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9.酒のつまみ、再び
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年末仕様の俺のスケジュールは、テルくん不足で癒しが枯渇している。
年末の挨拶周りに時間をとられ、安定(?)の小島のトラブルで業務のほうが遅れ気味なせいもある。そして、テルくんが明日から実家に帰るというのに、今日は、営業部の忘年会だ。
「山本、ほれ、飲めよ」
「ああ」
俺の隣にやってきたのは、すでに顔を赤くしている小笠原。赤くはなっているが、それほど酔ってはいないのは、いつものことだ。他所を回ってきた後に、ちょうど空いていた隣の席に座り込んだ。片手にはビールの瓶と、もう片方には自分用のグラス。席に座ると、すぐに俺の空いていたグラスにビールを注いだ。
「お疲れさん」
「おお、お疲れ」
ビールのグラスをカチリと音をたてて乾杯すると、クイッと飲み干す小笠原。俺も合わせたように一気に飲み干す。家で飲んでるのは、ほとんどノンアルコールなだけに、久々に飲むビールは旨い。思わず、ぷはっと息を吐く。
「今年も終わりかぁ」
「早かったなぁ」
「まぁ、年をとると、余計にそう感じるんだろ」
互いに年寄りじみたことを話しながら、俺は周囲を見渡す。会社の近所の居酒屋の座敷を貸し切りにしての忘年会は、毎年恒例となっている。営業部といっても、同じフロアにいる連中だけだから、それほど大人数ではない。座敷の入り口近く、テーブルの端のほうに遠藤や八巻さんなど、若い連中が集まって盛り上がっている。
「そういや、八巻さん、年内だってさ」
「ああ」
八巻さんは結局、遠藤も葛木も落とすこともできず、出向期間を終えて、元居た会社に戻ることになった。二人とも顔には出さないが、だいぶ、ホッとしたようだ。逆に、八巻さんの方は小島たち女性陣とやけ酒のように、ガンガン飲んでいる。高音のよく響く笑い声は、やはり八巻さんだ。
「まぁ、彼女ほどのバイタリティーがあれば、戻ってもなんとかするだろ」
「だろうな」
遠藤から乗り換えての葛木への猛アタックと、意外に早めの玉砕は、フロア内では誰もが知っている話になっていた。それでもめげずに、葛木へのアプローチの手は緩めなかった八巻さん。まぁ、それに付き合った葛木も偉いといえば、偉かった。しかし、八巻さんの方の時間切れ。彼女には申し訳ないが、こっちとしては、ついに、というか、ようやく帰ってくれるので、ホッとしたのも事実だ。
しばらく小笠原と仕事の話をしていると、マナーモードにしていたスマホがジャケットのポケットの中で揺れだした。俺は話をつづけながらも、スマホを取り出す。それはテルくんからのメールだった。
『お疲れ様です。あまり飲み過ぎないでくださいね』
時間からして、きっとバイトが終わって帰るところなのだろう。歩きながら、メールの文章を打っているテルくんの姿が頭に浮かび、思わず笑みが零れる。
ご両親から早く帰ってこいと言われ、甥っ子の面倒を任されるのが嫌、とは言っているものの、素直に帰るテルくん。ご両親も息子の顔が見たいからこそ、なのだろう。俺も親だった経験上、その気持ちも理解できる。
「なんだ、恋人か?」
そんな俺を見て、小笠原がニヤニヤしながら話かけてきた。冗談半分で言ってきたのかもしれないが、それが真実なだけに、俺はニヤリと笑い返す。すると、小笠原のほうが一瞬固まり、驚いた顔でポツリと呟く。
「マジかよ」
「……さぁな」
「おいおい、なんだ、この年末のタイミングに。どれ、詳しく聞こうじゃないか」
嬉しそうにノリノリで小笠原がビール瓶をつかんで、俺のグラスに注いでくる。正直、こんな大勢のいる場所で話をするつもりはない。
でも、いつか、こいつにもちゃんと話せるようになれたら、と思う。
年末の挨拶周りに時間をとられ、安定(?)の小島のトラブルで業務のほうが遅れ気味なせいもある。そして、テルくんが明日から実家に帰るというのに、今日は、営業部の忘年会だ。
「山本、ほれ、飲めよ」
「ああ」
俺の隣にやってきたのは、すでに顔を赤くしている小笠原。赤くはなっているが、それほど酔ってはいないのは、いつものことだ。他所を回ってきた後に、ちょうど空いていた隣の席に座り込んだ。片手にはビールの瓶と、もう片方には自分用のグラス。席に座ると、すぐに俺の空いていたグラスにビールを注いだ。
「お疲れさん」
「おお、お疲れ」
ビールのグラスをカチリと音をたてて乾杯すると、クイッと飲み干す小笠原。俺も合わせたように一気に飲み干す。家で飲んでるのは、ほとんどノンアルコールなだけに、久々に飲むビールは旨い。思わず、ぷはっと息を吐く。
「今年も終わりかぁ」
「早かったなぁ」
「まぁ、年をとると、余計にそう感じるんだろ」
互いに年寄りじみたことを話しながら、俺は周囲を見渡す。会社の近所の居酒屋の座敷を貸し切りにしての忘年会は、毎年恒例となっている。営業部といっても、同じフロアにいる連中だけだから、それほど大人数ではない。座敷の入り口近く、テーブルの端のほうに遠藤や八巻さんなど、若い連中が集まって盛り上がっている。
「そういや、八巻さん、年内だってさ」
「ああ」
八巻さんは結局、遠藤も葛木も落とすこともできず、出向期間を終えて、元居た会社に戻ることになった。二人とも顔には出さないが、だいぶ、ホッとしたようだ。逆に、八巻さんの方は小島たち女性陣とやけ酒のように、ガンガン飲んでいる。高音のよく響く笑い声は、やはり八巻さんだ。
「まぁ、彼女ほどのバイタリティーがあれば、戻ってもなんとかするだろ」
「だろうな」
遠藤から乗り換えての葛木への猛アタックと、意外に早めの玉砕は、フロア内では誰もが知っている話になっていた。それでもめげずに、葛木へのアプローチの手は緩めなかった八巻さん。まぁ、それに付き合った葛木も偉いといえば、偉かった。しかし、八巻さんの方の時間切れ。彼女には申し訳ないが、こっちとしては、ついに、というか、ようやく帰ってくれるので、ホッとしたのも事実だ。
しばらく小笠原と仕事の話をしていると、マナーモードにしていたスマホがジャケットのポケットの中で揺れだした。俺は話をつづけながらも、スマホを取り出す。それはテルくんからのメールだった。
『お疲れ様です。あまり飲み過ぎないでくださいね』
時間からして、きっとバイトが終わって帰るところなのだろう。歩きながら、メールの文章を打っているテルくんの姿が頭に浮かび、思わず笑みが零れる。
ご両親から早く帰ってこいと言われ、甥っ子の面倒を任されるのが嫌、とは言っているものの、素直に帰るテルくん。ご両親も息子の顔が見たいからこそ、なのだろう。俺も親だった経験上、その気持ちも理解できる。
「なんだ、恋人か?」
そんな俺を見て、小笠原がニヤニヤしながら話かけてきた。冗談半分で言ってきたのかもしれないが、それが真実なだけに、俺はニヤリと笑い返す。すると、小笠原のほうが一瞬固まり、驚いた顔でポツリと呟く。
「マジかよ」
「……さぁな」
「おいおい、なんだ、この年末のタイミングに。どれ、詳しく聞こうじゃないか」
嬉しそうにノリノリで小笠原がビール瓶をつかんで、俺のグラスに注いでくる。正直、こんな大勢のいる場所で話をするつもりはない。
でも、いつか、こいつにもちゃんと話せるようになれたら、と思う。
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