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≪ 麗景殿 ≫
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しおりを挟む唯泉が横笛を吹き、煌仁が琵琶を弾き始めた。
紅い夕焼けに夜の帳が落ち始めた空に、細く低く繊細な音が立ち昇っていく。
翠子はジッと耳を傾けた。
とても優しい音である。
『そなたのように美しい心の持ち主には辛い場所だろう』
(美しい心って何? 私の何を見てそう思うの?)
翠子は自分の心が美しいなどとは思っていない。
臆病でただの弱虫だ。心が弱いから今のように周りに迷惑ばかりかけている。彼らが励ましてくれているとわかるだけに、申し訳ない思いでいっぱいだった。
まゆ玉がすりすりと体を寄せる。
翠子を慰めるように甘えてくるまゆ玉を撫でながら、翠子はあきらめたように目を閉じた。
唯泉の奏でる細く伸びゆく横笛の音。低く心の琴線を振る煌仁が弾く琵琶の響き。
何も考えずに聞いていると、やがてささくれ立っていた心が落ち着いてくる。
ふと脳裏に毒が滲んだ匙が浮かんだ。
猫の彫り物を施された美しい匙は、悲しかっただろうと思う。
皇子に喜んでもらうために生まれたはずが、愛してくれる皇子を苦しめた。盆の上に並んだ食器の中で匙から目が離せなかったのは、皇子を助けてほしいと匙が訴えていたのかもしれない。
(声は私にしか聞こえないから……)
うっすらと瞼を開ければ、女御からいただいた唐菓子が目に留まった。
今朝、麗景殿の女御は自らここまで足を運び『本当にありがとう』と涙を浮かべ、何度も何度も翠子に礼を言った。
女御は弘徽殿の悪口なんてひと言も言っていなかった。
ただ、喜んでくれた。
そう思うと同時に熱いものが込み上げて、涙が翠子の頬を伝って落ちた。
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