偽装結婚のはずが、溺愛なんて聞いてません!

白亜凛

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二、苦い再会

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 とにかく会って謝りたいと先生に言ったけれど却って話をややこしくするからと止められ、先生を介して何度か謝罪の手紙を書いた。返事らしきものが届いたのはそれから数カ月経ってから。学校ではタカ先輩の恋い慕う噂話が薄れてきた頃だ。届いたのは自由の女神像の絵ハガキ一枚で、言葉は一言もなかった。

 それでもすごくうれしかった。美咲への宛名は手書きで、彼が怪我した腕は利き腕の右腕だったから、文字がちゃんと書けるんだとホッとしたのを覚えている。後遺症が残るような怪我じゃないとは聞いていたが、ずっと心配だったのだ。

 チリチリとした罪悪感はその一枚のはがきで少しばかり薄らぎ、淡い恋と後悔と悲しみは、月日が経つとともに霞んでいった。今となってはあの時なぜ彼らが喧嘩になったのか。そもそも自分は喧嘩の理由を知っていたかどうかも思い出せない。

(あのタカ先輩と、まさかの契約結婚か……)

 両親には何度も念を押されて、その度に『話を進めて』と元気いっぱい答えている。

『美咲、本当に無理してない? 別に断ってもいいのよ?』

『お母さん、実はね隼人さんは中学時代の先輩で、私の憧れの人だったの』

『まあ、そうなのね』

 むしろ夢のような話にわくわくしているみたいに瞳を輝かせて、明るく笑って見せた。本人がそんな調子なのだから、両親がそれならばと重い腰を上げるのも当然で話は順調に進んでいる。でも本当は――

「はぁー」

 思わず盛大なため息が口から洩れたと思いきや、それは隣の席から聞こえた。

「どうしたの?」

 振り向けば隣の席の小野が背もたれに体を預けて呆けた顔をしている。彼は二歳年下の後輩だ。

 美咲が勤務先であるkirari design (キラリデザイン)は、IT関係の企業で五十人ほどの社員がいる。独身は三十人程度。アラサーが中心の若い会社なので美咲はちょうど中間層だ。小野の教育担当が美咲がだったのもあって、かれこれずっと彼の面倒を見ている。小野はくるくるした天然パーマの髪と愛嬌があるかわいい顔をしているので、密かに〝子犬ちゃん〟と呼んでいた。

「桐原さん、いきなり結婚とか、反則っすよ」

「どうしてよ」

「だって、桐原さん。飲み会だって気づくとさっさと帰っちゃうし、全然男っ気なかったじゃないですかー。恋愛に興味ないって言ってましたよね」

 小野は恨めし気に美咲を睨む。

 彼の言う通り、間違っても恋愛に発展しないよう、美咲はするすると逃げ回ってきた。恋愛に興味がないわけではなく、社内恋愛には抵抗があるからだったが、いつしか恋愛そのものにも目を背けていた。ノーサンキュー私を誘わないでとばかりに、言葉でも態度でも示してきたのだからそう言われても仕方がない。

「結婚には興味あったの」

「嘘だ。ずっと独身でいようねーって約束したじゃないですかー」

 したかもしれない。きっとしたと思うが、ここは「そうだっけ?」と誤魔化した。
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