100均で始まる恋もある

三森のらん

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8.クリスマスツリー

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 僕はよほど酷い顔をしていたんだろうか。
 山本さんは、僕の顔を見て、フフフと、眉を下げながら笑った。

「そんな顔するなよ」
「……でも」

 自分の無神経さに、情けなくて、恥ずかしくて、僕は俯いて小さなコーヒーカップを握りしめた。

「この店はね、娘の5歳の誕生日のお祝いで来たんだよ。まぁ、子供だからねぇ、煩くして迷惑をかけちゃったんだけど。その時、対応してくれたスタッフの方たちがいい人だったおかげで、いい思い出になってるんだ」

 遠くを見るような目で、山本さんは窓の外を見ていた。
 その視線の先には、その誕生日の風景が蘇っているんだろう。

「一人でこの店に来たら、あの時のことを思い出して、今の自分が寂しくて辛くて苦しくなりそうだった。だから来れなかったし、この店のことも忘れようとしてた」

 コーヒーを一気に飲み干す山本さん。

「もう8年……8年経ったんだ。いつまでも、思い出にしがみついてちゃ、妻や娘に笑われる。久しぶりに来たけど、まだ店が残ってたことに驚いたけど、相変わらず、料理は旨かったから、よかった」

 山本さんは、晴れやかな笑顔で僕を見つめた。

「一緒に来てくれて、ありがとう」

 僕は、そんな山本さんを見て、少しホッとしたと、同時に、僕なんかでよかったのかな、と少しだけ心配になった。
 食事を終えると、僕らは会計に向かった。僕は自分の分はちゃんと払うつもりでいたのに、「大人に恥をかかせないで」と笑ってお金を受け取ってはくれなかった。

「ご、ご馳走様でした」
「いえいえ」

 微笑みながら財布を取りだす後ろ姿に見惚れてしまう。そして、山本さんに自分が奢ってもらってるということに、少しばかりくすぐったい気分になった。
 それから僕たちは、僕のアパートまで一緒に歩いた。女の子じゃないのに、と、思わないでもなかったけれど、たとえ短い距離でも一緒にいる時間があるのは、やっぱり嬉しい。相変わらず、二人の間には会話はなかったけれど、なんとなく僕たちの周りに甘い空気が漂っていたと思う。

「あ、あの……ありがとうございました」

 アパートの階段の前で立ち止まり、ペコリと頭を下げる。そんな僕に、ふんわりと微笑む山本さん。僕はその微笑みにドキドキが止まらなくなる。
 山本さんは、僕の頭を軽くポンポンと叩いた。

「それじゃ、おやすみ」
「あ、は、はい。おやすみなさい」

 軽く手をあげて立ち去ろうとした山本さん。その背中を見送ろうとしてたら、急に何かを思い出したのか、もう一度、僕のところに戻ってきた。

「な、何か……えっ!?」

 山本さんは、ニコッと笑ったかと思ったら、僕の前髪をサッとあげると、優しくおでこにキスをした。

「な、な、なっ!?」
「ん……何か物足りないな、と思ったら、これ、忘れてた」
「え!?」
「昨日も、したから」

 僕は、真っ赤になりながら、大きく口を開けて、おでこに手を当てる。山本さんが夕べのことを覚えてて、今日も僕にしてくれるなんて。

「じゃ、今度こそ、おやすみ」

 優しい言葉を残して、帰っていく山本さん。

「……夢みたい」

 ポツリと呟いて、僕は呆然としたまま、そこに立ち尽くしていた。
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