100均で始まる恋もある

三森のらん

文字の大きさ
74 / 108
8.クリスマスツリー

73

しおりを挟む
  そして僕たちは、食事だけだから、と注文だけすると、カウンターではなく2階の席に行くことになった。

「遠藤、俺は食ったら帰るぞ」
「あー、はいはい。大丈夫ですよ。俺も明日は朝から打ち合わせ入ってるんで」
「あ、あれか」

 スーツ姿の二人を向かいに、僕は一人、お茶をすする。二人は小さな声で仕事の話をしてるみたいで、僕の入る余地はない。

「で、課長、彼はどういったお知り合いで?」

 仕事の話が途切れたところで、急に遠藤と呼ばれた彼が、僕の方に向かって視線を向けた。興味津々といったその眼差しは意外に強くて、僕は見返すことができず、俯いてしまう。

「ん? あぁ……知り合いの……息子さん?」
「へぇ? そうなんですか」

 山本さんの説明に、どこか納得いっていないような反応の遠藤さん。一方で、僕は『知り合いの息子』という響きに、胸がズキンと痛くなった。
 確かに、僕と山本さんの年齢差を考えたら、そういう言い訳をするしかない。男同士で恋人です、とは、普通には言えない。特に、この人は山本さんの部下だもの。

「はい、おまちどうさま」
「お、きたきた」
「遠藤、さっさと食って帰れ」
「そんな、寂しいこと言わないでくださいよ」

 そう言いながら、食事を始める遠藤さん。彼の目の前に置かれたのは生姜焼き定食。僕と山本さんの分の焼き魚定食も、そう間をおかずにテーブルの上に置かれた。
 本当は、山本さんと二人だけで食事をしたかったのに。そう思いながらする食事は、やっぱり、あまり美味しいとは思えず、食欲もなくなってしまう。

「濱田くん、どうした」

 心配そうに声をかけてくれる山本さん。そのタイミングに合わせて、遠藤さんまで、チラリと僕に視線を向けてくる。

「あ、いえ、なんでもないです」
「体調でも悪いのかい?」
「だ、大丈夫です。本当に」

 僕はなんとか微笑んで、箸を持ち直して食べ物に向かった。
 僕のと同時にきたはずなのに、もう食べ終わってしまっている山本さん。遠藤さんはどっくに食べ終わってるけど、帰るでもなくそのまま座ったまま、お茶を飲んでいる。

「すみません、食べるの遅くて」

 一人、箸を動かしている状態なのが、恥ずかしくて、つい謝ってしまう。

「いいって。焦って食べなくてもいいから。俺、ちょっと手洗い行ってくるわ」
「はい」
「いってらっしゃーい」

 ひらひらと手をふる遠藤さん。その姿が、なんだかチャラチャラした感じで、ちょっと苦手だなって思った。山本さんの後ろ姿を見送った遠藤さんが、くるっと身体を戻すと、今度は僕のほうをガッツリ見てきた。
 慌てて僕は、味噌汁の椀を手にした。

「濱田くん、だっけ?」
「……はい?」

 汁椀をテーブルに置くと、僕は小鉢に入ってた酢の物に手を伸ばす。

「君、山本さんのこと好きでしょ」

 遠藤さんの言葉に手が止まる。

「わかりやすー」

 その揶揄うような言葉に、僕は血の気が引いてくる。
 あからさまに嫌悪感を感じるその声に、僕は伸ばした手を膝の上に落とした。

「きみさ、まだ若いんだし、あんなおっさんは止めておきなよ」
「や、山本さんは、おっさんじゃないです……」
「は? おっさんでしょ。まぁ、仕事もできるし、そこそこイケメンっちゃ、イケメンだけどさ」

 遠藤さんは、残っていた僕のたくあんを指でつまむと、自分の口の中に放り込む。コリコリと音を立てながら、僕を威嚇するようなまなざしで、僕を見ている。

「まぁ、そもそも、あの人、ノンケだし、どんなに頑張っても、無理だと思うよー?」

 遠藤さんの言葉に、この人は、僕たちが付き合ってるってことは気づいていないんだ、と、思った。それと、同時に、今までの山本さんの行動を思い返すと、やっぱり僕じゃ無理なのかな、とも思って、悲しくなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

処理中です...