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5.ネクタイ
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正直、目の前に山本さんが座ってる状況のせいで、せっかく奢ってもらった昼食を味わう余裕は皆無。ただひたすら、口に入れては噛んで飲み込む、そのことに集中していた。
山本さんもあまり話をするタイプじゃないみたいで、お互いに黙々と食べていた。山本さんは、あっという間に食べおると、スマホを取り出して、何かをチェックし始めた。僕は、なんだか待たせてしまってるみたいで、急いで箸を進めようとする。
「いいよ、慌てなくて」
「っ!?」
「ちゃんと休憩時間取らないと」
僕のほうを見ずにそう言う山本さん。スマホを見ながら麦茶の入った湯呑を口に運ぶと、すでに空になってたのか、途中で動きが止まった。すると、何も言わずに立ち上がり、セルフサービス用のポットが置いてあるところに歩いて行った。
「濱田くんも、おかわりいるかい?」
小ぶりなポットを持ち上げて見せてくれる山本さん。僕の湯呑もほとんど残っていなかったから、口の中のものを咀嚼しながら頷いた。
コポコポと湯呑に落ちる麦茶。もしかして、最初に置かれたのも山本さんがいれておいてくれたのだろうか。なんだか申し訳なくって、チラリと山本さんの顔の様子をうかがう。
「ここ、旨いだろ」
テーブルの上にポットを置くと、麦茶を飲みながら少しだけ顔をほころばせた。
「あ、はい」
山本さんのイメージだと、言ってはなんだけど、もっとオジサンたちがいっぱいいそうな定食屋さんに連れて行ってもらえるのかと思ってた。
ここはどちらかといえば、若い女性が来そうなイメージ。だけど、さっき見た時は、サラリーマンの中に混じって、土木作業員みたいな若い人もちらほらいた。
「ここは大盛りでも料金が変わらないんだよ」
そう言われれば、お姉さんに大盛りにするか聞かれたっけ。僕は、どちらかといえば食が細いから、普通でお願いしたけれど。山本さんのは、やっぱり僕のお茶碗と比べると、もう少し大き目などんぶりサイズだった。
「それに、一人暮らしだと、やっぱり栄養面が偏るからねぇ」
ここでバランスをとるようにしてるんだよ、と、少し恥ずかしそうに言いながら、麦茶を飲みほしていた。言われてみれば、僕も自分ひとりだと面倒で、夜は大概はコンビニ弁当で済ませてしまってる。
僕は小さく頷きながら、最後の味噌汁を飲み干した。
「ご馳走様でした」
小さくつぶやく僕を見ながら、山本さんがフッと微笑んだ。その優しそうな笑顔に、僕は胸がトクンとはねる。そんなこと、山本さんは気づきもしないだろうけれど。
「じゃあ、戻るか」
「あ、はい」
下へ降りる階段に向かう。その後をついていく僕。ちょっとだけ山本さんの頭を上からのぞけることに、ちょっとしたドキドキを感じてる。いつも、見下ろされてる感じがしてただけに、少しばかりの優越感。そして髪の間に、数本の白髪を見つけてしまう。
「濱田くんは、あとどれくらい仕事が残ってるんだ」
「えと、かなり集中したので、あとファイル一冊分くらい……だと思います」
僕は階段の斜めになった天井を見上げながら、さっきまでやっていた作業のことを思い返す。それは渡された資料の最後の一冊。
「おお、早いな。今朝みかけた時には今日中は無理なんじゃないかと思ったのに」
目を見張りながら山本さんが、下から振り返った。
「え、あ、そうですか?……あれ、僕、間違って入力しちゃってたりしないかな……」
ブツブツと呟く僕。不意に、自分のやった仕事のことが気になってくる。それで山本さんに迷惑とかかけたら、どうしよう。
「締め切りは来週の始めだからね。まぁ、何かあってもなんとかなるだろう……ご馳走様」
「ありがとうございました~」
おばさんの声を背中に受けて、僕たちは店を出た。
僕はずっと、ミスをしていないかと不安に感じながら、会社に戻る足を早めた。
山本さんもあまり話をするタイプじゃないみたいで、お互いに黙々と食べていた。山本さんは、あっという間に食べおると、スマホを取り出して、何かをチェックし始めた。僕は、なんだか待たせてしまってるみたいで、急いで箸を進めようとする。
「いいよ、慌てなくて」
「っ!?」
「ちゃんと休憩時間取らないと」
僕のほうを見ずにそう言う山本さん。スマホを見ながら麦茶の入った湯呑を口に運ぶと、すでに空になってたのか、途中で動きが止まった。すると、何も言わずに立ち上がり、セルフサービス用のポットが置いてあるところに歩いて行った。
「濱田くんも、おかわりいるかい?」
小ぶりなポットを持ち上げて見せてくれる山本さん。僕の湯呑もほとんど残っていなかったから、口の中のものを咀嚼しながら頷いた。
コポコポと湯呑に落ちる麦茶。もしかして、最初に置かれたのも山本さんがいれておいてくれたのだろうか。なんだか申し訳なくって、チラリと山本さんの顔の様子をうかがう。
「ここ、旨いだろ」
テーブルの上にポットを置くと、麦茶を飲みながら少しだけ顔をほころばせた。
「あ、はい」
山本さんのイメージだと、言ってはなんだけど、もっとオジサンたちがいっぱいいそうな定食屋さんに連れて行ってもらえるのかと思ってた。
ここはどちらかといえば、若い女性が来そうなイメージ。だけど、さっき見た時は、サラリーマンの中に混じって、土木作業員みたいな若い人もちらほらいた。
「ここは大盛りでも料金が変わらないんだよ」
そう言われれば、お姉さんに大盛りにするか聞かれたっけ。僕は、どちらかといえば食が細いから、普通でお願いしたけれど。山本さんのは、やっぱり僕のお茶碗と比べると、もう少し大き目などんぶりサイズだった。
「それに、一人暮らしだと、やっぱり栄養面が偏るからねぇ」
ここでバランスをとるようにしてるんだよ、と、少し恥ずかしそうに言いながら、麦茶を飲みほしていた。言われてみれば、僕も自分ひとりだと面倒で、夜は大概はコンビニ弁当で済ませてしまってる。
僕は小さく頷きながら、最後の味噌汁を飲み干した。
「ご馳走様でした」
小さくつぶやく僕を見ながら、山本さんがフッと微笑んだ。その優しそうな笑顔に、僕は胸がトクンとはねる。そんなこと、山本さんは気づきもしないだろうけれど。
「じゃあ、戻るか」
「あ、はい」
下へ降りる階段に向かう。その後をついていく僕。ちょっとだけ山本さんの頭を上からのぞけることに、ちょっとしたドキドキを感じてる。いつも、見下ろされてる感じがしてただけに、少しばかりの優越感。そして髪の間に、数本の白髪を見つけてしまう。
「濱田くんは、あとどれくらい仕事が残ってるんだ」
「えと、かなり集中したので、あとファイル一冊分くらい……だと思います」
僕は階段の斜めになった天井を見上げながら、さっきまでやっていた作業のことを思い返す。それは渡された資料の最後の一冊。
「おお、早いな。今朝みかけた時には今日中は無理なんじゃないかと思ったのに」
目を見張りながら山本さんが、下から振り返った。
「え、あ、そうですか?……あれ、僕、間違って入力しちゃってたりしないかな……」
ブツブツと呟く僕。不意に、自分のやった仕事のことが気になってくる。それで山本さんに迷惑とかかけたら、どうしよう。
「締め切りは来週の始めだからね。まぁ、何かあってもなんとかなるだろう……ご馳走様」
「ありがとうございました~」
おばさんの声を背中に受けて、僕たちは店を出た。
僕はずっと、ミスをしていないかと不安に感じながら、会社に戻る足を早めた。
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