18 / 25
◆執事と薔薇
2
しおりを挟む
自分ならどうだったろうと、右崎は考えてみた。
でも、自分には元妻はいても息子がいない。
刺されても必死に守ろうとする男性の気持ちは、その場の本人しかわからないだろう。
どうにもやりきれなく、右崎はグラスに手を伸ばした。
氷を入れウイスキーを注ぐ。
アキラにもと思ったが彼の酒の好みを知らない。「好きなの飲んでいいぞ」と進めるに留めた。
ひょこっと頭を下げて、アキラはジンジャーエールを取り出し、立ったままふたりは思い思いに喉を潤す。
カウンター内だけ照明を残した薄暗い店内にジャズソングが響く。
悲しみが破れた恋のバラードだ。
グラスを回すと、カランと高い音がする。
この音が好きだと今更のように気づき、そしてふと思い出した。
小夜が回すグラスが脳裏に浮かぶ。
音が好きなのか、小夜が好きなのかわからなくなる。
おかしな事件のせいだろうと思った。
少しの間冷たい手の感触を味わい、無造作に飲み込んだ喉を焼くようにして、ウイスキーが落ちていく。
心を澱ませるなにかがウイスキーの苦味に緩和される気がした。
「薔薇だけど」
ふいにアキラが話し出した。
「ん?」
そういえば、あの薔薇はなんだったのかと思い出した。
アキラがローズさんと呼ぶ女性客が刺された男性からもらった真紅の薔薇の謎は、まだそのままだ。
「本人はただなんとなく買ったって言ってたらしいけど、少年がヒロシから聞いた話では母親が昨日誕生日だったらしい。もしかすると母親に花束を渡そうとしたのかもしれないって。母親が好きなのは赤い薔薇だからってさ」
別れた妻に贈る赤い薔薇?
「そもそも離婚の原因はなんなんだ?」
大きなお世話だと思いつつも、右崎は聞かずにいられなかった。
「さあ、聞いていない」
薔薇の花束を女に渡す理由なんかひとつしかないだろうと、右崎は思う。
渡そうとして、自分を知らないわが子に刺され、渡せずに終わる。
刺されなければ渡しただろうか。
すでに幸せな家庭のある元妻に、薔薇を――。
左右に首を振り、太く短い息を吐く。もうこれで何度同じ動作をしたことか。
「やりきれない話だな」
アキラもそう思うのか、神妙な顔をして瞼を落とす。
「それで、どうなるんだ?」
「うーん。わからないけど、でも交番のお巡りさんは事情が事情だしまだ未成年だから、大事にはならないんじゃないかってさ、なにしろ本人があれは事故で、自分のせいだって言ってるし」
親には連絡がいくが大事にはならないだろうと、アキラはひと通り話して聞かせた。
「――そうか」
でも、自分には元妻はいても息子がいない。
刺されても必死に守ろうとする男性の気持ちは、その場の本人しかわからないだろう。
どうにもやりきれなく、右崎はグラスに手を伸ばした。
氷を入れウイスキーを注ぐ。
アキラにもと思ったが彼の酒の好みを知らない。「好きなの飲んでいいぞ」と進めるに留めた。
ひょこっと頭を下げて、アキラはジンジャーエールを取り出し、立ったままふたりは思い思いに喉を潤す。
カウンター内だけ照明を残した薄暗い店内にジャズソングが響く。
悲しみが破れた恋のバラードだ。
グラスを回すと、カランと高い音がする。
この音が好きだと今更のように気づき、そしてふと思い出した。
小夜が回すグラスが脳裏に浮かぶ。
音が好きなのか、小夜が好きなのかわからなくなる。
おかしな事件のせいだろうと思った。
少しの間冷たい手の感触を味わい、無造作に飲み込んだ喉を焼くようにして、ウイスキーが落ちていく。
心を澱ませるなにかがウイスキーの苦味に緩和される気がした。
「薔薇だけど」
ふいにアキラが話し出した。
「ん?」
そういえば、あの薔薇はなんだったのかと思い出した。
アキラがローズさんと呼ぶ女性客が刺された男性からもらった真紅の薔薇の謎は、まだそのままだ。
「本人はただなんとなく買ったって言ってたらしいけど、少年がヒロシから聞いた話では母親が昨日誕生日だったらしい。もしかすると母親に花束を渡そうとしたのかもしれないって。母親が好きなのは赤い薔薇だからってさ」
別れた妻に贈る赤い薔薇?
「そもそも離婚の原因はなんなんだ?」
大きなお世話だと思いつつも、右崎は聞かずにいられなかった。
「さあ、聞いていない」
薔薇の花束を女に渡す理由なんかひとつしかないだろうと、右崎は思う。
渡そうとして、自分を知らないわが子に刺され、渡せずに終わる。
刺されなければ渡しただろうか。
すでに幸せな家庭のある元妻に、薔薇を――。
左右に首を振り、太く短い息を吐く。もうこれで何度同じ動作をしたことか。
「やりきれない話だな」
アキラもそう思うのか、神妙な顔をして瞼を落とす。
「それで、どうなるんだ?」
「うーん。わからないけど、でも交番のお巡りさんは事情が事情だしまだ未成年だから、大事にはならないんじゃないかってさ、なにしろ本人があれは事故で、自分のせいだって言ってるし」
親には連絡がいくが大事にはならないだろうと、アキラはひと通り話して聞かせた。
「――そうか」
10
あなたにおすすめの小説
下宿屋 東風荘 7
浅井 ことは
キャラ文芸
☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:..☆
四つの巻物と本の解読で段々と力を身につけだした雪翔。
狐の国で保護されながら、五つ目の巻物を持つ九堂の居所をつかみ、自身を鍵とする場所に辿り着けるのか!
四社の狐に天狐が大集結。
第七弾始動!
☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:..☆
表紙の無断使用は固くお断りさせて頂いております。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
課長と私のほのぼの婚
藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。
舘林陽一35歳。
仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。
ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。
※他サイトにも投稿。
※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。
黄泉津役所
浅井 ことは
キャラ文芸
高校入学を機にアルバイトを始めようと面接に行った井筒丈史。
だが行った先は普通の役所のようで普通ではない役所。
一度はアルバイトを断るものの、結局働くことに。
ただの役所でそうではなさそうなお役所バイト。
一体何をさせられるのか……
その出会い、運命につき。
あさの紅茶
恋愛
背が高いことがコンプレックスの平野つばさが働く薬局に、つばさよりも背の高い胡桃洋平がやってきた。かっこよかったなと思っていたところ、雨の日にまさかの再会。そしてご飯を食べに行くことに。知れば知るほど彼を好きになってしまうつばさ。そんなある日、洋平と背の低い可愛らしい女性が歩いているところを偶然目撃。しかもその女性の名字も“胡桃”だった。つばさの恋はまさか不倫?!悩むつばさに洋平から次のお誘いが……。
【完結】あやかし団地 管理人見習い日誌
双月ねむる
キャラ文芸
就活全滅で「自分には社会性がない」と思い込む凛は、遠縁の親戚に紹介され、昭和レトロな巨大団地・さくらヶ丘第一団地の『管理人見習い』として住み込みで働くことに。しかしその団地には、中庭の「靴鳴らし」、エレベーター表示盤に棲む狐など、団地限定あやかし達が当たり前のように暮らしていた。
最初は逃げ腰の凛だったが、すねた空き部屋や、ベランダの風鈴が告げるSOSなど、人とあやかしのトラブルに巻き込まれながら、少しずつ『共同体』に関わる勇気を取り戻していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる