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第3章-1
しおりを挟む「ちょっと待ってよおじい。久々の電話でそれってマズくない?」
たまたまトイレで昼食を食べていた羽田佐恵(母が嫁に入ったため、苗字が羽田になった)は唐突な祖父の電話に頭を抱えずにはいられなかった。自分の祖父が刑事なのは知っているが、いきなり同級生を調べてこいは流石に色々と問題があるだろう。それが身内となるならば尚更だ。
『ああ、分かってる。でもそれぐらいの状況なんだ、聡い佐恵なら分かると思ってな』
またそれか、と佐恵は思う。この我聞という祖父は佐恵に対してかなり期待をしている。事あるごとにやれ過去に起きた事件のファイルを見せてくるわ、犯罪に使う薬品を教えてくるわ、果ては事件現場(解決済み)を見させられたこともある。そんなものを見せられて何を学べというのだろうか。
(これが身勝手ってことなのかなぁ)
佐恵は天井を仰ぎ、苦い顔をする。社会に出ればこういうことも多くなるだろうと祖父から先んじた洗礼を受けていると考えられればまだマシだ。とりあえずこの身勝手刑事が珍しく頼み込んできたのだ、調べれば今年のお年玉に多少色が付くかもしれない。
「・・・・・分かった。で、誰を調べればいいんだっけ?」
『安谷陣矢だ』
「漢字は?」
『姓が安いに谷、名が陣羽織の陣に矢だ』
「はいはい。ちょっと待ってね」
隣の壁を軽くコンコンと叩く。すると、2年C組という返答が返ってきた。
「うわ、同級生か」
自分の同級生を祖父が調べていると分かると事件が起きていることを改めて実感できる。そして祖父が安易に調べがつかないというのでこれから自分が何をすればいいのかに佐恵は見当をつけた。
「・・・もしかしてSNS絡み?」
『ああ、そうだ。よく分かったな』
声色が驚きの色ではなく納得の色を示されたのは失礼極まりない。そのやっぱり分かっていたかみたいな言い方されると腹立つ!後で、コイツはワシが育てたんじゃ、とか言って師匠面してくる祖父の顔が見えて怒りが込み上げそうになったが、
(いや、おじいは多分言っても自慢で言わないだろうな)
と、考え直す。
我聞がどういう経歴を追ってきたのかを全て把握こそしていないが、少なからず佐恵にとっては親の次に長い時間を過ごしてきた相手なので性根は分かる。ただ解決することにだけ真っ直ぐなのだ、この失礼な祖父は。祖母はそれを好いているし、母は過去に何があったかは知らないけどそれを嫌っている。
(私は・・・・)
考え始めて首を振った。今はそんなことを考えている暇はない。
「とりあえず用件だけ言って。あと条件も」
電話の奥で祖父が小さく笑った声が聞こえた。腹立つなぁ、このじいさん。
『まず陣矢少年が何をしていたのかを予想して欲しい。仮説でいい、学校で自分をさらけ出す奴なんてそうそういないだろう』
それもそうだ。うさぎ好きー!って公言している輩がそのままリアルなウサギが好きとは限らない。絵の可愛らしいウサギが好きなことだってあり得るし、ウサギの肉が好きなのかもしれない。バニーが好きでうさぎ好きとか珍しくもない。もしくはただ口裏合わせの為に【好き】というワードを糊付けしている可能性も大いにある。
「・・・だろうね」
佐恵は自分が苦虫を嚙み潰したような顔になっていることに気付かないフリをする。やったことがあるからこそその苦い思い出はあまりにも鮮烈に身体が覚えているからだ。
『次に病院に行ってくれ。同級生ならお見舞い云々で通るだろう。花は後で小遣いを出すから買っておいてくれ。追加でフルーツを買っておくのもいいかもな』
「めんどくさいなー。事前にそっちで用意できない?」
『残念ながらそれは出来ない。こっちはこっちで面倒な状態になっててんやわんやなんだ。もしかしたら明日のニュースで犯人扱いされていてもおかしくない』
「はぁ?」
何を言っているのかは全く分からないが、動けない状態になっていることだけは分かった。
「それで病院ですることは何?まさかその陣矢君に会わないといけない流れ?」
『いいや、彼は集中治療室だ。さっき目の前で轢かれたからな』
「はぁっ!?ちょっと待ってよ!どういうこと!?」
思わず大きな声を出して隣の個室にいた子が箱を落とす音が聞こえた。あっと思い、上から覗き込むとどうやら中身は食べ終えていたらしく、弁当箱はひっくり返っていたが床に何かがぶちまけられた後は無かった。代わりに鬼のような形相になっている協力者の顔があったが。
『どうした?何かあったか?』
「・・・後で私の学校の近くにあるスイパラで特別!激盛りスペシャルパフェセットの代金支払ってくれる?」
『すいぱら?まあ奢ればいいのなら奢るが』
チラリと下を見て頷くと、どうやら協力者も納得してくれたらしい。笑顔で頷いてくれた。
「うん、じゃあ奢るのお願い。で、なんだったっけ」
『病院でして欲しいことだ。簡潔に言うと安谷陣矢を担当した看護師の様子を伝えて欲しい』
「・・・・え、それだけ?」
「それだけだ」
なんというか、拍子抜けだった。佐恵の想像だと誰かを尾行したり、証拠となるものが保存される場所に潜入したりするのかなと思っていた。しかし聞いて終わりだとただのお使いに近い。
(・・・・・何かある、と言うよりかは何か隠してるなぁ)
そして佐恵は我聞の言動があまりにも淡白なことに気が付いた。我聞がこのように話しているのは大概長く話せば察せられる可能性があるからだ。事件現場に連れられた時に後輩の刑事と話している時なんていつもこんな感じだった。
「おじい」
『なんだ』
「条件を聞かせて。それで大体察するから」
これだけ言えば我聞が理解すると佐恵は知っている。美奈子から最近ボケ始めたと聞いていたけど、島津義弘みたいに鬨の声さえあれば復活する。それが唯一両親よりも我聞を知っている佐恵に言える言葉である。
(これじゃあ私が前方彼氏みたい)
私のおじいちゃん凄いから!なんて声を上げたりはしないけれども。内心でごちりながら意識を現実に浮上させる。
『ふむ、分かった。とは言っても一言だけなんだが』
「え、一言?」
『ああ、これだけ覚えて行動をしてくれ』
『絶対にSNSを確認するな、これだけだ』
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