あの恋人にしたい男ランキング1位の彼に溺愛されているのは、僕。

十帖

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まるで僕を溶かしてしまう君は

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演技でここまでするものなんだろうか。

 煮えた頭ではどこまでが正解か分からない。空いた手で頭を撫でられ、泉に麻薬のような声を注がれると、ますます崩れてしまいそうになった。

 全身の骨がなくなってしまったみたいだ。こんなにぐずぐずに溶けてしまっては、カメラが止まった時に人の形を保っていられないかもしれないと、要は喘ぐような息をすすった。

美佐男オカマが言ってたんだ。要は大事な人のためになら演技ができるって」

「あ……」

「俺を大事だと思って演技して」

 甘くねだるような声で泉が言った。その中に、隠しきれない切実さが籠っている。

「気持ちよさそうな顔して、要」

「う……でも……、もう十分気持ちくて……」

 どうしよう、と子供のように混乱した要が訴えると、一瞬泉の手が止まった。そして次の瞬間、高波のような刺激にさらわれ、要は高い声を上げた。

「あ、あ、やぁっ、やめ……っ」

 泉の手が下着に入りこみ、直に要の脈動する性器をすり上げてきたのだ。まさか本当にそこを愛撫されるとは思わず、要はシーツの下で身をくねらせる。

「いず……っ」

「煽ったお前が悪いぞ」

「や、なに……っ?」

 固くなり始めていた裏筋を撫でられ、蜜を零す先端に親指を引っかけられる。要の先走りを潤滑油代わりにして上下に擦られ、要は泉の肩に爪を立てて頭を振った。

「や、ダメ、いや……っ」

 乱暴な力で掴まれたと思えば、確実に快感を追いかけるような手つきで揉みこまれる。気を張っていないと白い熱を放ってしまいそうなほどの快感に、要は奥歯を震わせた。

 隠れたシーツの下で本当に愛撫が行われていると知らないスタッフたちは、要のあだめいた姿にゴクリと唾を飲みこむ。心なしか、カメラマンの息が荒くなっている気がした。

「ああっ、んー……っ」

 口の端からだらしなく顎へと漏れる唾液を、輪郭をなぞるように掬いあげた泉の舌が舐めとる。大勢の人間が見ている前で達してはいけないという理性だけが、快感の底に落ちていきそうな要を押しとどめた。

 しかしそれも、張りつめた細い糸のようにいつまで持つか分からない。顎が震えるほどの快感に要が意識を飛ばしそうになったところで、腹まで反り返った熱を離された。

「え……」

 つい、呆けた声が要の口から滑りでた。カットはまだかかっていない。

 限界まで高められた体を投げ出され、安心以上に空虚感が湧く。喉の渇きに似たものを覚えていると、シーツの下で器用に体をひっくり返された。

 パフッと、柔らかい枕に顔を埋める形になり、枕を腕で抱えたまま振り向くと泉がベルトのバックルを外しているところだった。

(――――……た、ってる……)

 黒い下着の下で窮屈そうにしている泉の性器の形を見てしまい、要はゴクリと喉を鳴らした。おそらく周囲には見えていないだろう。皆は泉と要の演技の行く末を見守っている。けれど、要はさあっと全身の血が下がる気がした。

「あ、泉……あの……」

 まさかここで本当に体を繋げる気ではないかと、要はベッドをずり上がった。しかしそうするとシーツの下の状況がカメラに映りそうで、身体を縮める羽目になる。

「腰上げろ」

「あ……っ」

「安心しろ、セックスしてるように見せるだけだ」

 枕に顔をうつ伏せたまま、腰だけを泉によって引き上げられる。犬のような体勢に羞恥が湧いた瞬間、むき出しの尻にドンッと鈍い衝撃が走った。

「あ……いず……」

 泉によって脇の下に腕を通され、要は縋っていた枕から手を離される。要の汗で湿った背中に、ピタリと泉の胸板がぶつかった。

「んぅ……っ」

 もう一度、尻たぶに衝撃が走る。犬の交尾のように背中からのしかかられた要が涙目で振り返ると、泉が下着を身に着けたままの股間を、要の尻に押し当てていた。

 尻のはざまに、熱を持った泉の性器が一定のリズムでぶつかる。挿入されたわけではないのに、つま先から頭のてっぺんまでむずがゆい快感が駆け巡った。

(なに、これ……っ)

 本当にセックスしているわけではない。

 それでも脇の下に逞しい腕を通されたことで自由のきかない身体と、覆いかぶさられて薄い皮膚同士が擦れ合う感触、何より尻に当てられる泉の脈動が、爛れるほど淫靡な感覚を生み出して要を苛む。

「ああ、いい表情だな、二人とも」

 五条監督の声がスタジオにポツリと落ちる。監督たちの目からは、シーツの下、泉と要が繋がっているように見えるのだろうか。

 とろりと溶けそうな目で泉を見上げると、呼吸を奪うようにキスされくぐもった声しか出せなかった。こんなにも熱っぽいキスが演技なのならば、自分は本当にとんでもない逸材を見つけてしまったのだろうと、要はふやけた頭で考える。

 全身が痺れるようなキスに溺れながらも、最後くらい本当に演技してみせなければと思った要は身をねじり、腕を泉の首に回してキスに応えた。

「あ……っ」

 ようやくカットがかかって唇が離れた瞬間に名残惜しく思って甘えた声が上がってしまう。だから寂しいと感じてしまったことに戸惑う要は、気付いていなかった。

 要を燃えるような憎しみの眼差しで見ていた人物がいたことに。
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