不死身の遺言書

未旅kay

文字の大きさ
13 / 30
二章.

3話.要塞癖

しおりを挟む
 二日目の朝は、早々にホテルをチェックアウトし、京都への高速道路を車で走っていた。一時間走っていると、東から長い一日を告げる朝日が差し上がる。

 「皮肉ですわね」

 染毬は、冷静な口調で朝日を眺めながら、呟いた。私は、その一言が染毬との会話の中で最も人間味を、感じせざるおえなかった。

 「ん?」

 「 わたくしたちを数年間、縛りつけていた地に自らの足で再び向かっているの……ですわ」

 「京都は嫌いかい?」

 染毬が、そういう意味で言っている訳ではないことを私は知っていた。

 「そうね。京都は嫌いじゃないけれど、 あの・・建物を見るのは嫌いですわ」

 「私も同意見だ。でも、君はその無限坂 玲衣 がNBlエヌビーアイにいると考えたんだろ?」

 「ええ。その略称も久しぶりに聞くですわ。初めて、聞いた時は内視鏡検査の施設かと思ったけれど」

 私にはNBI━━非営利生物学研究所が、医療で使用されるところの内視鏡とは一切の関連性を生み出せないが、染毬のような天才にとってはそうなのかもしれない。 

 「なぁ、一応……染毬の知っている限りで無限坂 玲衣について話してくれないか?」

 無表情だった染毬の表情が露骨に嫌悪感で満ちた。しかし、瞬く間にその表情は元の無機的な さまに切り替わった。

 「……そうね。アレを一言で例えるのなら、『最も天才らしい 超能力者サイキック』ですわね」

 染毬にとっては最も妥当な例えなのかもしれないが、NBIという施設ではありふれたモノなのではないのだろうか。

 「アレは……以前の わたくしのような天才とは百八十度異なる存在かもしれない。あの試験体は、とてつもない欠点を見に宿す代わりに、全知全能という唯一無二の能力を持ち合わせているのですわ」

 「欠点?」

  染毬は、天才 らしい・・・と表現した。常人と比べて、計り知れない努力に打ち込め、生まれながらに輝く物を持つ━━それらに人間としてのステータスの殆どのベクトルが傾けられているという天才らしさ。そういうことだろうか。そう定義するのであれば、最も天才に近いのは、 現在いまの染毬自身なのではないのだろうか。

 「そう。欠点ですわ。 わたくしが命名した症状━━要塞癖でしたっけ?」

 「何で疑問形なんだ?」

 「 わたくし…………何十個も新しいモノを発見、研究して生み出したから。その都度に名前を決めていると……つい、忘れちゃうので・す・わ」

 科学者たちの万年の夢を何十個も、この生意気娘は叶えてきたというのか。人間離れした点においては、染毬もいい線行っているだろう。
 しかし、根っからの、このような可愛げのない性格だったのであれば、敵も多かったはずだ。しかし、私の知っている過去の染毬は 、 現在いまよりも表情一つ変えない、本物のアンドロイドのようだったことを私は覚えている。

 「その……要塞癖は、どんな 神経症ノイローゼなんだ」

 「よくぞ聞いてくれましたわ」

 いや、そりゃあ聞くだろう。

 「要塞癖っていうのは開放的空間を過剰に嫌い、故意に人との接触を避け、逆に狭く隔離された空間を好む傾向を持つ精神疾患ですわ。まぁ、単に狭い所が好きというわけではなく、完全に広いスペースに恐怖を感じてしまう点も特徴的と言えば、そうかもしれないですわね」

 「なぜ、くだんの少年━━玲衣はその……要塞癖になったんだ?」

 「まぁ、あくまで私の推論ですけど、全知全能が故に全ての ことわりに触れてしまったのだと考えられますわ。そして、周囲の世界との繋がりに恐れて、内面から崩壊したんじゃないかしら」

 やはり、染毬は抑揚の無い声色で淡々と説明する。

 「 わたくしたち研究者とは違い、理屈よりも先に全ての段階をすっ飛ばして あらゆる結果や既存とする概念が探究心のままに脳へと流れ込んでくるのだから、まぁ、そうなっても不思議じゃなさそうだけれど」

 「私の隣に、そんな超人がいたとはな」

 「あなたも十分なくらいに、超人な気がする。照望と玲衣、あなた達……二人だけだったのよ」

 「ん?」

 「 わたくしNBIあそこの連中が、研究をしても科学で立証できなかったのは」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...