偽装結婚のはずが、溺愛なんて聞いてません!

白亜凛

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四、また恋をしましょう

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 絵になりそうなほど綺麗な二人。

 美しい彼女は庶民的なスーパーで買い物なんてしないし、たとえエコバッグを持っていたとしても、高級ブランドのものに違いない。

 隼人がいる世界はそういう世界だ。
 彼の実家には住み込みの家政婦がいて料理も家事も全て家政婦がする。けれどもその生活習慣を美咲に強要したりはしない。君が好きなようにしたらいいと言うが、それは一年後の離婚を見据えてのことだとわかっている。

 自分たちには二人で作り上げていく未来はない。何もかも承知の上なのに――

 ズンと心が重たくなり慌てて大きく息を吸う。

(寝不足で考え事なんてするもんじゃないな)

 考え事をしているうち、いつの間にか町田駅に着いていた。

 季節は初夏だ。まだそれほど暑くはないが歩いていると汗ばんでくる。一人暮らしをしていた頃は職場の割と近くに住んでいたので、夏の通勤もそれほど辛くはなかった。けれども鎌倉といい隼人のマンションといい、駅までの移動は歩きだし町田に着いてからも職場まで十分ほど歩く。通勤時の服装は汗だくになってもいいと割り切って更衣室で着替えようかと考えたりもした。

(何もかも一年の辛抱よ!)

 心に活を入れ気を引き締めなくちゃと背筋を伸ばす。

 目の前のキラリデザインが入っているオフィシャルビルを見上げた。ビルの三階にキラリデザインはある。気合を入れるためにも、朝のうちは混み合うエレベーターを避けて階段に向かう。

「ちょっとー、桐原さん!」

 美咲は結婚後も旧姓をそのまま名乗っている。そうしている女性が他にも数人いるので問題ないが、振り返るとスーパーで見かけた女性社員二人の内の一人がいて、満面の笑みで走り寄ってくる。

「お、おはようございます」

 食いついてきそうな勢いに押され、美咲はなすすべもなく、ただただ顔を引きつらせた。

「おはよう! ねえねえ、昨日の、あのめっちゃイケメンは誰よっ!」

 昨日、彼女とは離れた場所から軽く会釈を交わしただけで隼人に紹介しなかった。それを昨夜、彼に『俺を隠してるのか?』と責められたのだ。

 それでも隠したいが、かと言って夫じゃなければもっと問題になるので仕方なく白状する。

「夫です……」
「やっぱり! 確かお見合い結婚だったよね?」

「はい。お見合いでもなければ、知り合うこともなかったと、思います……」

 彼女はもっともだとばかりに、大きく頷く。それも失礼な話だが、美咲自身がそう思っているので一緒にこくこくと頷いた。

「自分でも不思議なんですが」
「何言ってるのよ。桐原さんは性格もいいしかわいいし、ちっとも不思議じゃないわ。ただ、あの旦那さんはすごすぎるわ」

 ですよね、と同意したいところだが、自分の夫を褒めるのもどうかと思い苦笑いで返した。

「桐原さん!」

 新たに現れたのは昨日スーパーで見かけたもう一人の女性だ。

(ああ、もうー、どうしてスーパーでなんて言っちゃったんだろ)
 後悔先に立たずと吐くため息は深い。

「ところであの女性――」

 美咲の心がチクッと痛んだ刹那、先に声をかけてきた女性が彼女の言葉を遮った。彼女たちは駐車場で隼人に声をかけてきた女性と彼が話していた姿を見たのだろう。

「車も高級車だし、絵に描いたような玉の輿に乗ったのねー、桐原さん」

「そ、そうですね」

 えへへと笑いながら気を遣かってくれた女性に心で礼を言う。

 あの美人が誰なのかも知らないし、美咲は答えを持っていない。にこにこしながら〝お友達だそうですよ〟とでもさらりと言えばいいのだ。わかっていても今日はなんとなく言えそうもなかった。

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