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始まりは
始業式
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始業式
それは、学生にとってかなり苦痛な行事だ。
学期はじめに、わざわざ校長先生などの話を聞かなくちゃいけないのは、精神的につらい。
その感覚は、僕も例外ではなく、体育館に集まって棒立ちで話を聞くのは耐えがたいものがあった。
高校二年生にもなったので、どうにかして堪えてる。
しかし、唯一僕のクラスだけ、ほかのクラスに比べて少し気が楽だった。
なにせ、始業式の後に楽しみがあるんだから。
教頭先生が締めくくって、始業式は幕を閉じた。
それから、僕らのクラスの生徒だけ、飛ぶように駆けて教室に戻った。
僕も、集団に紛れて教室に帰ると、すでにあるうわさが飛び交っていた。
それは
「今日から転校生が来るって本当?」
「らしいよ
多分女子ってことしかわかってないけど」
そう
転校生の存在だ。
小学校や中学校の時は、転校生は何回か来ることがあったけど、高校にもなると転校生はいないものだと思っていた。
なにせ、受検して入ってくるんだから、あとから入学するにはそれなりに難しい面があるはず。
だからこそ、今回の転校生には、胸が躍った。
みんなで転校生に関する憶測を飛ばし合っていた時、教室の前の扉が静かに空いた。
駄弁っていた人も、そうでない人も蜘蛛の子を散らすように席に着いた。
そして、おじいちゃん先生が教室に入ってきた。
教卓に手をつくと、前かがみに僕らのことをみて
「すでに憶測が飛んでいるようだけど、今日から転校生が来ることになった
まあ、少し訳アリだけど、ちゃんと仲良くするように」
そういうと、先生は軽く駆け足になって、さっき出てきた扉の外に出た。
そうして、一人の女の子を連れて戻ってきた。
その光景に、僕は強烈な違和感を覚えた。
普通なら、先生がわざわざ駆け寄って連れてくる必要なんてないはずだ。
ただ一言声をかければ済むはずだから。
それをやらずに、わざわざ会いに行ったのには、訳アリというだけの理由があるのかもしれない。
なんて、自分勝手な推理を、頭の中にクモの巣を作るように張り巡らしていた。
すると、先生が普段使わないパソコンをモニターに接続し、謎の画面を映し出した。
それは、さながらホワイトボードのようで、どうやらそこに文字打ち込めるらしい。
先生が使うのかと思ったら、どうやらそうでもないようで、転校生をパソコンの前に座らせた。
そうして、先生は教卓に戻り、口を開いた。
「彼女が転校生の水上(みなかみ) 真央(まお)さんだ
彼女は、ちょっとした脳の病気を持っていて、声が届かないんだ」
脳の病気?
声が届かない?
不穏な二つのフレーズが、頭の中で鳴り響いた。
声が届かないって、どういうことだろう。
聴力がないなら、脳の病気ではないだろうし。
すると、先生の机の方で、キーボードをたたく音がした。
モニターを見ると、何やら言葉が書かれていた。
立て続けの情報の整理に、脳が悲鳴を上げそうだったけど、好奇心というエネルギー源を最大限活用して、何とか情報を取り入れた。
「私の名前は水上真央です
これから二年間お世話になります」
「私は、これまで特別支援学級にて、勉強してきました
普通学級にお邪魔するのは、ほとんどなかったので、緊張してます」
と、ホワイトボードに文字を打ち込んだ。
それまでに、一度全部消しているのは、きっと文字数的にはいらなかったんだろう。
「私には声が届きません
それは、音が聞こえないというものとは、また形質が違います」
「音は耳に入るのですが、それが言葉として認識できないのです
結果として、皆さんの声は私には理解できないのです
また、見てわかるように私自身も、声を出すことができません」
決定的な情報が、モニターに表示された。
声が言葉として認識できないという、想像しがたい言葉がつづられた。
すると、理解しやすい具体例が示された。
「それは、読書に集中しているとき、周りが何を言っていても、うまく理解できないときがありませんか
目から入る文字ばかりに集中していて、耳から入る声が、うつろなものに聞こえてしまうような状態が、続いていると思ってください」
軽く具体例から考えてみただけでも、かなり大変な状況にあることが分かった。
声で会話が取れないというのは、不便極まりないと思う。
今みたいに、モニターのように映し出せるものでも持ち歩かないと難しいんじゃないだろうか。
「普段はタブレットを持っているので、そこに文字を打って話しています
これからも同じようにする予定なので、気を使ってくれると助かります」
「できれば、皆さんと仲良くしたいと思っていますので、話しかけてもらえると嬉しいです
どうか、二年間よろしくお願いします」
そこまで打って、キーボードの音は止まった。
打ち終わったとき、声を出している人は一人もいなかった。
僕も、頭の整理を追いつかせようと必死になっていた。
なんせ、ここまで訳アリの人だと、どうやって接していいのかもわからない。
すると、予想外のところから声が上がった。
「これで彼女の紹介は終わり
それで、席は空いてるから、秦野(はたの)の隣に座ってもらうか
半年、面倒見頼んだぞ」
え、僕の隣?
まさかと思って、隣の席を見ると、案の定誰も座っていなかった。
新学期だったから、席が新しくなっていて、その時に僕の隣だけいなかった。
うれしいけど、どう接したらいいのかわからない戸惑いがあり、複雑な気分で
「は、はい」
と、答えた。
中途半端な僕の声が、教室中を乱反射しているのが、何度も耳に入り、すごい恥ずかしい気分になった。
それから、先生がその他の連絡事項を伝え終わると、僕の隣に水上さんが座った。
すると、持ってきたリュックから、タブレットを取り出して、きれいな字で
「よろしくお願いします」
と書いて、僕に渡してきた。
ぎこちない手つきで、画面の文字を消して、今度は自分の字で
「こちらこそよろしくお願いします」
と書いて、水上さんの机に返してあげた。
すると、水上さんはうっすらとほほ笑んで、僕の字を保存すると、また全部の字を消して、僕との机の間に置いた。
多分、どっちからでも話しかけられるようにするためなんだろう。
水上さん字を保存しているとき、慌てて僕はそれを止めようと思ったけど、手段がなくてあきらめた。
自分の字を、保存されてると思うと、恥ずかしい。
まるで、自分で書いた自画像を盗まれた気分だ。
それからも、水上さんとお話しできたらと思って、タイミングを計った。
けど、その日はあいにくと、授業がない日だったので、すぐに解散になってしまった。
ただ隣になって、あいさつしただけの人が、解散した後にも話しかけてきたら不自然だろうし、断念して明日にかけることにした。
それにしても、楽しそうな日々が始まりそうだなぁ
なんか、ちょっとだけ悔しいな
それは、学生にとってかなり苦痛な行事だ。
学期はじめに、わざわざ校長先生などの話を聞かなくちゃいけないのは、精神的につらい。
その感覚は、僕も例外ではなく、体育館に集まって棒立ちで話を聞くのは耐えがたいものがあった。
高校二年生にもなったので、どうにかして堪えてる。
しかし、唯一僕のクラスだけ、ほかのクラスに比べて少し気が楽だった。
なにせ、始業式の後に楽しみがあるんだから。
教頭先生が締めくくって、始業式は幕を閉じた。
それから、僕らのクラスの生徒だけ、飛ぶように駆けて教室に戻った。
僕も、集団に紛れて教室に帰ると、すでにあるうわさが飛び交っていた。
それは
「今日から転校生が来るって本当?」
「らしいよ
多分女子ってことしかわかってないけど」
そう
転校生の存在だ。
小学校や中学校の時は、転校生は何回か来ることがあったけど、高校にもなると転校生はいないものだと思っていた。
なにせ、受検して入ってくるんだから、あとから入学するにはそれなりに難しい面があるはず。
だからこそ、今回の転校生には、胸が躍った。
みんなで転校生に関する憶測を飛ばし合っていた時、教室の前の扉が静かに空いた。
駄弁っていた人も、そうでない人も蜘蛛の子を散らすように席に着いた。
そして、おじいちゃん先生が教室に入ってきた。
教卓に手をつくと、前かがみに僕らのことをみて
「すでに憶測が飛んでいるようだけど、今日から転校生が来ることになった
まあ、少し訳アリだけど、ちゃんと仲良くするように」
そういうと、先生は軽く駆け足になって、さっき出てきた扉の外に出た。
そうして、一人の女の子を連れて戻ってきた。
その光景に、僕は強烈な違和感を覚えた。
普通なら、先生がわざわざ駆け寄って連れてくる必要なんてないはずだ。
ただ一言声をかければ済むはずだから。
それをやらずに、わざわざ会いに行ったのには、訳アリというだけの理由があるのかもしれない。
なんて、自分勝手な推理を、頭の中にクモの巣を作るように張り巡らしていた。
すると、先生が普段使わないパソコンをモニターに接続し、謎の画面を映し出した。
それは、さながらホワイトボードのようで、どうやらそこに文字打ち込めるらしい。
先生が使うのかと思ったら、どうやらそうでもないようで、転校生をパソコンの前に座らせた。
そうして、先生は教卓に戻り、口を開いた。
「彼女が転校生の水上(みなかみ) 真央(まお)さんだ
彼女は、ちょっとした脳の病気を持っていて、声が届かないんだ」
脳の病気?
声が届かない?
不穏な二つのフレーズが、頭の中で鳴り響いた。
声が届かないって、どういうことだろう。
聴力がないなら、脳の病気ではないだろうし。
すると、先生の机の方で、キーボードをたたく音がした。
モニターを見ると、何やら言葉が書かれていた。
立て続けの情報の整理に、脳が悲鳴を上げそうだったけど、好奇心というエネルギー源を最大限活用して、何とか情報を取り入れた。
「私の名前は水上真央です
これから二年間お世話になります」
「私は、これまで特別支援学級にて、勉強してきました
普通学級にお邪魔するのは、ほとんどなかったので、緊張してます」
と、ホワイトボードに文字を打ち込んだ。
それまでに、一度全部消しているのは、きっと文字数的にはいらなかったんだろう。
「私には声が届きません
それは、音が聞こえないというものとは、また形質が違います」
「音は耳に入るのですが、それが言葉として認識できないのです
結果として、皆さんの声は私には理解できないのです
また、見てわかるように私自身も、声を出すことができません」
決定的な情報が、モニターに表示された。
声が言葉として認識できないという、想像しがたい言葉がつづられた。
すると、理解しやすい具体例が示された。
「それは、読書に集中しているとき、周りが何を言っていても、うまく理解できないときがありませんか
目から入る文字ばかりに集中していて、耳から入る声が、うつろなものに聞こえてしまうような状態が、続いていると思ってください」
軽く具体例から考えてみただけでも、かなり大変な状況にあることが分かった。
声で会話が取れないというのは、不便極まりないと思う。
今みたいに、モニターのように映し出せるものでも持ち歩かないと難しいんじゃないだろうか。
「普段はタブレットを持っているので、そこに文字を打って話しています
これからも同じようにする予定なので、気を使ってくれると助かります」
「できれば、皆さんと仲良くしたいと思っていますので、話しかけてもらえると嬉しいです
どうか、二年間よろしくお願いします」
そこまで打って、キーボードの音は止まった。
打ち終わったとき、声を出している人は一人もいなかった。
僕も、頭の整理を追いつかせようと必死になっていた。
なんせ、ここまで訳アリの人だと、どうやって接していいのかもわからない。
すると、予想外のところから声が上がった。
「これで彼女の紹介は終わり
それで、席は空いてるから、秦野(はたの)の隣に座ってもらうか
半年、面倒見頼んだぞ」
え、僕の隣?
まさかと思って、隣の席を見ると、案の定誰も座っていなかった。
新学期だったから、席が新しくなっていて、その時に僕の隣だけいなかった。
うれしいけど、どう接したらいいのかわからない戸惑いがあり、複雑な気分で
「は、はい」
と、答えた。
中途半端な僕の声が、教室中を乱反射しているのが、何度も耳に入り、すごい恥ずかしい気分になった。
それから、先生がその他の連絡事項を伝え終わると、僕の隣に水上さんが座った。
すると、持ってきたリュックから、タブレットを取り出して、きれいな字で
「よろしくお願いします」
と書いて、僕に渡してきた。
ぎこちない手つきで、画面の文字を消して、今度は自分の字で
「こちらこそよろしくお願いします」
と書いて、水上さんの机に返してあげた。
すると、水上さんはうっすらとほほ笑んで、僕の字を保存すると、また全部の字を消して、僕との机の間に置いた。
多分、どっちからでも話しかけられるようにするためなんだろう。
水上さん字を保存しているとき、慌てて僕はそれを止めようと思ったけど、手段がなくてあきらめた。
自分の字を、保存されてると思うと、恥ずかしい。
まるで、自分で書いた自画像を盗まれた気分だ。
それからも、水上さんとお話しできたらと思って、タイミングを計った。
けど、その日はあいにくと、授業がない日だったので、すぐに解散になってしまった。
ただ隣になって、あいさつしただけの人が、解散した後にも話しかけてきたら不自然だろうし、断念して明日にかけることにした。
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