月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜

白亜凛

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◆.アレキサンドライトの指輪

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 男性秘書の夏瀬に結婚すると伝えたので、その報告を聞いたのだろう。

「おめでたいことですからいいのですが。それにしても副社長、突然の結婚で驚きました」

 春海が大げさなため息をつく。

 先がカールした長い髪を後ろ手ひとつにまとめ、いつも微笑みを絶やさない彼女は万人が認める美人だ。

 気立ても良ければ頭もいい。言い寄る男は多いだろうが、彼女には一緒に暮らしている女性がいる。その女性が春海の恋人であることは、俺を含めてごく一部しか知らない。

「なにか問題でもあるか?」

「お披露目の機会はどうなさいます?」

「必要ない。パーティには妻として同席することになるかもしれないが、それだけだ」

 春海はわずかに眉をひそめる。
「そうですか……。では、通知だけでも送付しましょうか?」

「いや、別に必要ないだろう? プライベートだし」

「それはまぁ、そうですが。で、入籍はいつなさるのですか?」

「切りよく今日入籍した。出かけたついでに婚姻届けを提出してきたよ」

 今日は年度初めの四月一日。
 朝、社内放送で年度初めの社長あいさつを聞いた後、そのまま区役所へあいさつ回りに行った。
 そのついでに婚姻届けを提出した。

「え。今日って四月一日。エープリルフールですよ?」
 春海はギョッとしたように目を剥く。

「だからなんだ」

 スケジュール帳をぺらぺらとめくった春海は「おまけに仏滅」とつぶやく。

 なるほど。エープリールフールの仏滅か。

 今の弥衣は、神も仏もないような気分に違いない。彼女にとっては仏滅だ。
 少なくとも大安な気分じゃないだろう。

「うん。我ながらいい日を選んだな」

「なにをおっしゃっているんですか」

「実はね。つい、うっかり、結婚することになっただけで、大げさにはしたくないんだよ」

 春海は呆れたようにため息をつき、肩を落として「失礼いたしました」と頭を下げる。

「ああ、そうだ。結婚指輪を用意してもらえるか、サイズはここに書いてある。日付は今日。シンプルなものでいい」

 今度こそ絶句して目を見開いた春海は何か言いかけたが、俺は眉をひそめて制止した。

「俺と妻は、一緒に仲良く指輪を選びに行くような間柄じゃない」
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