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男は静かにまとめる
しおりを挟む「さて、もう一度聞こうか」
場所は病院の中、とある集中治療室の前。
お互いに向かい合って座るとポーンッと手術中の赤いランプが付いた。
「何を」
「どうして私を殺したか、だね」
男の聞き方に多少苛立ちこそあるものの、先程よりもリラックスしているのが分かる。というか長椅子に寝転がっている。このおっさん、本当に政治家か?
「どうしたのかね」
「・・・・・・・・・いや別に」
流石にここまでの付き合いから察しがついた。コイツはプライベートがダメな輩だ。それにさっきの言葉から学んでよくよく見てみると、靴を脱ぎ捨てネクタイを緩めて火こそ着けてないが咥えタバコまでしている。これでダメじゃないと言えるのか。
「どうしたのかね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
さらに見てみると脱いだ靴下は左右で表裏が違う上に種類が違う。片方が裏で某スポーツメーカーのロゴが裏返っているのに対して、もう片方は無地の表だ。うわ、腕時計もよく見たら高級品じゃなくてドンキで買える程度の安いやつだ。これでよく政治家なんてやれたもんだ。
「ど、う、し、た、の、か、ね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あのさ」
「なんだい」
男は起き上がってこちらに向き直る。胡坐をかいて変に不思議がっている顔を見ると、まるで大きな子供の見ているかのようだ。
「僕はどうしてあなたを殺したのだろうか?」
言って、自分でも首を傾げた。一体何を言っているのだろうか。自分でも分からない疑問が頭の中で大きな渦になる。気付くと僕は話し続けていた。
「僕は政治家は全員金持ちでしっかりした態度をしていて、それでいて他人を見下していると思っていた。でもあなたを見る限り、どうにもそれが見れない。さっきだって救急車の中でタバコを吸おうとした。例え僕らが幽霊であったとしても、最低限のマナー・・・というか救急車の中でタバコを吸うなんて行為は流石にダメだと思わない?」
そう、まず思いついたのがこの疑問。最低限のマナーを守れるのが政治家だと僕は思っていた。でもこの男はそれをしなかった。しかも電子タバコにわざわざライターを出して火をつけてまでタバコを吸おうとした。流石に周りの迷惑になったらやめはしたものの、あまりにも傲慢が過ぎる。また僕はペラペラと話を続ける。
「それと今の態度だ。ここは病院で集中治療室の前だ。近くに悲しんでいる親族がいなくても手術されているのは僕だ、目の前に手術中の相手がいるのにどうしてそんな態度が出来る?失礼だと思わないの?」
僕は自分でも信じられないくらい言葉を並べた。多分これだけ言葉を並べたのは小学校かそこらの年に親に対してテキトーにテレビで見たことをさも自分がやってのけたかのように話した時以来だ。まあ定かじゃないけど。
すると男はクククと小さく笑い、そして大きく口を開いてハハハハハハハハ!と笑ったのだ。
「なんだ!君は周りを見ないのではなくて、周りに見られないようにされていたのか!!ハハハハハ!なるほど、それで私を刺したというのか!アハハハハハハハハハハハハ!!!!」
男は腹を抱えて笑いだした。その光景はあまりにも異質で、僕は幽霊のはずなのに背中にゾッとするものを感じた。
「な、なんで、笑うんだ・・・」
僕のつぶやきに男は笑いを止めてゆっくりとこちらを見た。一時の静寂が辺りを包み、シーンというオノマトペが目に見えそうなほど静かになった時に男はゆっくりと口を開いた。
「ああ、思い出した。君、佐竹誠君だね」
「は?」
ドキリとした。宝くじが当たるのと似たような感じだ。いや、当たりはしたが良くない方に当たった。そっちの方がしっくりくる。
「佐竹さんの両親は比較的温和だったと聞いていた。まああくまでも聞きかじった程度だからそこまで信用する情報ではなかったな。結局、私がこうして死んだことがその事実を裏付けている」
男は先程までとはうって変わってまるで別人のように、違う、まるで言葉を紡ぎだすマシーンのように、乱雑に言葉を並べ始めた。
「佐竹和江、亮二夫妻は共働きと聞いていたが佐竹亮二が会社をクビになったという情報は聞いていなかった。むしろ軌道に乗り部長にまでなったと居酒屋で働いている店員に話していた。逆に佐竹和江は借金があるという情報はあったがつい先日、それを全て完済。晴れて自由の身になったことを喜んでいたと闇金が言っていた情報がある。つまり誠君の両親の行動と誠君が話した事実に食い違いがある。これはおかしなことだ。それに誠君に弟たちはいない、彼の家は一人ッ子のはずだ。もし隠し子や佐竹亮二の不倫によって出来ていたとすればその線もあり得るが、残念ながらそんな話は一言も聞いていない。むしろ夫婦仲は近所でよく耳にするほど良好なものだ。近所の主婦たちがよく話していたから間違いはないだろう。じゃあ彼の言ったことは間違いだと言うのか?いや、それはないだろう。なにせ彼は私の態度をしっかりと見てしっかりと間違いであることを言ってのけた。これは確実に正解だ、わざと間違えた私が言うのだから間違いない。よってここで考えられるのは・・・」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!あんた、さっきから何を言っているんだ!?」
男は口を閉じ、瞬きをすると、何度も聞いた質問を吐いた。
「君は、どうして私を殺したのかね?」
それが分からないんだ、と言って立ち上がると同時に集中治療室のランプが消えた。
「僕は・・・・」
答えが出てこない。すくんでしまったのか、怯えてしまったのか。声が出なかった。
「僕は・・・・・・・」
頭がグラグラして目の前が揺れだす。気持ちが悪い、幽霊となっているはずなのに身体が妙にふらついて、自然と膝から崩れた。
「フム」
男が集中治療室の扉を透けて入る。そして何事もなかったように戻ってきて、僕に手を差し伸べた。
「おめでとう、手術は成功した。どうやら君だけは助かったようだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
何かを出す余裕は無かった。身体がグワングワンと揺れてどうにも意識がはっきりしない。酔っていながらまっすぐ立って回転しているみたいだ、気持ち悪さとなんで止まらないのか分からないという疑問が脳を支配してくる。
「分からない」
「ほう?」
ようやく口から言葉を出せた。でも、言いたかったものとは違う。これじゃない、僕が言いたいのはこれじゃない。
「僕は、周りが悪いからあなたを刺した。それだけだ」
違う、違うのに。グルグルグルグルグルグル。世界がおかしな感じにグルグルと回っている。その中に綺麗な空が見えて、あそこに着けば楽なのだろうと本能が悟る。
「だから、だから、だから、だからだからだからかだだらkrかまkrまkrまkrまkmskmsかかかかかかかっかかかかかかかかっかかかかか」
「しっかりしたまえ」
男から張り手をもらった。そこで我に還った。一体何をしていたのだろうか。
「これが何に見えるかね」
男が手元からライターを取り出す。そしてカチンと火打石を鳴らして、火をつける。
「火をつけたライター」
「そうだ。じゃあこれをあそこに近付けたらどうなるかね」
男は手をろくろ首のように伸ばして、天井の一点まで伸ばす。
「スプリンクラーが、作動して、警報が鳴って」
「水が出るのだ。ふむ、意識は段々と戻ってきたようだな」
ジリリリ、とけたたましい警報が鳴ってスプリンクラーから大量の水が雨のように僕らを濡らす。当然ながらライターの火は消えて、集中治療室から警報に反応して人が出てくる。
「僕は一体何を」
「何もしてはいない。君はな」
「なんだこれはぁ!!?」
声は警報が鳴り響く中でもよく聞こえた。集中治療室の中にまだ移動していない人物、緑の服に血が付いているから恐らく僕を治療した医師だろう、が僕の身体の近くに握りこぶしを作っている。
「来るかい」
男は静かに僕を見た。その目は悲しそうに僕を見て、そして僕から視線を離した。でもスッと手を差し伸べてくれた
「・・・・・・・・・・・・・」
僕は答えられずにただ差し伸べられた手を掴んだ。
立ち上がり、ヨロヨロと身体に近付き、気付いてしまった。
男が目を僕から離した理由、医師が慟哭の声を上げてしまった理由、そして僕が、些細なことを愛しているとさえ思っていたはずの僕が、どうして衝動に任せて人を刺してしまった理由。
全部が僕の身体に文字よりも分かりやすく書かれていた。
「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
僕の両腕には小さな穴が大量にあったのだ。
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