100均で始まる恋もある

三森のらん

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8.クリスマスツリー

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 僕たちは、何も言わずに、そのまま僕のアパートのほうに向かった。僕のアパートのある住宅街あたりまでくると、人通りもあまりない。街頭の灯りがポツンポツンとついているだけ。 
 何も言わずに隣を歩いていた山本さんが、急に僕の左手をぎゅっと握ってきた。

「えっ?」
「たまにはいいだろう?」

 少し恥ずかしそうな顔の山本さんが、握った僕の手を自分のコートの中に突っ込んだ。そんなことをしてくれる山本さんが、嬉しくて僕はずっと見つめ続けてしまった。

「ほら、ちゃんと前向いて歩きなさい。転ぶぞ?」
「え、あ、は、はいっ」

 だけど、僕の意識は、握られた手のほうに行ってしまう。だって、山本さんてば、ただ握るだけじゃなくて……何度も、何度も握ったり、撫でたり、するんだもの。
 こんな甘い時間がずっと続けばいいって思う頃には、目の前に僕のアパートが見えてくるんだ。今日は、いつもより、心の中の起伏が激しかったせいか、山本さんと離れがたくなる。だから、思わず、山本さんの手をギュッと握り返した。

「……」

 山本さんは何も言わずに、少し切なそうな顔で僕を見下ろすと、アパートの手前の路地へ、僕を強引に連れ込んだ。

「や、山本さん?」

 思わず驚いた僕を、山本さんが強く抱きしめた。フワッと、山本さんの匂いが僕を包みこむ。微かな整髪料の匂い、日向のような香ばしい匂い。どこか安心してしまうような匂いだった。

「お願いだから、何も言わずにいなくなるのは止めてくれ」 

 苦しそうにそう言った。その言葉に、僕はギュッと胸を捕まれた。

「……大事な人がいなくなる……もう、そういうのは嫌なんだ……」

 それって、僕は「大事な人」だって、己惚れていいのだろうか。
 僕は山本さんの胸の中、ゆっくりと手を背中に回して、抱きしめ返した。

「ごめんなさい……」

 どれくらいそうしていただろう。誰かが歩いてくる音がして、僕たちは路地の奥の方に少しだけ移動した。街頭の当たらないそこは、二人だけの世界みたいで、僕は、山本さんの胸の中にいる幸せをかみしめていた。

「濱田くん、もう、遅いから」

 そう言うと、いつもと同じように僕の額にキスを落とす。だけど、僕は、もっと山本さんが欲しいって思うから。

「山本さん」
「ん?」

 見下ろした山本さんの唇に、僕のそれを重ねた。
 山本さんは、少し驚いた顔をした。

「……嫌……ですか?」

 ――気持ち悪いと思った? やっぱりダメ?

 僕はそんなことを考えながらも、必死に山本さんの顔を見つめる。すると、山本さんは困ったような顔をしてから、片手をあげると両目を隠した。

「はぁ……」

 大きくため息をつかれて、僕はビクッとしてしまう。そして、また涙が零れてしまう。

「ごめんなさい……」

 僕は山本さんの腕の中から抜け出そうとした。

「許さない」

 そう言うと、山本さんは強く僕を抱きしめた。

「や、山本さんっ!?」

 慌てて見上げると、フッと笑って、僕の目元にキスをした。思わず目をつぶると、山本さんは、涙が流れた後を追うように。キスを落としていく。僕は、山本さんの唇の感触に、ドキドキした。

「濱田くん、あんまりかわいいことしないで。俺も、これでも我慢してるんだよ?」

 その言葉に、僕は目を見開いた。山本さんが、我慢してる?

「我慢……しなくていいです……」

 僕は、頑張って、そう言葉にしたら、山本さんは、切なそうな顔をした。
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