月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜

白亜凛

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◆.アレキサンドライトの指輪

5


 最上階でエレベーターを降りた。

 秘書室の脇を通り、副社長室は北東の角にある。

 副社長室の廊下を挟んだ向かいにはカウンター越しに秘書の席があり、担当の女性秘書、春海清香きよかがいた。

「お疲れ様です。受付で聞かれましたか? 来客があったそうですが」

「ああ。会った」
「えっ、お会いになったんですか」

 驚いて眉をひそめたところをみると、彼女は受付に断るよう申しつけたのだろう。

「警備員を頼んででも二度とそのようなことがないよう、受付にはよく言っておきます」

「いいよ。俺が注意したから」

 相手がいくらイケメン大学生でも、春海なら迷わず追い返しただろう。受付の彼女とはそこが違う。

「コーヒーお持ちしますね」
「頼む」

 副社長室に入ってすぐ、弥衣に電話をかけようとスマートフォンを手に取った。
 だが、ひと呼吸おいて、考え直す。

 わざわざ連絡するまでもない。電話したところで、弥衣はすみませんと謝るだけだろうし、俺は別に謝罪を聞きたいわけじゃない。

『結婚を決めたのはお前で、自分の恋愛ごとややっかいごとに俺を巻き込むな』

 言いたいのはそれだけだ。


 しかしあの男、わざわざ一俊になにを言ったんだ?

 医師を目指す一俊が、現役の名波と連絡をとっていたとしても不思議はないが。
 俺と弥衣が結婚の挨拶をしたとき、一俊は喜んでいたはずで、あの時点ではこの結婚に対して何も疑っていなかった。

 弟まで問題に引っ張りこむとはあの名波という男、情けないにもほどがあるだろ。
 だから弥衣にフラれるんだ。と思ったところでノックの音がした。

「失礼します」

 トレイにコーヒーを乗せ入って来た春海は、デスクの端にカップを置き、いかにも意味ありげに二ッと口角を上げる。

「ご結婚、おめでとうございます」
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