祓い姫 ~祓い姫とさやけし君~

白亜凛

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≪ 鬼 ≫

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 弘徽殿に近づくと強い護摩の匂いがしてきた。

 僧侶たちの経を唱える声が響き渡り、なにやら物々しい。

「まったく大袈裟な」

 唯泉はため息をつくが、彼の到着を今かと待っていた女房たちが駆け寄ってくる。

「唯泉どの! 早く、こちらへ」

 慌てる女房に袖を引かれる勢いで、奥の間へと向かう。

 煌仁はすでにいた。篁もいる。

「女御は?」

「奥で横になっている」

 御簾の奥に視線を向けた唯泉は、目を細めた。

「ああ、なるほど。いるなぁ物の怪だ」

「なんと!」

 弘徽殿の女房たちは震えだす。

「皆帰ってよいぞ、祓い姫の力も必要ない、私が追い払っておく」

 唯泉にそう言われればいても仕方がない。煌仁に促されて、翠子も来たばかりの廂に出た。

 煌仁は翠子に微笑みかける。

「姫よ、私はこのまま戻らねばならぬが、麗景殿に寄ってもらってもらえぬか? 皇子がまゆ玉と遊びたいそうなのだ」

「はい。わかりました」

 まゆ玉は、弘徽殿の廂に座ったまま入ろうとはせず、行儀良く待っていた。

 麗景殿に向かう翠子と朱依とまゆ玉を見守りながら、篁がため息をつく。煌仁がつけた女官が彼女たちのうしろを行くので心配はないだろう。

 事態は進展しない。

「せっかく姫が匙を特定してくれたのに、不甲斐ないことで申し訳ない」

 篁はひとりごちた。

 怪しい女官は何人かいる。だが怪しいだけで全く証拠は出てこない。左大臣家を出入りする者は多く、左大臣家から宮中へと行き交う人も物も、すべてを監視するのは無理だ。

 加えて頭中将はのべつ幕なしに女官に声をかけ、隙あらば口説いているような男である。手掛かりはつかめてもその先へ進めない。

 丁庵のおかげで毒を作った赤虫という薬師にはたどり着いたが、どこにいるのか今だ赤虫が捕まらない。

 左大臣の邸に直接踏み込めばなにかしら尻尾が出てくるかもしれないが、具体的な理由もなく邸の捜査はできず八方ふさがりの状態だ。

 苦い笑みを浮かべた煌仁が「近いうち宴をする」と言った。

「帝の願いだ。すでに準備に入った。弘徽殿の女御の体調さえ整えばすぐにでも執り行う」

「もしかして、帝のご容体が……」

 煌仁は何も答えない。

「篁、祓い姫の噂、聞いたか?」

「いえ?」

「今回の弘徽殿の女御の体調不良は、祓い姫が宮中に来てからだと弘徽殿の女房どもが言い始めた」

「そんな馬鹿な。つい先日まで弘徽殿の女御はぴんぴんしていたじゃないですか」

「気づかなかったか? 女房たちの姫を見る目に」

 そういえばと篁は眉をひそめる。

 姫の姿を見るなり、女房たちは剣呑な目をして遠巻きにしていた。

「唯泉はいち早くそれに気づき、帰るよう促したのだろう。弘徽殿には姫が邪魔なのだ」

 篁の顔に緊張が走る。

「私は帝の傍を離れることができぬ。頼んだぞ、篁。今後一層姫の周囲に気を配ってくれ」

「はい。わかりました」

 深く頭を垂れた篁は、麗景殿へと向かった。
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