そのハッピーエンドに物申します!

あや乃

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そのハッピーエンドに物申します!

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「ちょおおおおおっと待ったあああああああああああ!!!!!!!!!」

 謁見の間に響き渡る令嬢らしからぬ爆声。それは私、侯爵令嬢セシリア・フォンクラインが発した声である。

 ぽかんとして私を見つめるのは、

 第一王子のアイスラン・ジークハルト
 ヒロインのユウナ
 幼なじみで騎士のカーライル・シュタイナー
 ジークハルト国王陛下
 ジークハルト王妃殿下
 その他観衆

 現実とかけ離れたこの光景……そう、ここは大人気乙女ゲーム「かの君は黄昏に密恋を囁く」の世界。

 魔法大国ファーレーンを舞台に異世界から召喚された少女ユウナが、攻略対象との好感度をあげながら聖なる乙女として大国を脅かす脅威に立ち向かっていく恋愛シミュレーションゲーム。

 社畜OLで「かの恋」だけが生きる糧だった私は過労死後、かの有名な異世界転生をしてしまったらしい。

 侯爵令嬢セシリア・フォンクラインとして。

 セシリアはいわゆる悪役令嬢で、第一王子アイスランの婚約者という立ち位置でゲームに登場。嫉妬に狂った挙げ句残忍な手口でヒロインに危害を加えようとしてアイスランの逆鱗に触れ断罪されてしまう。

 ただ一途にアイスランを想っていただけなのに――

 ヒロイン至上主義をよしとしなかった私はプレイ中もずっとセシリアに肩入れしていた。セシリアとアイスランは7歳と9歳の時に婚約してお互い好意を持っていた筈……どこで歯車が狂ったんだろう。

 攻略対象者の中で大本命! 第一王子アイスラン・ジークハルトのガチ恋勢だった私は大好きなアイスランと推しであるセシリアの幸せを誰よりも願っていた。

 もし私が側にいたら絶対ヒロインなんかに負けないのに! と、来るはずのない逆転のターンを夢見て「セシリア幸せ計画」を大量生産してしまうほどに。

 そんな私のキモさが天に届き、じゃあ折角だから~と気を利かせてセシリア本人に転生させてくれたのかもしれない……が。

 私が前世の記憶を取り戻したのは今。そう、ナウなのだ。

 ここは謁見の間。衆人観衆の中悪役令嬢が囲まれるシチュエーションといえば……答えは一つしかなかった。

 ―これ、断罪シーンじゃない!!!?―

 まさかの異世界転生? ガチ恋キャラがいる「かの恋」にしかもセシリアとして!? でも前世の記憶が戻った途端に断罪なんてもう巻き返しのチャンスゼロじゃ……

 パニックになった私は内心↑と思ったんだけど。よく見ると責められているのはアイスランとユウナでこっちが優勢っぽい。ということはこれは……

 ――逆転のざまあ展開!!!!!!!!!――

 どうやらセシリアの断罪~巻き返しのターンはとっくに終わっているらしく、

 ①ヒロインに嵌められて王子に婚約破棄された挙げ句処刑寸前に→終わってる
 ②幼なじみの騎士に助け出され、王子豹変の謎と真実を追う→終わってる
 ③ヒロインの企みを暴き魅了されていた王子もろともまとめてざまあ★今ここ!
 ④幼なじみの騎士と結ばれてハッピーエンド

 私は③の真っ最中に転生したので、現在後追いでセシリアの記憶がゲリラ豪雨のように流れ込んできてるんだけど……

 何かおかしい。セシリアの記憶とざまあの内容が全く合っていない。あまりのチグハグさ加減で逆に冷静になった。

 だってこの記憶が確かなら……



 ハッと我に返ると、まだ全員ぽかんとしたまま。

 あ、そうだ。私さっき絶叫しちゃったんだっけ。侯爵令嬢にあるまじき失態。まずはこの空気をなんとかしないと! 

「陛下。発言をお許しいただけますでしょうか」

 何事もなかったかのように国王陛下にうやうやしく頭を下げる。

「……へ?? あ、ああ。構わない。セシリア、申してみよ」

 まだちょっと絶叫ショックが残っているみたいだけど何とか威厳を保つ陛下。

「恐れながら、先ほどの申告には偽りがございます」
「何? それはどういうことだ」
「私と殿下の婚約は現在進行形です」


「「「「「「……は!!!?」」」」」


 場にいた全員が驚愕する。

 そう、まず大前提として私は殿下に婚約破棄をされていない。現時点でセシリアはアイスランの婚約者のままだ。

 私が愛してやまないガチ恋相手、第一王子のアイスラン・ジークハルト。彼はどこまでもセシリアに対して誠実だった。


※※※※※


 セシリアとアイスランの婚約破棄疑惑。その火種は王城で開かれた夜会での一幕から始まった。

 セシリアにベッタリだったアイスランが陛下に呼ばれて渋々席を外したあと、暫くして何故かユウナと二人で戻ってきた。

 そこでユウナが根も葉もないセシリアの醜聞をまくし立てて糾弾。婚約破棄を言い出したのもユウナ。

 アイスランはといえば心ここにあらずな感じで……今思えば(私は今しかないけど)既に魅了されていたんだと思う。でもそこからの殿下の行動は見事だった。

 ユウナがセシリアを糾弾している間、密かに張られていた防音壁のお陰で悪い噂が広まることはなく、夜会後は馬車を手配してセシリアを家まで送り届け、ユウナのこともうまく丸め込んで家に帰した。

 その足で自らフォンクライン家を訪れ、両親に夜会での行いを謝罪してくれたのだ。そして不安そうなセシリアに対しても、

『殿下……』
『セシリア、心配をかけてすまない。自分でも混乱しているんだ。でも君には絶対誠実でいたいから少しだけ待っていて欲しい』

 アイスランの言葉を信じてセシリアは待っていた。では、何故こんなややこしいことになっているかというと……

 お前のせいだ! カーライル。

 少し後方で呆然としたままの幼なじみ、カーライル・シュタイナーに殺意を向ける。

 「かの恋」のメインキャラでもあるカーライルは交換留学中に今回の話を聞きつけ留学先から飛んできて、そのままセシリアを隣国へと連れ出した。

 でもその間もアイスランは単独で調査と周りへの根回しを続けていたのでざまあ展開とは違うもう一つの道が開けてしまった。

 つまりカーライルのせいでおかしな事態になったのだ。

 ……本当はシナリオにない行動を取った殿下の方が異質なんだけど、恋は盲目なのでそこは華麗にスルー。

 と、私がカーライルへの恨みを募らせている間も一生懸命頭の中を整理しようとしている国王陛下。

「……ええと、セシリア。婚約が継続されているというのは」
「言葉のままの意味でございます」
「そうか……」
「殿下は私に対して誠実に接してくださいました」
「そう……か」
「ユウナ様が私を陥れようとした事実もございません」
「え、そうなの!??」

 陛下ったらすっかりタメ口になって……もはや動揺を隠せないほど動揺しているらしい。無理もない。だって普通のざまあ展開だった筈なのにこの事態。

 本来なら殿下との婚約が破棄されたあと処刑寸前に私は逃亡。カーライルの力を借りてユウナが全ての黒幕であること、魅了の力で殿下を操っていた事実がこの場で露呈する筋書きだったのだ。

 当事者にしてみれば演じながら先のシナリオをその場で改変されているようなものだもんね。

「セシー……」

 切なげな瞳でセシリアを見つめるアイスラン。殿下は通常運転時、私のことをセシーと呼ぶ。

 うん、もうすっかり魅了は解けたみたい。それにしても……殿下の顔が好きすぎて軽く死ねる。

 ああ、そんな顔しないで! すぐに私が助けてあげるから。と、心の中で勝手に殿下と会話していると。

「騙されるなセシリア!」

 あー……出たよカーライル。

 彼も攻略対象なのでとんでもなくイケメンなんだけど、殿下ガチ勢の私には全く刺さらない。 

「魅了なんて言い訳だ! そんな理屈を並べ立てたからといって何をしてもいい理由にはならない」
「ええ、その通りですわ」

 カーライルの言う通り。犯罪行為をしておいて『酔っていました』では通用しないように。魅了されていたからといって犯した罪が消える訳ではない。

 その先にある顛末が不貞、罪状に繋がるのであればどんな事情があろうともその身をもって償うべきだと思う。

 でも私は殿下に裏切られるどころか婚約破棄すらもされていない。

「何であいつを庇うんだ。お前を裏切った上に処刑しようとしたんだぞ!」

 だからそのシナリオ、もう欠片も残ってないんだってば!!

「セシリアのことを本当に好きなら魅了に惑わされる筈がない! 殿下の想いなんてその程度なんだよ」

 その言葉にぴくっと反応する殿下。あー、アイスランはセシリア命だから聞き捨てならないんだろうなぁ。

 何となくアイスランの背後に黒いオーラが見える。そして殿下に対して不敬発言のオンパレード……(怒)

「ではカイルは魅了などには屈しないというのですね」」
「当然だろ! 俺はずっと前からセシリアのことが」
「分かりました」

 カーライルの言葉を食い気味に遮って、私は拘束されているユウナに近づく。この展開にまだ納得いかないユウナはぶつぶつと何か言っていた。

 わぁ、流石「かの恋」のヒロイン。超絶美少女。

「何でシナリオ通りに進めたのにざまあ展開が来るの……? おかしくない?? 何かステータス足りなかったっけ」

 あ、私と同じ匂いがするなこの子。

「ユウナ様」
「な……何よ!?」
「こちらのカーライルに魅了をかけてみてはいただけませんか」
「え? 別にいいけど……封印具付いてるから10秒も持たないわよ」
「それで十分ですわ」

 むしろそれ以上効果があったらこの形成を逆転されるかもしれない。カーライルって一応優秀な剣士だしね。

 額の前で両手を開き呪文を詠唱するユウナ。そこに出現した魔方陣が手を叩くと同時にカーライルに吸い込まれていく……と、次の瞬間。カーライルがユウナの手を自分のそれで包み込んだ。

『ああ、ユウナ! 君はなんて美しいんだ。君の前では宝石令嬢と名高いセシリアだってその辺にうち捨てられた薄汚い石ころにすぎない。誰もその清廉さ、博愛、処女性を汚すことなど出来ないだろう!!!!』
「え!? ……あ、うん」
『ここに宣言する! 規律やしがらみなど全て捨ててユウナのためだけに生きると!! 君を苦しめる数多の害悪から君を必ず救い出すと!!!』
「あー……アリガトウゴザイマス」
『さあ、俺を受け入れてくれ! この全身全霊の愛を!!!!!』
「………………」

 うわぁ……すっごい効き目。かけたユウナすら後ずさるカーライルの豹変ぶりに周りももれなくドン引いた。

 ――プツッ―― 

 術が解けて正気に戻ったカーライルが物凄い形相でこっちを見ている。うん、今その顔していいの私の方だからね。

 じっと自分の手を見つめるユウナ。

「効いてる……何でアイスランにはあんな中途半端だったんだろ。バグかな」
「ユウナ様、中途半端とはどういうことですか」
「だって魅了っていったら普通、さっきみたいにかけた相手にメロメロになるもんでしょ」
「まあ……そうですわね」

 アイスランのカーライルverを想像……イラッとした。

「勿論、アイスランは私にとびっきり優しかったけど」
「何度お願いしても私室はおろか執務室にも入れてくれないし、なんにもしてくれないんだもん」
「あの、ユウナ様……なんにもとは」
「そんなの(自主規制)に決まってるじゃない! 大切にしたいから正式な手続きが整うまでは、って言われて」

 まあ好きだからこそ手が出せないって王道だけどさあー、とまたもや愚痴るユウナを横目に私は考え込んでしまった。

 え、だってアイスラン、セシリアには結構……

 思わず殿下を見ると、ぐるんっ! と顔を背けられた。その後チラッとこちらを見るアイスラン。顔が赤い……

 あー、なるほど? これ好きな相手には自分を抑えられなくなるタイプだ。

 途端に過度なイチャイチャの記憶が蘇り顔から火が出そうになった。でも表面上はスンッとしたままで乗り切る。

「ええと……これはどうしたものか」
「陛下、少しは落ち着いてくださいな」 

 もう動揺がモロ顔に出ている陛下。隣の殿下はというと……今までのやり取りを見て状況を把握したっぽい。扇で口元を隠しているけど、目が笑っている。

「ではこの度の嫌疑については……」
「被害を受けた筈の本人が事実ではないと申しているのですから、これ以上裁くことは出来ないかと」

 陛下に平然と進言する殿下。こういう時女性の方が適応力あるよね。

「じゃあ無罪と言うことで……いいかな?」
「ええ。あなたもそれでよろしいですか、セシリア・フォンクライン」
「はい、異論はございません。国王陛下、王妃殿下、お二人の慈悲深いご采配に感謝申し上げます」

 深々と頭を下げる。

 こうして、ざまあの最中に転生した私は見事(?)愛する殿下の窮地を救うことが出来たのだった。 


※※※※※


 2時間後。関係者各位との挨拶を終えた私はアイスランの私室に通されていた。

 遠くから聞こえる足音。それがだんだん大きくなって……と思ったらバアンッ! と扉が開け放たれる。

「セシー!!」
「殿下……」

 振り向くと肩で息をしているアイスラン。そのまま一直線にこちらに歩み寄った殿下に、私は強く抱きしめられた。

「あ、アラン様!?」
「セシー……会いたかった」

 絞り出すようなその声に胸がきゅうッとする。暫く再会の余韻に浸った後、殿下が夜会から今までにあった出来事を話してくれた。

「不思議な感覚だったんだ。セシーへの想いが深い霧に覆われて、気持ちを伝えようとするとその霧に飲み込まれるみたいな……」

 私への気持ちの変化とは逆にユウナに対してはとても好ましい印象を抱いたらしい。ただ―――

「可愛い妹という感覚が近かったと思う」

 どんなに好意を寄せられてもユウナへの感情は家族愛の範疇を出ることがなかった。それどころか、

「第一に優先すべきはセシーで、君にはどんな時でも誠実でいたかった。そのためにまず自分の気持ちと向き合い、現状を把握しようと思ったんだ」

 殿下は私の立場が悪くならないよう精一杯配慮してくれた。そして独自の調査でユウナが自分に魅了をかけ、セシリアを陥れようとしたことを突き止めた。

「では、私が隣国に渡る頃にはもう……」
「うん。魅了は解けていたんだ」

 そこから殿下は真実を公にしようと動き出したんだけど……何故か自分の意思とは全く違う方向へ事態が進んでしまったらしい。

「謁見の間で突きつけられた罪状も主張も、身に覚えのないものばかりだった」
「ではなぜ反論なさらなかったのですか?」
「……もうどうでもよかった。弁明する気も起きなかったんだ、真実がどうであれセシーに届かないなら何一つ意味がないからね」

 隣国に渡ったことを知り、殿下はセシリアに見限られたと思った。全てを諦めてざまあさえも受け入れようとしたその時、私に前世の記憶が戻ってきたという訳だ。

「信じてくれてありがとう……セシー」
「私はアラン様の婚約者です。その方を信じるのは当然のことですわ」

 重なる殿下の手を握り返しながら私は心の中で狂喜乱舞していた。その時、何かを思い出したように笑い出す殿下。

「アラン様?」
「ああ、ごめん。凄かったなぁと思って、あの時」

 それって……絶叫ショックのこと?

「も、もうそのことはお忘れください!」
「それはいくらセシーのお願いでも聞けないな。だって君があそこまでして私の冤罪を晴らしてくれるなんて……一生忘れないよ」

 殿下が愛しいそうに私を見つめながら右手で頬に触れる。そのまま顔が近づいてきて――ダメ、これ以上は18禁になっちゃう!!

「で、殿下!」

 背骨が折れそうなほど全力で身体を反らしてアイスランを阻止する。不満そうな顔をする殿下。

「んんッ! アラン様。改めて言うまでもないかと思いますが、私達半年後には誓約の儀を控えておりますわよね」
「うん、そうだね」

 誓約の儀はファーレーン大国の王族が行う式典で、幼い頃に結んだ婚約関係をお互いの意思を再確認した上で正式に取り交わす伝統的な習わしだ。

「今回の件で、式典に向けて進める筈だった準備が全て滞っています。ドレスの発注、宝飾品のオーダー、各国の来賓に合わせた料理の手配、作法と言語の習得、国王陛下と王妃殿下への謁見も必要ですし、式典での振るまいについても一から学ばなければなりません」
「うん、そうだね」

 そう言いながら私の腰を抱こうとする殿下。その手をバリッと引き剥がして、

「私は当日、殿下の隣に立つためにそれ相応の準備を整えて臨みたいのです。ですから」
「うん」
「誓約の儀までこれまでのような(ごにょごにょ)は、お控えください……ね?」

 自分で言いながら恥ずかしくなって少し諫めるように見つめると、目を細める殿下。

「うん、分かった。善処するよ」


※※※※※


 ――あの殿下、全く善処しない!!

 誓約の儀当日、私は憤慨していた。何故なら今日のために長い間かけて用意したドレスが着られなくなったからだ。理由は……まあ、あとで話すとして。

 折角デコルテが綺麗に見えるデザインもシルエットも納得のいく一品を仕立てたというのに!

 でも、その代わりに殿下が手配してくれたドレスが超好みで。首元まで詰まったマーメイド型のロング丈。肩から胸元、腰回り、肘、膝から下はレース生地で透け感があるものの肌は透けない仕様になっている。露出度を抑えながらも適度に抜け感があり抜群のバランス。

 このドレスすっごい好き! むしろ本来着る予定だったものより好きなんじゃないかと思う位……なんだけど。

 これは昨日今日では準備出来ない。当日こうなることを見越して以前から手配していたのなら……

 ―――確信犯じゃん!!!

「どうしたの、セシー」
「アラン様」

 扉からひょこっと顔を出すアイスラン。真っ白な衣装に身を包んだ姿はこの世のものとは思えない美しさで。

 ふわああああっ、殿下超素敵!! ……ではなくて!

「綺麗だねセシー。宝石も霞む美しさだ」
「ありがとうございます。アラン様も素敵ですわ」


 

「……ところでアラン様。私……お控えくださいと申し上げましたよね」
「お控えって何を? ああ、昨日私がセシーの全身に―――」
「きゃああああああっ!!!」

 慌ててアイスランの口を両手で塞ぐ。

 実はこのドレスの中。首元から手首、足首まで身体中花びらのようにびっしりと跡が付けられているのだ。何の跡かは……言えない、恥ずかしくて死ぬ。

「だっ……誰のせいでこうなったと思っていらっしゃるんですか!」
「あははっ、ごめんごめん。私のせいだね」

 私の手を口から離しながら子供みたいに笑う殿下。そんな顔をされたらこれ以上何も言えなくなってしまう。

「それより分かってる? この誓約の儀が終われば婚前交渉が解禁になるんだよ」
「え?」

 殿下が私をグッと抱き寄せて耳元で囁く。

「今夜から……楽しみだね」

 真っ赤になった私を見ながら笑っているアイスラン。

「いい加減自覚して欲しいな」
「私がこんなに扇情的な感情を向けるのは君だけだってことに」

 扇情的な感情……想像するだけで腰が砕けそう。

 ふらふらの私を支えてくれる殿下。そのまま広間へと足を進める。

「……誰にでもそんな感情を向けられては困ります」

 ぷいっ、とそっぽを向いて赤い顔をしながらボソッと呟く。

「生涯、私だけになさってください」
「うん、誓うよ。永遠に君だけだ……」

 嬉しそうに目を細める殿下。大歓声の祝福の中、私と殿下は改めて永遠の愛を誓い合った。
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