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8.クリスマスツリー
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そして僕たちは、食事だけだから、と注文だけすると、カウンターではなく2階の席に行くことになった。
「遠藤、俺は食ったら帰るぞ」
「あー、はいはい。大丈夫ですよ。俺も明日は朝から打ち合わせ入ってるんで」
「あ、あれか」
スーツ姿の二人を向かいに、僕は一人、お茶をすする。二人は小さな声で仕事の話をしてるみたいで、僕の入る余地はない。
「で、課長、彼はどういったお知り合いで?」
仕事の話が途切れたところで、急に遠藤と呼ばれた彼が、僕の方に向かって視線を向けた。興味津々といったその眼差しは意外に強くて、僕は見返すことができず、俯いてしまう。
「ん? あぁ……知り合いの……息子さん?」
「へぇ? そうなんですか」
山本さんの説明に、どこか納得いっていないような反応の遠藤さん。一方で、僕は『知り合いの息子』という響きに、胸がズキンと痛くなった。
確かに、僕と山本さんの年齢差を考えたら、そういう言い訳をするしかない。男同士で恋人です、とは、普通には言えない。特に、この人は山本さんの部下だもの。
「はい、おまちどうさま」
「お、きたきた」
「遠藤、さっさと食って帰れ」
「そんな、寂しいこと言わないでくださいよ」
そう言いながら、食事を始める遠藤さん。彼の目の前に置かれたのは生姜焼き定食。僕と山本さんの分の焼き魚定食も、そう間をおかずにテーブルの上に置かれた。
本当は、山本さんと二人だけで食事をしたかったのに。そう思いながらする食事は、やっぱり、あまり美味しいとは思えず、食欲もなくなってしまう。
「濱田くん、どうした」
心配そうに声をかけてくれる山本さん。そのタイミングに合わせて、遠藤さんまで、チラリと僕に視線を向けてくる。
「あ、いえ、なんでもないです」
「体調でも悪いのかい?」
「だ、大丈夫です。本当に」
僕はなんとか微笑んで、箸を持ち直して食べ物に向かった。
僕のと同時にきたはずなのに、もう食べ終わってしまっている山本さん。遠藤さんはどっくに食べ終わってるけど、帰るでもなくそのまま座ったまま、お茶を飲んでいる。
「すみません、食べるの遅くて」
一人、箸を動かしている状態なのが、恥ずかしくて、つい謝ってしまう。
「いいって。焦って食べなくてもいいから。俺、ちょっと手洗い行ってくるわ」
「はい」
「いってらっしゃーい」
ひらひらと手をふる遠藤さん。その姿が、なんだかチャラチャラした感じで、ちょっと苦手だなって思った。山本さんの後ろ姿を見送った遠藤さんが、くるっと身体を戻すと、今度は僕のほうをガッツリ見てきた。
慌てて僕は、味噌汁の椀を手にした。
「濱田くん、だっけ?」
「……はい?」
汁椀をテーブルに置くと、僕は小鉢に入ってた酢の物に手を伸ばす。
「君、山本さんのこと好きでしょ」
遠藤さんの言葉に手が止まる。
「わかりやすー」
その揶揄うような言葉に、僕は血の気が引いてくる。
あからさまに嫌悪感を感じるその声に、僕は伸ばした手を膝の上に落とした。
「きみさ、まだ若いんだし、あんなおっさんは止めておきなよ」
「や、山本さんは、おっさんじゃないです……」
「は? おっさんでしょ。まぁ、仕事もできるし、そこそこイケメンっちゃ、イケメンだけどさ」
遠藤さんは、残っていた僕のたくあんを指でつまむと、自分の口の中に放り込む。コリコリと音を立てながら、僕を威嚇するようなまなざしで、僕を見ている。
「まぁ、そもそも、あの人、ノンケだし、どんなに頑張っても、無理だと思うよー?」
遠藤さんの言葉に、この人は、僕たちが付き合ってるってことは気づいていないんだ、と、思った。それと、同時に、今までの山本さんの行動を思い返すと、やっぱり僕じゃ無理なのかな、とも思って、悲しくなった。
「遠藤、俺は食ったら帰るぞ」
「あー、はいはい。大丈夫ですよ。俺も明日は朝から打ち合わせ入ってるんで」
「あ、あれか」
スーツ姿の二人を向かいに、僕は一人、お茶をすする。二人は小さな声で仕事の話をしてるみたいで、僕の入る余地はない。
「で、課長、彼はどういったお知り合いで?」
仕事の話が途切れたところで、急に遠藤と呼ばれた彼が、僕の方に向かって視線を向けた。興味津々といったその眼差しは意外に強くて、僕は見返すことができず、俯いてしまう。
「ん? あぁ……知り合いの……息子さん?」
「へぇ? そうなんですか」
山本さんの説明に、どこか納得いっていないような反応の遠藤さん。一方で、僕は『知り合いの息子』という響きに、胸がズキンと痛くなった。
確かに、僕と山本さんの年齢差を考えたら、そういう言い訳をするしかない。男同士で恋人です、とは、普通には言えない。特に、この人は山本さんの部下だもの。
「はい、おまちどうさま」
「お、きたきた」
「遠藤、さっさと食って帰れ」
「そんな、寂しいこと言わないでくださいよ」
そう言いながら、食事を始める遠藤さん。彼の目の前に置かれたのは生姜焼き定食。僕と山本さんの分の焼き魚定食も、そう間をおかずにテーブルの上に置かれた。
本当は、山本さんと二人だけで食事をしたかったのに。そう思いながらする食事は、やっぱり、あまり美味しいとは思えず、食欲もなくなってしまう。
「濱田くん、どうした」
心配そうに声をかけてくれる山本さん。そのタイミングに合わせて、遠藤さんまで、チラリと僕に視線を向けてくる。
「あ、いえ、なんでもないです」
「体調でも悪いのかい?」
「だ、大丈夫です。本当に」
僕はなんとか微笑んで、箸を持ち直して食べ物に向かった。
僕のと同時にきたはずなのに、もう食べ終わってしまっている山本さん。遠藤さんはどっくに食べ終わってるけど、帰るでもなくそのまま座ったまま、お茶を飲んでいる。
「すみません、食べるの遅くて」
一人、箸を動かしている状態なのが、恥ずかしくて、つい謝ってしまう。
「いいって。焦って食べなくてもいいから。俺、ちょっと手洗い行ってくるわ」
「はい」
「いってらっしゃーい」
ひらひらと手をふる遠藤さん。その姿が、なんだかチャラチャラした感じで、ちょっと苦手だなって思った。山本さんの後ろ姿を見送った遠藤さんが、くるっと身体を戻すと、今度は僕のほうをガッツリ見てきた。
慌てて僕は、味噌汁の椀を手にした。
「濱田くん、だっけ?」
「……はい?」
汁椀をテーブルに置くと、僕は小鉢に入ってた酢の物に手を伸ばす。
「君、山本さんのこと好きでしょ」
遠藤さんの言葉に手が止まる。
「わかりやすー」
その揶揄うような言葉に、僕は血の気が引いてくる。
あからさまに嫌悪感を感じるその声に、僕は伸ばした手を膝の上に落とした。
「きみさ、まだ若いんだし、あんなおっさんは止めておきなよ」
「や、山本さんは、おっさんじゃないです……」
「は? おっさんでしょ。まぁ、仕事もできるし、そこそこイケメンっちゃ、イケメンだけどさ」
遠藤さんは、残っていた僕のたくあんを指でつまむと、自分の口の中に放り込む。コリコリと音を立てながら、僕を威嚇するようなまなざしで、僕を見ている。
「まぁ、そもそも、あの人、ノンケだし、どんなに頑張っても、無理だと思うよー?」
遠藤さんの言葉に、この人は、僕たちが付き合ってるってことは気づいていないんだ、と、思った。それと、同時に、今までの山本さんの行動を思い返すと、やっぱり僕じゃ無理なのかな、とも思って、悲しくなった。
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