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些細な甦り
しおりを挟む些細な出来事は基本的に人の尺度によって決まる。
僕がそう感じたのは小学校の時。学校帰りに公園で、友達ではないけどそこそこ仲が良かった子が知らないおじさんと一緒にいた時のことだ。
友達でもないやつを気に掛ける理由?あるだろ、たまに。前に消しゴムを拾ってもらって~だとか、給食の当番が一緒で~みたいな。それこそ本当に些細な出来事で妙なつながりを感じる。今回のはそれの発展形と思ってくれていい。
話を戻そう。そいつはカードゲームが好きだった。種類は知らない、やってないものに興味を持つほど当時の俺は忙しかったのだ。遊びにではなくご機嫌取りだ。そうだ、季節を思い出した。すっかり寒くなった冬、お年玉の値段を上げようとどうにかして親の好感度を稼いでいたんだ。
寒かったろうに、アイツは素手で綺麗なカードを宝石を見るように嬉しそうに見ていた。遠くから見てそう見えるのだから近くで見ればもっといい笑顔をしていたのだろう。なにせアイツの前にいたおじさんも屈託のない(ように見えた)笑顔を見せていたのだから。
さて、お気付きの人はお気付きだろう。これからカードを貰ったアイツは死ぬ。発見はこの日から2年後、遠く離れた山の中で見つかる。遺品と思われるものはこの時にアイツが手に持っているあのカード。そこから指紋を取って特定された。かわいそうに。
犯人?ああ、捕まったよ。アイツの死体が見つかるよりもずっと前、そう確か俺があの二人を見た数週間後に都合よく捕まった。ニュースでそれが取り上げられたが、アイツと合っているおじさんの顔に一切似ていなかった。俺はそれを話そうと思ったが周りの大人は忙しそうにして俺の話を聞かなかった。
その時、ふと思いついた。些細なこと、という言葉だ。何で知ったか、確か漫画だ。どこかのセリフで「そんな些細なことで・・・」というセリフがあったのだ。
些細なことだったらしい。俺は絵がうまい方だった。絵を書くことは好きだったし、絵のコンクールに勝手に出て銀賞を取ったりもした。賞品はどこか有名なブランドのタオルだったから銅賞のやつに渡した。まあそれはいい。聞けば話したし、似顔絵なら即座に書ける自信もあった。それでも大人は些細なことにした。
「なるほど、これは走馬灯ってやつか」
空は青く澄み切っている雲一つない穏やかな空だった。こういう日ならスケッチしたり、日向ぼっこをしたり、大きく深呼吸して風の吹くまま歩いたりするのだろう。でも俺はそれをしなかった。何故かって?決まってる。
「些細じゃない、ことを、しに・・・・来たんだガァ・・・!!」
口の奥から溜まらず血を吐いた。酔って吐いたのとはわけが違う。ガンガン胃より下の方から噴水みたいに込み上げてくる。身体が痛みを思い出した。腹からドクドクと血が漏れている。耳鳴りが酷い、目も霞む。鼻も鼻炎みたいにつまった感じがして呼吸も上手くできているかも分からない。なら口でしようものなら溢れる血の濁流に阻まれるな、こりゃあ。
「ハァフゥ、ハァフゥ、ハァフゥ、ハァフゥ」
過呼吸ってこんな感じなんだろうか。まるで必死に息をしようと口をパクパクさせるまな板の上の魚みたいだ。笑える。いや、そんなことよりももっと笑えることがある。
「ざまあ、ねえな・・・!!ガッ……!!」
俺はやったんだ、あの忌々しいアイツを刺せたんだ。確実にアイツの鳩尾にドスを刺せたんだ。ははは、はははは。これで終わりだ、俺もアイツも。はははははははははははは。
「何を笑っているんだ」
「あ?」
近くから声がする。どうやら運良く意識があるらしい。
「私を刺したところで世間は変わらんぞ」
遠くなった耳にまだ声が届いた。身体は起こせない。でも首は何とか動いたから、それで辺りを見渡す。近くには救急車に警察車両がいる。野次馬も我先にと写真を撮っている。
「分かってるよ、そんなこと」
だんだん記憶が鮮明になってきた。僕がこの男を刺したのは単なる憂さ晴らしに近い。ここのところ有名になった政治家、というので襲ったのだ。
「わかってるなら……なぜ……」
「政治家なんて大層なものやってんのにこんなガキの気持ちも分かんないんだね」
男の周りには護衛がいた。筋骨隆々で顔にいくつもの傷がある、歩いて視察するにしてはあまりにも厳つい護衛。僕はその男に撃たれた。
「こんなご時世、政治家の誰に入れたって変わらないじゃん。だから一人残らず殺ってやろうって思ったまで」
「……そうか、そこまで世間は歪んでしまったのか」
無理して話を合わせなくてもいいのに。
そして護衛の撃った弾は2発。撃った事が無くて動揺してたのだろうか、はたまた自分が護衛の時に護衛対象が刺されるなんて思わなかったのだろうか。確実に2発撃ったのだ。一方は僕の脇腹に、もう一方は護衛対象の右側頭部に。
気付くと僕は刺した政治家と共に現場に立っていた。そこではっきり理解出来た。僕らはもう戻れない、足元の血溜まりがそれを証明している。
「彼には悪いことをした」
政治家の男はこちらに気付かない護衛の前に立つ。護衛は膝から崩れ落ちて世界の終わりのような顔をして項垂れている。
「もし私に何かあれば私ごと撃つようにしてもらうように言っていたんだ」
「……は?」
コイツは何を言っているんだ?自分ごと撃つだって?そんなことをすればどうあっても助からないじゃないか。
そんなタイミングで救急車のタンカーがやってきた。僕らの体はタンカーに乗せられる。
「ふむ」
何を考えたのだろうか、政治家はわざと自分の体から離れる。しかし左足までは良かった、どうしてか右足が体から離れようとしない。片足でさらに体から距離を離そうとしても男の右足はゴムのように伸びて、そしてピンと張ったところでお前の体なのだから出られるわけが無いと言うように男は体に引き戻された。
「……これはなんとも」
「……ブッ」
顔面をコンクリートに叩きつけて引き戻されても男は無傷だった。バトル漫画にある、実は能力で大丈夫でしたを目の前で見せつけられて吹き出してしまう。
タンカーに乗せられた体はそのまま救急車で運ばれるみたいだった。救急車は2台来ていて、僕らはそれぞれ乗せられるみたいだ。
「我々も行くか」
「行く?行くってどこに?僕ら動けないじゃないか」
立ち上がった男はやれやれと首を振り、天を指した。
「上はまだ我々を連れて行くつもりはない」
「?」
男の指した方を見ると空の上からさっきまでなかった雲たちが現れて、その真ん中からはるか上空に絶対に有り得ない浮いた階段があった。
「なんだアレ……」
「さてね。だがアレはこちらを迎えに来ていることだけは分かる」
階段の周りにはヘルメットを被った青服の天使が工事現場にトラックを入れるかのごとく階段を誘導している。アレってトラックと同じ扱いでいいのかな?
「まだ時間はある。君がどうして私を殺したのか、聞かせてくれないか」
「.........」
体を乗せた救急車の後ろのドアがバタンと音を立てた。バックランプが僕らを照らし、けたたましいサイレンが辺りに響き渡った。
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