100均で始まる恋もある

三森のらん

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8.クリスマスツリー

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 昼間は見事な晴天だったおかげで、日が落ちてもホワイトクリスマスというわけにはいかなかった。それを残念に思ってるカップルや家族がたくさんいそうだ。でも、雪の中を歩くことを考えれば、このくらいの寒さのほうが、まだマシだ。
 駅ビルを出てすぐ、夜空を見上げても、周囲のライトアップのせいで、星空など拝めるわけもない。僕は、大きく白い息を吐くと、崇さんの家のあるほうへ向かうべく、商店街を歩く。

『今日も来るよね?』

 行くべきか迷っていた僕の背中を押してくれたのは、事務所を出る時にチェックした、崇さんからのメールだった。たぶん、僕のバイトの終わる時間を見越して送ってくれたみたいだった。
 崇さんの言葉についつい顔を緩ませながら、鞄の中に入れてある物に意識がいってしまう。どんなものがいいのか迷った、崇さんへのクリスマスプレゼント。喜んでくれるだろうか。

「テルくん」

 急に聞こえた崇さんの声にハッとした。僕は周囲をきょろきょろしていると、「こっち、、こっち」と、ケーキ屋さんのドアから身を乗り出している崇さんの姿があった。

「えっ!? ど、どうしたんですか?」

 僕は慌てて駆け寄ると、崇さんに店の中に引っ張り込まれた。

「迎えに来たついで。せっかくのクリスマスだからね。ケーキでも買おうかなって」
「ええっ?」

 わざわざ迎えに来てくれた。
 あのメールだけでも、十分に幸せなのに。

 目の前に崇さんがいることに、口元が緩んでしまいそうで、急いで両手で口を隠す。
 ケーキ屋さんの中は、僕たち以外にもケーキを買う人たちがガラスケースの前に立っている。背後から覗き込もうとしたけれど、なかなか見えない。

「ま、まさか、ホールで買うつもりじゃ」
「テルくんが食べられるなら、それでもいいけど」
「いやいや、無理です」

 ようやく見えたガラスケース。時間帯が時間帯なだけに、すでにホールのケーキは残っていなかった。

「コンビニとかの前でなら、売り出ししてるかもだけど……」

 ドアの向こう側のコンビニでは、サンタのコスプレをしたコンビニ店員の人が、懸命にケーキを売ってる姿が見える。

「俺ね、ここのショートケーキ、好きなんだよ。テルくんは食べたこと、あるかい?」
「な、ないです」

 さすがに男の一人暮らしで、そうそうケーキ屋に入ることも、ケーキを買うことすら、あまりない。だから、ケーキ自体が、久しぶりだということを思い出した。崇さんが指さしたのは、残り少ないショートケーキ。真っ赤なイチゴが白いクリームに抱かれるように飾られていて、つい、口の中が涎で溢れそうになる。
 崇さんはそのショートケーキを二つ買うと、満足そうに微笑んだ。

「じゃあ、帰ろうか」
「……はい」

 僕たちは、商店街を抜けると崇さんの家に向かって歩き出した。街灯の下、無言の時間が過ぎていく。他にも同じように家路を急ぐ人たちもいるけれど、僕たち二人の間には、二人だけの世界のような、そんな空気があった。
 もうすぐ崇さんの家に着く。そんなタイミングで、僕の右手が、大きくて温かい崇さんの手に包まれた。

「え、そ、外ですよ?」

 僕は焦りながらキョロキョロ周囲を見回した。幸いにも、僕たち以外には人がいないみたいでホッとする。

「あと、ちょっとだから。ね?」

 崇さんの優しい声と、ぎゅっと強く握られた手に、胸がキュンとなった。短い距離だけれど、僕は『素敵な時間』というクリスマスプレゼントをもらった気がした。
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