100均で始まる恋もある2

三森のらん

文字の大きさ
54 / 93
7.オーナメント

53

しおりを挟む
 先に食べ終えてしまった俺は、店員の彼女に瓶ビールをもう一本頼んだ。濱田くんは必死にラーメンに山盛りにのっている野菜と格闘している。その姿に思わず微笑みながら、周囲を見渡すと、けっこう客が増えていた。雑多な音が響く中、ビールが届けられると「濱田くん」と声をかけた。ちょうど麺をすすりあげている時だったようで、返事ができそうにもない濱田くんに、そのまま聞くように、と続けた。
 ずるずると麺をすする音に、俺は言葉を重ねていく。
 濱田くんのくれた言葉に戸惑ったこと、あれからずっと考えてたことを。ひたすら麺をすすっている濱田くんは、どんな顔をして俺の言葉を聞いているのだろう。彼のリアクションが戻って来ないことに、少なからず困惑する。
 ごくん、と飲み込んだ微かな音とともに、ゆっくりと濱田くんは顔を上げた。その顔には、一瞬、ひどく不安そうな表情が浮かんだが、俺の顔を見て、箸を手にしたまま躊躇うような表情に変わった。彼に、今の俺の気持ちは伝わるだろうか。

「戸惑いはしたけど……君の気持ちは嫌じゃなかった」

 自分の素直な感情を人に伝えることなど、いつ以来だろうか。
 少し照れ臭くなって、見つめていた視線をはずす。

「だから、ちゃんと君と話がしたいと思ったんだが、俺、濱田くんの連絡先、知らないし」

 ビールがなみなみと入っているグラスに口をつける。こうして濱田くんと一緒にいるからだろうか。いつにもまして、ビールが旨く思える。

「だから、いつものように仕事帰りに百均に行ったんだけど、君の姿は見えないし。うちにバイトに来てる……何さんだっけ?」
「……湯浅さん……」
「そう、彼女に聞いたんだ。学部が違うからわからないって言ってたのに、わざわざ調べてくれたみたいで。君が大学には来てるって聞いて、少し安心したんだ」

 チラリと様子を見ると、顔を真っ赤にして、箸は止まったまま、俺の顔を見つめている。
 それが嬉しくて、何度か店に様子を見に行った話をすると、火曜日にはいた、という。残念ながら、その日は俺の方が会議で行けなかった。しかし、こうして週末に来てみて正解だった。そう伝えると、濱田くんは泣きそうな顔になった。そんな顔すら、俺にはもう、かわいいと思えるようになっているんだが、彼には、それは伝わっているだろうか。

「なぁ、濱田くん」

 俺の呼びかけに、濱田くんは片手で顔を隠してしまう。涙が零れだしているようで、頬にきらりと光るものがあった。

「いつも君から向けられる視線が、好意のあるものだってわかってたよ。久しぶりに無条件で嬉しいとも思えたよ。ただ、それは……亡くした娘から向けられる好意と同じように感じてたんだ……でも、そうじゃなかった」

 濱田くんは箸を握りしめながら泣き始めてしまった。俺としては、責めてるつもりはなかったのだが、濱田くんには、そうは聞こえなかったのだろうか。

「あの日、君に拒絶されたことで、俺がしたことが君を追い詰めて、苦しめてたことがわかった……君も最初は言葉にするつもり、なかったんだろ?」

 コクンと小さく頷く濱田くん。彼に少しでも俺の想いが伝わればと、できるだけ飾らずに、思っていることを言葉にしていく。

「……妻と娘がいなくなって、しばらくは色恋は考えられなかった。だから仕事で忙しくして余計なことを考えないようにもしていたんだが。そもそも、こんなおじさんに、興味を持つような女の子なんていないし、だから、俺の方も、すっかりその手のことに興味なんて持てなくなってたんだよね」

 下を向いたままの濱田くんの小さな頭に手を伸ばし、ポンポンと叩く。

「君に言われてから、思い返してみたんだ。君が向けていてくれた視線のことを。一途に僕のことを見てくれてた君のことを。そしたらね……やっぱり、嬉しいって思ったんだよ。君が俺の目の前からいなくなって、寂しいって思ったんだ」

 濱田くんがようやく顔を上げてくれた。くしゃくしゃの泣き顔の濱田くん。
 彼にちゃんと伝えなくては。

「濱田くん、ありがとう」

 涙で濡れた頬に、するりと手を伸ばす。

「俺も、濱田くんのこと、好きだよ」

 中華料理店のざわめきの中、濱田くんはただひたすら、声もなく泣き続けた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

宵にまぎれて兎は回る

宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…

竹本義兄弟の両片思い

佐倉海斗
BL
 高校一年の春、母親が再婚をした。義父には2歳上の引きこもりがちな連れ子の義兄がいた。初対面ではつれない態度だった義兄だった。最初は苦手意識があったのに、先輩に目を付けられて暴行されている時に助けられてから、苦手意識が変わっていった。それにより、少しずつ、関係が変わっていく。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

処理中です...