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1章:勇者誕生
5話:旅立ちの夜、戦士の決意(ウェル視点)
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夜になり、村の家から灯りが消えていく頃。
俺はひとり明日からの冒険の旅に向けて部屋で荷造りをしていた。
とはいえ、自分の荷物なんて大したものはない。
農作業用の麻袋を再利用した肩掛けの鞄に、着替えとロープとナイフ、干し肉を少し。
そして、家の倉庫に置かれていた古い木刀。
俺自身が勇者に選ばれたわけじゃないのに、どうしてこんなにそわそわしているのだろう。
「……本当に、あの子が勇者だなんて」
麻袋の口を縛りながら、ため息がこぼれる。
エイミーは、小さいころからか弱くて、内気で、村の男の子にからかわれてよく泣いていた子だ。
言い返す勇気なんてなくて、いつも肝っ玉母ちゃんの後ろに隠れている。
エイミーの母さんが居ないときは「ウィル、助けて……」って小さく袖を掴んでくるような、守ってあげないといけない子。
そんなエイミーが、500年ぶりに現れた『勇者』だった。
村のみんなは、口では祝福しているけれど、きっと心の底では心配しているはずだ。
それは俺だって同じだ。
祠で剣を抜いた時の彼女の顔が、忘れられなかった。
驚きと絶望が入り混じったような表情。
(あんな顔、今まで一度も見たことなかった……)
勇者に選ばれた瞬間、彼女は明らかに怯えていた。
それでも、俺の名前を呼んでくれた。
頼ってくれた。
それが、嬉しかった。
(……守りたいって、思っちゃうんだよな)
俺は冒険の経験なんてない。
農作業しか知らない。
魔物の相手なんてしたこともない。
でも、それはエイミーだって同じはずだ。
俺より体格が小さく力も弱い彼女が世界を救うなんて、誰も想像出来ないだろう。
「……絶対、俺が支えてやらないと」
窓の外を見ると、大きな満月が夜空に浮かんでいた。
静かで、優しい光。
まるで、これから始まる旅を祝福しているようだった。
俺は、なんとなく家を出た。
体が勝手に、川の方へ向かっていた。
小さいころ、よくエイミーと遊んだ場所。
(彼女が泣いた時は、よくここで慰めたっけ……)
川辺に近づくと、そこには、
(……エイミー?)
彼女がいた。
ひとりで月明かりに照らされて立っていた。
風に髪を揺らし、静かに川を見つめている横顔は、どこか今までより大人びて見えた。
「エイミー……?」
俺は名前を呼んでいた。
その声に、彼女はゆっくりと振り向いた。
俺だと気づくと、慌てた様子で手をぶんぶん振る。
「いや、ひとりでちょっと考え事してて!!」
昔から、彼女は嘘がへたくそだ。
でも、今日の彼女は、どこか違う。
剣を抜いてからのエイミーは、ほんの少しだけ強くなったように見える。
堂々としているというか、はっきり物を言うというか。
(……これが、勇者に選ばれた覚悟ってやつなのかな)
そんなことを考えながら、そっと問いかけた。
「眠れないの?」
突然、エイミーは顔を両手で覆い、くぐもった声でつぶやいた。
「イケメンは心臓に悪い……」
「イケ、メン……?」
聞き慣れない単語に首をかしげる。
何を意味しているのか分からないけど、今日一日で彼女が不安と緊張に押しつぶされそうになっていることくらい、俺でも分かる。
「緊張するよね。この村から出ることになるなんてさ」
そう言うと、エイミーは顔を上げ、じっと月を見た。
その横顔はどこか張りつめていて、胸が痛くなる。
「……ごめんね」
「え?」
突然の謝罪に、思わず聞き返してしまう。
「巻き込んでしまって……。本当は私だけが村を出るのがシナリオ……じゃなくて、村を出るはずだったんだけど……」
言葉に詰まりながらも、申し訳なさそうにこちらを見る。
勇者に選ばれたのは彼女なのに、俺の心配をするなんて。
(少し性格が変わった気がしても……やっぱりエイミーはエイミーだ)
根っこにある優しさは、ずっとそのままだ。
だから、本音を少しだけ偽った。
「俺は……君と一緒に冒険できることが、楽しみだよ」
勇気を振り絞って笑う。本当は俺も不安でいっぱいだ。
モンスターなんて見たこともないし、剣だってモンスターに向けたことすら無い。
でも、エイミーをひとりで行かせるなんてできない。
「だから、困ったことや不安なこと……、俺を頼ってほしいな」
エイミーは、一瞬きょとんとしたあと、ふわっと花が咲くみたいに笑った。
「ウィル……」
月明かりが彼女の頬を照らし、その表情は胸に刺さるほど綺麗で。
思わず息をのんでしまった。
(……だめだ。今はそんなこと、考えちゃだめだ)
俺は彼女を守るって決めたんだ。
勇者である彼女のそばで、支え続けるんだ。
そのためにも、俺が強くならないと。
(……よし)
心の中で強くつぶやいた。
エイミーが勇者なら、俺は彼女にとって最高の戦士になる。
この夜、静かな川辺で、俺は密かに決意を固めた。
俺はひとり明日からの冒険の旅に向けて部屋で荷造りをしていた。
とはいえ、自分の荷物なんて大したものはない。
農作業用の麻袋を再利用した肩掛けの鞄に、着替えとロープとナイフ、干し肉を少し。
そして、家の倉庫に置かれていた古い木刀。
俺自身が勇者に選ばれたわけじゃないのに、どうしてこんなにそわそわしているのだろう。
「……本当に、あの子が勇者だなんて」
麻袋の口を縛りながら、ため息がこぼれる。
エイミーは、小さいころからか弱くて、内気で、村の男の子にからかわれてよく泣いていた子だ。
言い返す勇気なんてなくて、いつも肝っ玉母ちゃんの後ろに隠れている。
エイミーの母さんが居ないときは「ウィル、助けて……」って小さく袖を掴んでくるような、守ってあげないといけない子。
そんなエイミーが、500年ぶりに現れた『勇者』だった。
村のみんなは、口では祝福しているけれど、きっと心の底では心配しているはずだ。
それは俺だって同じだ。
祠で剣を抜いた時の彼女の顔が、忘れられなかった。
驚きと絶望が入り混じったような表情。
(あんな顔、今まで一度も見たことなかった……)
勇者に選ばれた瞬間、彼女は明らかに怯えていた。
それでも、俺の名前を呼んでくれた。
頼ってくれた。
それが、嬉しかった。
(……守りたいって、思っちゃうんだよな)
俺は冒険の経験なんてない。
農作業しか知らない。
魔物の相手なんてしたこともない。
でも、それはエイミーだって同じはずだ。
俺より体格が小さく力も弱い彼女が世界を救うなんて、誰も想像出来ないだろう。
「……絶対、俺が支えてやらないと」
窓の外を見ると、大きな満月が夜空に浮かんでいた。
静かで、優しい光。
まるで、これから始まる旅を祝福しているようだった。
俺は、なんとなく家を出た。
体が勝手に、川の方へ向かっていた。
小さいころ、よくエイミーと遊んだ場所。
(彼女が泣いた時は、よくここで慰めたっけ……)
川辺に近づくと、そこには、
(……エイミー?)
彼女がいた。
ひとりで月明かりに照らされて立っていた。
風に髪を揺らし、静かに川を見つめている横顔は、どこか今までより大人びて見えた。
「エイミー……?」
俺は名前を呼んでいた。
その声に、彼女はゆっくりと振り向いた。
俺だと気づくと、慌てた様子で手をぶんぶん振る。
「いや、ひとりでちょっと考え事してて!!」
昔から、彼女は嘘がへたくそだ。
でも、今日の彼女は、どこか違う。
剣を抜いてからのエイミーは、ほんの少しだけ強くなったように見える。
堂々としているというか、はっきり物を言うというか。
(……これが、勇者に選ばれた覚悟ってやつなのかな)
そんなことを考えながら、そっと問いかけた。
「眠れないの?」
突然、エイミーは顔を両手で覆い、くぐもった声でつぶやいた。
「イケメンは心臓に悪い……」
「イケ、メン……?」
聞き慣れない単語に首をかしげる。
何を意味しているのか分からないけど、今日一日で彼女が不安と緊張に押しつぶされそうになっていることくらい、俺でも分かる。
「緊張するよね。この村から出ることになるなんてさ」
そう言うと、エイミーは顔を上げ、じっと月を見た。
その横顔はどこか張りつめていて、胸が痛くなる。
「……ごめんね」
「え?」
突然の謝罪に、思わず聞き返してしまう。
「巻き込んでしまって……。本当は私だけが村を出るのがシナリオ……じゃなくて、村を出るはずだったんだけど……」
言葉に詰まりながらも、申し訳なさそうにこちらを見る。
勇者に選ばれたのは彼女なのに、俺の心配をするなんて。
(少し性格が変わった気がしても……やっぱりエイミーはエイミーだ)
根っこにある優しさは、ずっとそのままだ。
だから、本音を少しだけ偽った。
「俺は……君と一緒に冒険できることが、楽しみだよ」
勇気を振り絞って笑う。本当は俺も不安でいっぱいだ。
モンスターなんて見たこともないし、剣だってモンスターに向けたことすら無い。
でも、エイミーをひとりで行かせるなんてできない。
「だから、困ったことや不安なこと……、俺を頼ってほしいな」
エイミーは、一瞬きょとんとしたあと、ふわっと花が咲くみたいに笑った。
「ウィル……」
月明かりが彼女の頬を照らし、その表情は胸に刺さるほど綺麗で。
思わず息をのんでしまった。
(……だめだ。今はそんなこと、考えちゃだめだ)
俺は彼女を守るって決めたんだ。
勇者である彼女のそばで、支え続けるんだ。
そのためにも、俺が強くならないと。
(……よし)
心の中で強くつぶやいた。
エイミーが勇者なら、俺は彼女にとって最高の戦士になる。
この夜、静かな川辺で、俺は密かに決意を固めた。
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