100均で始まる恋もある2

三森のらん

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8.クリスマスツリー

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 濱田くんの顔が一瞬、悲し気に歪む。

「山本さん」
「ん?」

 俺の名を呼ぶ濱田くんを見下ろした瞬間、濱田くんの唇が俺の唇に触れた。ほんの一瞬だけれど、彼なりの必死さが伝わる口づけ。

「……嫌……ですか?」

 泣きそうな顔の濱田くんに、紳士でありたい、大人でありたいという思いは、簡単に崩れ去りそうになる。そんな自分を落ち着かせようと、片手で両目を隠し、大きくため息をつく。

「ごめんなさい……」

 俺のため息を誤解したのか、濱田くんは小さく呟くと、俺の腕の中から逃げようとした。

「許さない」

 無自覚に、こんな風に煽る濱田くんが悪い。

「や、山本さんっ!?」

 俺は再び濱田くんを抱きしめると、目の前にある真っ赤な顔の濱田くんの目元にキスを落としていく。恥ずかしそうに顔を逸らす彼に、そっと話しかける。

「濱田くん、あんまりかわいいことしないで。俺も、これでも我慢してるんだよ?」
「我慢……しなくていいです……」

 その言葉に、俺のストッパーはあっさりと壊れる。

「……ズルいな」

 そう言うと、彼の唇に優しく口づける。何度も何度も、啄むように唇を重ねるうちに、うっとりとした濱田くんの唇が微かに開く。その中に分け入ると、おずおずと逃げ腰の舌を絡めとる。慣れていないその感触に、内心、喜びを感じる。
 拙いながらも必死に俺に応えようとする濱田くん。甘い唾液が口の端から零れそうになる。俺のコートにしがみつくだけで精一杯だったようで、足元が覚束なくなってしまった。
 荒い息を吐きながら、陶然と俺を見つめる濱田くんに、再び、軽いキスをして、強く抱きしめた。自分でも久々に下半身が反応してることに気付く。これ以上は、今はマズイ。正直、今日は平日で明日も仕事だし、そもそも何の準備もしていない。

「続きは、また今度ね」

 そう言って路地裏から連れ出すと、顔を真っ赤にして俺を見つめてる。その表情に、俺がどれだけドキドキしているか、濱田くんは気づいていないだろう。

「また、濱田くんから誘ってくれると嬉しいな」

 そう言ってアパートのほうへと進もうとした時。

「じ、じゃあ、ク、クリスマスイブは?」 

 濱田くんは必死な顔になって、そう聞いてきた。

「イブ?……そういえばそんなイベントもあったね」

 久しく、クリスマスイブを祝うなどということもなかった。社内でのイベントがあったとしても、一次会に参加する程度だ。そもそも、おっさんの俺がいなくてもいいくらいなのだ。

「かまわないけど……でも、イブは日曜日だよね……」
「あ、は、はい」
「次の日は月曜日だから、あまり遅くまでは一緒にいられないけど」

 恋人らしいイベント、なのに、翌日のことを考えなくてはいけないのは、少しばかり無粋な気もする。そして、ふと、思い立つ。

「それじゃ、金曜日の夜は、俺のためにあけといてくれる?」

 濱田くんの耳元に囁くと、「え?」と驚いた顔をする。その表情もやっぱり可愛いと思ってしまう。

「バイト終わるころに、迎えに行くから」

 いつものように濱田くんの頭を軽く叩いてから、額にキスをする。これも俺の中では濱田くんとの別れ際の決まり事になっている。それをしないと、落ち着かない。そして、いつものようにぽわんとした顔の濱田くんを見て安心するのだ。
 金曜日は、残業はしない、と、心に決めながら、俺は自宅へと向かった。
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