薔薇と少年

白亜凛

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◆執事と薔薇

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 自分ならどうだったろうと、右崎は考えてみた。

 でも、自分には元妻はいても息子がいない。
 刺されても必死に守ろうとする男性の気持ちは、その場の本人しかわからないだろう。

 どうにもやりきれなく、右崎はグラスに手を伸ばした。
 氷を入れウイスキーを注ぐ。
 アキラにもと思ったが彼の酒の好みを知らない。「好きなの飲んでいいぞ」と進めるに留めた。

 ひょこっと頭を下げて、アキラはジンジャーエールを取り出し、立ったままふたりは思い思いに喉を潤す。

 カウンター内だけ照明を残した薄暗い店内にジャズソングが響く。
 悲しみが破れた恋のバラードだ。
 グラスを回すと、カランと高い音がする。

 この音が好きだと今更のように気づき、そしてふと思い出した。
 小夜が回すグラスが脳裏に浮かぶ。
 音が好きなのか、小夜が好きなのかわからなくなる。

 おかしな事件のせいだろうと思った。

 少しの間冷たい手の感触を味わい、無造作に飲み込んだ喉を焼くようにして、ウイスキーが落ちていく。
 心を澱ませるなにかがウイスキーの苦味に緩和される気がした。

「薔薇だけど」
 ふいにアキラが話し出した。
「ん?」
 そういえば、あの薔薇はなんだったのかと思い出した。

 アキラがローズさんと呼ぶ女性客が刺された男性からもらった真紅の薔薇の謎は、まだそのままだ。

「本人はただなんとなく買ったって言ってたらしいけど、少年がヒロシから聞いた話では母親が昨日誕生日だったらしい。もしかすると母親に花束を渡そうとしたのかもしれないって。母親が好きなのは赤い薔薇だからってさ」
 別れた妻に贈る赤い薔薇?

「そもそも離婚の原因はなんなんだ?」
 大きなお世話だと思いつつも、右崎は聞かずにいられなかった。

「さあ、聞いていない」
 薔薇の花束を女に渡す理由なんかひとつしかないだろうと、右崎は思う。

 渡そうとして、自分を知らないわが子に刺され、渡せずに終わる。
 刺されなければ渡しただろうか。
 すでに幸せな家庭のある元妻に、薔薇を――。

 左右に首を振り、太く短い息を吐く。もうこれで何度同じ動作をしたことか。
「やりきれない話だな」

 アキラもそう思うのか、神妙な顔をして瞼を落とす。

「それで、どうなるんだ?」

「うーん。わからないけど、でも交番のお巡りさんは事情が事情だしまだ未成年だから、大事にはならないんじゃないかってさ、なにしろ本人があれは事故で、自分のせいだって言ってるし」

 親には連絡がいくが大事にはならないだろうと、アキラはひと通り話して聞かせた。

「――そうか」
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