100均で始まる恋もある2

三森のらん

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3.エアプランツ

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 今では雑草だらけになってしまっている小さな庭に、季節の植物を植えたいからと、さおりと静流にねだられて車で、近くの大規模なホームセンターに行った時のこと。
 さおりが植物を選んでいる間、俺と静流は温室のようなところに入って時間をつぶしていた。

「パパ、これ、生きてる?」

 植物の蔓で編まれたカゴに、うねうねとした植物がいくつも入っていた。
 静流はその一つを手に取って見せた。俺は、植物のことなどよく分からなかったが、カゴに値札もついているのだから、生きているものなのだろう、と思った。実際、枯れている様子もなく、張りのある状態だった。

「生きてるみたいだな」
「土、ないのに?」
「だな」

 不思議に思いながら、一つ手に取る。俺の手のひらでは、ずいぶんと小さいものに感じた。

「あら、エアプランツ?」

 さおりが買い物カゴに、いくつかの小さな黒いポットに入った植物の苗を入れて戻って来た。

「へえ、これがエアプランツってやつか」

 よく見れば、値札に小さく書いてあったことに気付く。

「土も水もいらないって聞いたことあるわ」
「そうなんだ」
「ママ、これ、欲しい」

 静流の小さな手に、エアプランツが一つだけ握られていた。

「そうねぇ、これなら静流でも育てられるかな」
「おい、育てるって、土も水もいらないんだろ?」
「あ、そうか」

 アハハ、と楽しそうに笑うさおりと、不思議そうに俺たちを見上げている静流の姿。
 今でもありありと思い浮かべることが出来る。


 そんなことを思い出している俺の耳に、男の子と女性の会話が耳に飛び込んできた。

「土とかなくても育ちます」
「水は?」
「時々、霧吹きを使ってあげたほうがいいです。お店でも、一応、かけてます」

 彼の言葉は青天の霹靂だった。


 あの頃、さおりの言葉を真に受けて、俺も静流も水をやることなど考えもしなかった。陶然の結果として、エアプランツはほどなくして枯れてしまった。
 俺自身は育て方を調べもしなかったし、それはさおりと静流で面倒をみているものと思っていたせいもある。しかし、さおりは庭の手入れに夢中で、静流のエアプランツまで気が回っていなかったし、静流は静流で、ママの手伝いに夢中になっていて、自分のエアプランツのことなど忘れてしまっていた。
 なにせ「土も水もいらない」と思っていたのだから。
 静流は枯れてしまったことを残念に思いながらも、すぐにその存在を忘れてしまった。なぜなら、庭には、エアプランツよりも美しい花々が咲いていたのだから。
 今では、その名残はまったくない。


 俺は、いつの間にか、男の子のことをジッと見つめていたらしい。
 彼の目が、少し困ったような顔で見ているような気がしたので、俺はすぐに視線をそらし、商品を受け取るとさっさとその場を立ち去った。

 あのレジにいた女性は興味を持っていたようだったが、結局、買ったのかどうなのかは、わからない。エアプランツは彼のレジの脇にしか置いてなかった。たぶん、目の前のレジにも置いてあったら、俺も手に取ったかもしれない。それは、少し切なくて、懐かしい思い出だったせいだろう。
 次に目の前にあったら、素直に手を伸ばしてしまいそうな気がした。


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