100均で始まる恋もある

三森のらん

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8.クリスマスツリー

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「遠藤、さっきも結構食べてなかったか?」

 山本さんが呆れたような声で声をかけると、遠藤さんは嬉しそうな顔をして、振り返る。

「山本さんだって、食べてたでしょうが。そういえば、帰り際に小島がぎゃいぎゃい騒いでましたけど、大丈夫でしたか?」

 チラリと僕のほうを見る遠藤さん。あからさまに僕を見下しているように感じるその視線に、僕はレンゲを持つ手を離し、小さくため息をつく。

「小島のは、いつものことだろう。それこそ、お前が相手してやればいいじゃないか」
「何言ってるんですか。あんなお嬢ちゃんは、俺の好みじゃありませーん」
「だって、今、フリーだろ? あの受付嬢とは別れたって聞いたぞ?」

 ……あれ?
 遠藤さんは、ゲイじゃないの? だけど、受付嬢ってことは……バイ? とかいうやつ? もしかして山本さんのことが好きだとか?
 何を考えているのかわからない遠藤さんのほうを見ると、今度は僕のラーメン丼のほうを覗き込んでいた。
 
「あれ、もう食べ終わってるの? だったら、さっさと帰ったら?」

 目の前に山本さんがいるというのに、この人のあからさまな意地の悪い物言いに、僕は唖然としてしまった。

「遠藤、いい加減にしろ」

 テレビ番組や他のお客さんの声が騒々しい中、山本さんの苛立ちを含んだ低い声が、耳に飛び込んできた。その声にビクリとしたのは、僕だけではなく、名指しされた遠藤さんも同様で顔を強張らせている。この席だけ、気温が一気に下がったような気にすらなった。

「ハイ、ビールト、バンバンジーサラダネー」

 店員の暢気な言葉に、一瞬で、もとの空気に戻る。僕は、息を止めていたらしく、思い切り息を吐き出し、遠藤さんも、強張った笑顔で小瓶を受け取ると、小さなグラスにビールを注いでいた。

「ほら、濱田くんも、これ食べて。俺、一人じゃ食いきれない」

 山本さんの優しい声に、差し出された皿に目を向ける。確かに、けして小さくはない皿にのっている棒棒鶏サラダは、一人で食べるには量が多かった。

「い、いただきます……」

 僕はテーブルに置かれた小皿を手に取ると、少しだけ取り分けた。

「遠藤も、食うか」

 その言葉はすでに苛立ちは感じられず、たぶん普段通りの山本さんなのだろう。遠藤さんは無言で頷くと、小皿のほうに手を伸ばした。僕たちが黙々と棒棒鶏サラダを食べていると、立て続けに遠藤さんが頼んだ料理がテーブルに置かれていく。

「……おい、マジでこれ全部食う気か?」

 ここの店は、どうも一皿のボリュームがだいぶ多いらしく、自分で注文したのに遠藤さんも、少し焦っているみたいだ。

「か、課長も食べてくださいよぉ」
「俺は、もう腹いっぱいだから」

 3人がかりで綺麗にはなった棒棒鶏サラダ。僕にしたって、これ以上は正直食べられない。目の前の餃子のボリュームにいたっては、ちょっとした凶器にすら見える。

「そ、そんな」
「じゃ、俺たちは先に帰るな。あ、ここの金は俺が払っとくから、ゆっくり食べていけ」

 ニッコリと笑ってるように見える山本さんだったけれど、僕には目が笑っていないように見えた。

「か、課長っ」
「ほら、濱田くん、行こうか」
「あ、え、は、はい……」

 テーブルの端に置かれていた伝票を手にすると、山本さんは出口そばの会計をさっさと済ませて店を出ようとする。僕も慌てて、その後を追いかけようとした時。

「ったく、あの人……マジなのかよ……」

 小さく呟く遠藤さんの声が聞こえた。

「えっ」

 思わず、振り返ると、そこにはさっきまでの意地悪そうな顔の遠藤さんではなく、どこか呆れたような、ホッとしているような顔をした遠藤さんが座っていた。

「ほら、山本さん、待ってるぞ。さっさと行け」
「は、はい……」

 遠藤さんの変わりように、僕は何が起きてるんだか、よくわからず、首を傾げながら、店を出た。
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