音よ届け

古明地 蓮

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目標への道と...

可能性に溺れる

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それから、山縣も混ぜての創音活動が始まった。
と言っても、何故か山形の演奏はほとんどなかった。
僕はその間も、ずっとドラムをたたかされていたんだけど。

僕らの空間だけ、純粋な音で満たされている。
それは、言葉とかのほかの意味を持たない、完全なる音の集合だ。
しかも、それが詩的に聞こえるんだから、本当に言葉のない詩ができていく。

四人集まっての作曲活動はこんな感じだった。
まず僕が一定のリズムでドラムをたたく。
それを聞きながら、水上さんたちが中心となる音を作る。
それがある程度できたら、山縣に弾いてもらう。

でも、かなり早くのうちにとりあえずの目標は一つ達成できた。
それはメロディラインの作成だ。
これが決まるだけで、あとは和音の広がりや強弱などを付けるだけでかなり完成に近づく。
だから、今日でこれができたのはかなりの収穫と言えると思う。
しかし、メロディ自体よりも大問題なものができてしまったんだ。

普段は、メロディは曲の中心にあるものだから、慎重に組んでいくからものすごい時間がかかる。
でも、今回は水上さんの力があるおかげで、かなりスムーズに進んだんだと思う。
僕らがイメージする曲調にあったメロディを、水上さんが自慢の感性で組んでいってくれた。
だから、予想の数倍の速さでその作業は終わった。

メロディさえできてしまえば、こっちのものだと錯覚していた。
実際に大変なのはこれからまだまだあるというのに。
いつもは、半分ぐらいこっちが決まってから作っていたから、考えなくてすんでいたのかもしれない。

それは、作詞だ。
諒一は、いつもの調子で歌う予定だったんだけど、これがなかなか難しい。
それには、いつもと今回で全然違う部分があるせいだ。
それは

「水上さんが作るメロディって完璧すぎるんだよね
 そのせいで、うまい感じに歌詞が乗らないんだよ」

歌詞がメロディにかみ合わないんだ。
あんまりにも完ぺきなメロディすぎて、それ自体に詩的な意味を表現してしまっている。
それは、音楽としては多分最骨頂なんだろうけど、今の僕らには困る。
なんせ、僕らが作りたいのは歌なんだから。

それから、僕らはせっせと歌詞を考えた。
僕がドラムをたたきながら、山縣はメロディを弾く。
それに合わせて、諒一がリズムに合う歌詞を見つける。
いつもとは順序が逆だから、全然進まなかったけど。

いつもの作曲は、大体歌詞が先に決まっている。
完全な歌詞じゃないけど、大まかな流れは決まっているんだ。
そして、それに合うメロディを見つけつつ、歌詞とのすり合わせをしていく。
だから、言葉のリズムとかはメロディでの調整が多かった。
この方法だと、かなり簡単に歌が作れるから便利だったんだ。

でも、確かにいつもの方法にも問題はあった。
それは、納得のいくメロディラインが創れないこと。
どうしても歌詞に合わせて作るせいで、これだって思えるぐらい綺麗なメロディはできなかったんだ。
しかし、今回採用した方法だと、完璧だと思えるメロディが作れるから、その点を補うことはできた。

今回この方法をとったのには、やっぱり水上さんが大きくかかわっている。
水上さんには、メロディで詩を表現できるぐらいの作曲センスがある。
だから、早めに水上さんにメロディを組んでもらえば、早くから練習できると思ったんだ。
でも、創音っていうのはそうそう近道があるわけじゃないし、近道を探せば粗雑になる。
結局いつもとは反対の道を通っただけで、かかる時間はあんまり変わらない気がしてきた。

なんて、無駄な思考をし続けられるのも、僕がドラマーだからだろう。
ドラムは一定のリズムでたたき続ければいいので、ほかのことを考えていても問題はない。
ある程度の強弱さえつけられれば今は問題ないんだ。

それから、長い間作詞が行われた。
少し決まっては、少し削って、五線譜の上をカタツムリが歩くような作業だった。
やっと一番の歌詞ができるかできないかのうちに、水上さんが諒一の肩をたたいた。
諒一は水上さんの方を振り返ると、水上さんからタブレットを渡された。
それを見た諒一は、一瞬驚いた表情をしてから、僕らにもタブレットを見せた。
そこに書かれてたのは

「どうして詩を乗せようとするんですか?
 このメロディだけで十分だと思います」

だった。
文字を認識して、意味を理解した瞬間に、反射的に反抗しようとした。
でも、その手をいったん自分で押さえて考え直してみた。
本当に歌詞は必要だろうかって。

歌詞が合ったほうが、ちゃんと言葉で伝えたいことを伝えられる。
それに、言葉も芸術の一種だから、相乗効果的にもっといいものが生まれる。
でも、それを達成するのに本当に言葉は必要だろうか。
楽器の音だけで表現しきることは本当にできないんだろうか。

楽器が奏でる音だって、無数の可能性を秘めている。
それを組み合わせれば、歌が必要ない音楽を作れたりしないだろうか。
もしかしたら、歌がなくても伝えたいことが伝えられる音楽だって作れるかもしれない。
水上さんの感性があれば可能な気がする。

僕は、自分の頭の中で答えを導き出すと、顔を上げた。
そして、ほかの二人顔をうかがった。
すると、山縣が何か言いたそうにしていた。
僕は、山縣に発言を促した。

「山縣、何か言いたいことがあるの?」

そう聞くと、山縣は諒一と僕の顔を交互に見てから

「僕は歌詞が絶対必要だと思う
 歌詞があるからこそ伝わるものがあると思うし、歌詞がなければ曲の中心がなくなってしまう
 そしたら、音楽が拡散してしまうと思う」

と、山縣らしくない感情的になりながらも、言葉遣いに気を付けつつ言った。
それを聞いた僕は、確かに山縣の意見に一理あるとも思った。
でも、それはやってみなくちゃわからないような気もした。
結局、僕は諒一に意見を聞いてから決めるっていう、優柔不断なことをしてしまった。

「諒一はどう思う?」

すると、諒一はいつになく悩みこんだ様子で、うつむきつつ答えた。

「確かに山縣が言うのもわかるんだよ
 でも、一つの挑戦として、歌がない音楽ってのも作ってみたら面白いんじゃないかなって思うんだ
 水上さんの作曲センスと、みんなの力があれば、もっと大きな可能性に挑める気がするんだよ」

と言った。
それを聞いた僕は、諒一の意見に共感しつつ、言葉を添えた。

「僕も諒一の意見に賛成かな
 水上さんがいれば、なんだか不可能なことがないように思えちゃうんだよね」

そういうと、今度は山縣が押し黙った。
まあ、この状況だったら仕方ないかもね。
すると、また議論に横やりが入ってきた。
水上さんからタブレットが渡された。
そこに書いてあったのは、

「いったんゆっくりでいいから演奏してみたらどうかな
 それで満足できなければ、歌詞を乗せればいいだけだからね」

って書かれていた。
みんな完璧に忘れていた一番簡単な解決法だ。
やってみて不満があれば治していく。
顔を上げて、二人の顔見るとどちらもこの作で納得したようだった。
だから僕は、四人分の楽譜の印刷を始めた。
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