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≪ 春隣(はるどなり) ≫
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しおりを挟む翠子が教えてほしいとねだり、煌仁が琵琶を教えている。
後ろから覆いかぶさるようにしている煌仁が、翠子の手を取り琵琶を弾く。
「これではあなたが弾いているのと変わらないわ」
ふふっと笑う翠子に煌仁が頬を寄せる。琵琶の音は止まり、するりと翠子の膝から落ちた。
「翠子……わが愛しい妃よ」
指先でそっと顎をすくわれて落とされた唇が重なる。
名残惜しそうに離れた口が、「宮中は辛くはないか?」と聞いた。
まただと、翠子は小さく苦笑する。
入内してまだ半月だというのに、両手の指で数えきれないほど辛くはないかと聞かれている。その都度大丈夫だと答えているのに、心から心配そうに煌仁は眉を曇らす。
(本当に、大丈夫なのに)
祓い姫として初めて宮中に足を踏み入れたときは、口を開けば帰りたいと言っていたのだから、心配するのも無理はないと思う。それにしても心配しすぎだろう。
「少しも辛くありませんよ」
「本当か?」
辛いと言ったら、どうするのだろう。もしかしたら翠子の居住する藤壺に帰してもらえないのかもと思いながら、くすくす笑って答えた。
「本当ですよ」
それでもまだ少し心配そうなので「ここは私の家ですもの」と煌仁の胸にすり寄ると、ようやく安心したように微笑んだ煌仁は、翠子の髪をなでた。
「かわいいことを言う」
「この組み紐、まだ手首に付けているのですね」
「もちろんだ。そなたが作ってくれたのだから」
翠子も煌仁からもらった輝く石を首からさげている。とても外す気にはなれない。同じ気持ちならいいなと思う。
「あ、そうそう。まゆ玉に恋人ができたそうですよ」
「そうか、それはよかった」
「ええ。皆にかわいがってもらえて、まゆ玉は幸せです」
「翠子、そなたも幸せか?」
「もちろんですよ。もちろん、この上もなく――」
それから先の言葉は煌仁に吸い取られた。
口を吸われながら少しずつ横たえられる。夜を迎える度に、幾度となく繰り替え返されてきた甘い行為、唇を離れた次は首筋に下りていき……。
胸の奥が痺れたように震えだし、堪らず翠子は手を伸ばし煌仁の背に回す。すくいとるように煌仁の逞しい腕が、翠子の背中にまわり強く抱きしめた。
初めて口づけを交わした夜、煌仁が言った。
『これが恋か』
溺れそうな熱い想いに、翠子は心を震わせる。
煌仁の胸のなかで。誰よりも心から、翠子は幸せだと思った。
了
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恋愛未経験の翠子と女性に嫌悪感を持つ煌仁との淡い、しかし、力強い恋物語に大変興奮致しました。
まさひろさま、こちらまで読んでいただけてとてもうれしいです。
興奮(笑)良かった。ありがとうございます!