牛丼、大盛、つゆだくで

三森のらん

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7.オッサンとの距離感に困惑する俺

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 朝帰りをした俺に、みわ子は「連絡遅い」と、玄関先でムッとした顔で出迎えた。すでに出勤のために、化粧も終わってる。といっても、眉を描いてるだけの薄化粧だけど。いつも年齢のわりに若く見られるのは、童顔のせいだ。
 そんなみわ子に似た俺も童顔系。時々、それで損することもある。

 LINEでメッセージは昨夜のうちに送ってたけど、きっとみわ子が気が付いたのは今朝になってからだったのだろう。そのせいで怒ってるんだ。
 でも、LINEできただけ、マシだと思うんだけど、みわ子は昨夜のことを知らないんだから、仕方がない。そもそも細かいことは説明するつもりはない。

「ごめん」

 俺はそそくさと家に入る。
 オッサンは車で送ろうかと言ってくれたけど、結局、最寄り駅を教えてもらうだけで、逃げるようにマンションから出てきたのだ。

「朝ごはんは?」
「食ってきた」

 早朝からやってる駅の立ち食いのうどん屋で、わかめうどんをかきこんできたのだ。

「政人、あんた、今日学校は?」
「ある」
「……遅刻しないで行きなさいよ」
「うん」

 背後から聞こえる不機嫌そうなみわ子の声に返事をしながら、今日の講義のテキストだけバッグの中に入れていく。本当なら着替えたいところだけど、壁にかかる時計を見ると、そんな余裕もなさそうだ。

「今日は?」
「あ、今日もバイト」
「遅くなるの?」
「ううん、いつも通り」

 ……のはず。一瞬、『坊ちゃん』の顔と、オッサンの顔が浮かんで消える。
 さすがに昨日の今日で何かあるとは思えない。思いたくない。

「じゃあ、私、今日は早番だから行くね」
「うん、俺もすぐ出る」
「あっそ」

 まだちょっと不機嫌なみわ子が、アパートのドアから出ていく後ろ姿を見送る。
 昨夜、海老沢たちと飲んでて、終電を逃したので泊って帰るってLINEした。だから、俺が『ヤ』のつく職業の人たちといたとは思ってないだろう。
 さすがに、正直に教えたら心配させるのが目に見えてる。たぶん……武原さんの名前を出しても心配しただろう。世話になってる相手とはいえ、武原さんの仕事のことを知ってるだけに。

 俺も急がないと、一限に遅刻する。出席日数に厳しい教授だけに、休むわけにはいかない。天童も海老沢も取ってない講義だから、代返も無理だ。

「ヤバイヤバイ」

 小さく呟きながら、慌てて玄関を出て鍵を締める。
 見上げた空は、薄曇り。少し、蒸し暑くなるだろうか。

「いけね。急がなきゃ」

 俺はアパートの階段を慌ただしく駆け下りた。
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