしれませんね
その日まで努力していかないとですね