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拝啓、独りよがりな私へ
しおりを挟む――――――――――――数日前
「フム、これはなんの資料かね」
「市長、それが例の調べた結果です」
「だから聞いている。調べたのなら何の資料か言えるはずだ」
「市長・・・それはあなたがよく知っている案件のはずです」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・はぁ、すまない。少々苛立ってしまった」
「平気です。私も調べて、ここまで内情が腐敗しているとは思いませんでしたから」
「これで国家と名乗れるなら少人数で国を名乗っている自称国家がまともに見えてくる」
「ハハハ、違いないです」
「さて、君ならどうするかね?こういうのは若い連中からすると『詰み盤面』と言うのだろう?」
「詰みどころかリセットものです。出来るものなら2000年代の日本からやり直したいですね」
「フム、その時代だったらまだあの組織も大きくはなっていないだろう。いい勘してるよ、君」
「ありがとうございます。それでどうするつもりなんですか」
「決まっている、成果は出すさ。かなり強引な方法だがね」
「と言いますと?市長が綿密な計画を張れるとは思えませんが・・・」
「君、それは失礼だと思うよ」
「失礼しました、普段あまり難しいことをされておりませんので」
「・・・・まあ仕方がない。基本的に私はただの『顔』だ、動けるわけがないだろう。それよりも、だ」
「先程思いついた計画、お教えくださいますか?出来ることなんてたかが知れてますけど」
「ああ、君がやることは簡単だ。難しいのは君の後に動いてくれる者に賭けないといけないことかな」
「・・・・・・死んでも気分が悪くなるのだね」
男の言葉が遠くに聞こえる。呼吸がドンドン荒くなってきた。
チラリと僕は自分の身体を見た。なんでかは分からないけど、なんだか嫌な予感がして見ないといけない気がしたから。僕は自分の身体を見た。
「え・・・・!?」
先ほどまで身体から完全に離れていたはずの足が身体の方に伸びている。しかもここに来る前の男と違い太もものあたりから身体が伸び始めているのだ。それが徐々に股の方まで上がってきて、僕がドンドンと身体の方に引きずられている。
「そろそろか」
「はぁ!?」
男は席に座っていた。僕の方を見ないで天井の方を見ている。男の視線を追うとそこには蛍光灯の光ではない、LEDよりも明るい光が天井のどこからか漏れている。
「な、なんだ・・・あれ・・・?」
「お迎え、といえばわかるかい?」
そうだ、僕らは死んでいる。いずれこうなることは分かっているはずだ、僕だって身体が近くになかったらアレに連れていかれることが明白・・・・
「待て、アンタ」
「なんだい?」
男は何でもなさそうにこちらを向く。そうか、そういうことだったのか。この男は初めからそういうつもりだったということか!僕やあの護衛はこの人の作った盤の上で踊らされただけに過ぎない。本命の、僕をこうした組織を表に出すために。
「クソ!クソ!こんなことをさせる為に協力したわけじゃないぞ!」
後ろから声が聞こえた。僕を治療した医師だろう、彼以外この部屋には誰も残っていない。
「おい!アンタ!それはズル過ぎるだろ!丸投げじゃないか、アンタがどうにかするべきだろ!なあ、そうだろ!!」
「・・・・・・・フム、君は勘違いをしている」
男は静かに立ち上がり、手を天井に伸ばす。天井から伸びる手は明らかに天使のモノとは程遠いしわがれた枝のようで、僕はそれに恐怖を感じた。あの手はマズい、見ただけで歯がカチカチと音を鳴らして、冬の風に長時間当たりすぎたような寒さを感じたのだ。
「やめろ、アンタ!そんなもの、振り払えばいいだろ!まだ何か出来るだろ!さっさと身体に戻ってやることやれよ!大人なんだろ、アンタは!」
「やること?」
男は僕から視線を離し、天井を向く。ふわりと男の身体が浮いた。
「私のやることは今ここで死ぬことだ。至極簡単だろ」
「簡単じゃない!」
僕は立ち上がった。単純な話だ、男が浮けたのならば足が無い僕でも少しの時間は浮けるはずだと思った。そしてその結論は実証されて、僕は無い脚で空を走った。
「僕はアンタを他人の意志で殺した!それは裁かれるべきなんだ!」
「だから?」
ほんの少し前に進んだ。それ以上は進まない。身体からの引きずりの方が強いのだ、まもなく僕は蘇生されるだろう。でも、その前に言いたいことがあった。
「謝りたいんだ!ボクは、貴方に、謝りたい!でも出来ない!あの体に戻れば僕はまた戻ってしまう!他人の意のままになってしまう!だから、謝りたい!ボクは貴方を殺してしまった!それは許されない!許されないんだ!」
「だから私に裁いて欲しいと?」
男は伸びる手を掴んだ。僕の声が聞こえてるはずなのに。
「それは出来ない相談というものだ。こうして君と出会ったのはただの奇跡だ。ここで起きたことを覚えていたとしても君は私の意図を読み解くことは出来まい。だから君には何も託す気はない。すまないな」
僕は声が出なかった。当然だ、僕は彼を殺したのだから。彼から受ける言葉が変わるはずはない。
しかし、男は溜息を吐きそして最期に僕を見た。
「老人が創る未来なんてたかが知れてる。私という痛みから君は何を覚えた?」
僕は口を閉じた。感情が抑えられず、涙だけがあふれた。
「分からない、とは言わせまいよ?もし迷っているならそこの彼を頼ってみるといいかもしれない」
男が指差したのはそこの医師だ。
「彼なら、君を、教え――――――」
最後まで言い切る前に男は天井に姿を消した。
そこで気が抜けて僕は後ろに引っ張られた。身体が本格的に起きようとしている。
「あ、あ、あ・・・・・・・」
僕は巻き尺のようにスルスルと身体の中に入っている。もう体のほとんどが中に入ってしまった。
(な、何か、どうにか、このことを覚えるヒントを・・・・!!)
もう片腕しか動かせない。近くにあるもので何か、何か出来ることは・・・・
「あっ・・・・」
そこでここまで男がしてきたことを思い出す。
男は幽霊の近くにあると体が戻ることを示した。
男は救急車でタバコを吸って出た煙が救急隊員に反応することを示した。
男は最後にスプリンクラーが作動する距離まで腕をろくろ首のようにしてタバコを近づけた。
(つまりこの身体で出来ることは)
僕は動かせる片手を伸ばしメスを掴んだ。掴んだ瞬間に身体が勢いよく吸い込まれた。当然だ、伸ばした分だけ戻る力が働くのを男が既に実証した。だけどメスは掴めた。
(これで出来るのは)
僕は身体に飲み込まれる瞬間に近くにあった医師の手にメスを刺す。
「ぐああっ!?」
医師はもがく様子を見て僕は身体の中に吸い込まれる。
最後に見たのは医師がメスの刺さった手を見ながら開いた扉の先を見て震えていた様だった。
「お目覚めかね」
目を覚ますと知らない天井があった。僕のベッドの横に知らないスーツの男が二人、張り付いた笑顔で立っていた。
「君が一体何をしたか覚えているか」
「・・・・・・・・・・・・・」
「どうだい、覚えているかい?」
「・・・・・・・・・・・・・」
二人は僕の顔を覗き込んで何度も何度も似たような質問をした。
でも僕は上の空で天井のシミばかりを数えながら首を振った。
二人の男が消えて夜になり、少し経つと一人の医師がこちらに来た。その男はメスを持っていた。その手はケガしていた。深い傷だったのだろう、包帯を何度もグルグルと巻いている。
「君は、楽になりたいと思うかい?」
男を見て僕は震えた。この男は僕を殺すつもりだ。そう悟って身体が大きく激しく震えた。
ナースコールを押そうとしたのに手が震えて、上手く押せない。
「ああ、うう、ああ・・・・!!」
「その様子だとまだ生きたいのか。もう助からないというのに」
僕はそれを聞いても何にも感じなかった。ただどうにかしないと死んでしまうという恐怖に取り憑かれ、ただひたすらに押すことに躍起になる。
「ああ・・・!ああ・・・!!」
「もう言葉も話せないのか。ごめんな、本当なら点滴に何かを混ぜればよかったんだけど」
男はただ僕に近付いてくる。だけど僕はただ駄々っ子みたいに暴れるしか出来なかった。
そんな時、手を掴まれた。目の前の男ではない、ベットの下からだ。
「はぅ・・・ぁ・・・?」
その手はただ強く僕を腕を握る。強く、強く、僕の手を握る。
ガリッという音がした。僕はハッと我に還る。
近くにいた医師が僕を不思議そうに見ている。周りを見渡しても明らかに医師は僕だけを見ていた。
口の中に鉄の味が広がる。何か噛んだのだろうか。舌で探って初めて自分で自分の頬肉を噛んだことに気が付いた。
「どうした・・・?君は何をしているんだ・・・?」
僕は僕の手を強く握っていたのだ。それも跡が出来るぐらい、強く、強く、握っていた。
「そんなことをして、自殺でもしようというのか・・・・?」
医師のそんな言葉に僕は首をゆっくりと振っていた。いや、僕の右腕が僕の首を振ったのだ。何故か右腕は僕の意志とは関係なく動いている。
右腕は僕の顔を掴んで、僕の頬を動かす。口をパクパクさせるだけだったが目の前の医師は僕を見て、同じように口を動かす。
「お、お、い、あ、い、あ・・・・なんだ、何を言っている・・・・?」
突然、僕の右腕は近くにあったペンを拾って、何かを書いた。
その文字を見て、僕も医師もただ驚くしか出来なかった。
おもいだした
近くで鉄が落ちる音が聞こえた。
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