中二病、転生する~異世界は想像よりもハードでした~

深沢しん

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一章

21

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゛魔力阻害《マジックデバフ》゛。

自身をを中心とし、半径三メートルに入った魔法の威力を弱める能力。常時発動であるため、この能力の作用を掻い潜って本体に届くことはない。

戒禍隋《ハイ・カース》は自分の意志により、無数の剣を操れる。それは何らかの付加価値を持っているが、未だにその能力を使ってはいない。

ただ、使わなくとも生半可な魔法攻撃が通用しないということは確かだ。

「な……一撃で?そんな……本体もそんなに強いのかよ……」 
「クロノア君!来るぞっ!」

「──────!!」

だが魔力阻害《マジックデバフ》の適用範囲はあまり遠くまでは届かない。だから、自分の近くでならその効力を存分に発揮できる。

再生成した炎槍《グリプス》。引き抜いたグラディウスとそれを使って、無数に飛んでくる剣を凌ぎ切る。

本体は未だに動き出していないようだ。
まるで──、配下を使うように。
自らの手では下さない。

よく見ると、無数の剣は分裂するようにして数を増やしていた。いくら弾いても攻撃が止まなかったのはこのためだ。

「クロノア君……君は本体を叩け。
私はまだ戦える」

「そんな状態で何言ってんですか!!」

雨のように飛び込んでくる剣を捌きながら、背後を一瞥すらせずに声を張る。

「右腕がまだあるだろう。
それに私はまだ本気ではない」
 
思った通りの答えが返ってこなかったことで、クロノアは更に声を張り上げる。

「右腕しかないだろ、エマさん!!
そんな状態で戦うのは無謀過ぎる!!」

「……ならどうやってあいつを倒すんだ!!」

珍しく大声を上げたグリエマ。
驚いたクロノアは振り返るが、複製される剣から身を守るために精一杯でそれらしい反応をすることはない。

「このままじゃ私達は死ぬ!!
クロノア君一人でなんて無理だ、私を頼れっ!!
それが私の生きがい……だった・・・んだよ!!」

どう言い返すべきか迷い、眉を顰める。
腕はこんなに滑らかに動くのに、頭は上手く回ってくれない。
これでは、最適な答えは導き出せないだろう。

(……こんなんになってるエマさんに、負担を強いらせるのか)

普通ならここで、
「やっぱ駄目だ」等の文言を投げつけてグリエマの守護を継続すべきだ。
だが、クロノアは別の答えを投げ返す。

口頭ではなく、行動での答えを。

『エマさん、絶対に……死なないでください』

剣を弾くのではなく、避ける。捌き方を変更したクロノアは、身体強化をかけダッシュ。斜めから戒禍隋《ハイ・カース》の撃破を狙う。
避けることが難しいものは蒼水刃《マリンエッジ》で弾き飛ばし、徐々に距離を詰めていった。直後に炎槍《グリプス》も飛ばしてみたが、ついさっきの結果は変わらず。ただ、無残にも大量の火種が飛び散っただけだった。

『任せろ』

グリエマは念話でそう言い切ると、ある魔法を発動した。


♢♢♢♢
 

(融解加速《メルトインフ》)

足裏から、地面に高熱を放出。それよって地面は溶け出し、摩擦がほぼゼロに等しくなる。そうして、高速移動を可能とさせる高度な魔法。
グリエマの奥義ともいえる魔法の一つだった。

(うまく動かないな。片腕がないとこうも違うのか)

うまくバランスを取りながら、自分を追尾し突き刺しに来るのを避ける。
重心を移動し、移動。自分の移動した奇跡はマグマのようにドロドロと溶けている。右腕の剣で弾き返した剣は地面や壁に差し込まれた。

『長くは持たない!!なるべく早く討て!!』

『はいっ!』

必死さの伝わる念話に感化された、クロノアは走行速度を速める。
現段階での、最高速度。進行を阻む剣を易々と躱し、音すら置き去りにして突進していく。

「魔法が駄目なら……直接叩けばいい!」

クロノアは戒禍隋《ハイ・カース》の足元で垂直に飛ぶ。
そして、身体強化の身を使用して勢い良く斬り上げた。

「受けっ……!?」

瞬く間に現れた剣。それはそいつの腕に接続されているらしかった。

非常に機敏だ。相手より遅く動いても、問題なく受け止められる。

クロノアがリアクションを取る間もなく、横から斬撃は飛んでくる。防御に使った腕でないほうの腕を、防衛時の速度と同等以上の速度で振り払ってきた。

咄嗟にその剣をグラディウスで捉えるも、勢いを殺しきれずに宙を舞う。
無防備な体を晒しながら、戒禍隋《ハイ・カース》との距離を空けていってしまう。

複製された剣の剣先と目が合った。

体を回転させなんとか弾き返すとまたほかの剣の剣先と目が合う。クロノアは吹っ飛ばされ着地するまでの間、計四回ほど身を貫かれそうになった。

(……剣が……飛んでこない?)

そして、なんとか攻撃を凌いでいたグリエマ。
攻撃が来ないと思ったいたときだった。

「―――――――ふむ。かなり頭が切れるようだ」

嵌められた。
魔物という下等生物に、知能・・で上回られた。

無下限の裂剣ソードストーム

刺さった三つの剣の内にいる指定した敵に、裂傷を与える。その際的に自身の腕先で照準を定める必要がある。
回復効果が――大幅に低下する。

戒禍隋《ハイ・カース》の腕についた刃の、その先端。
それがグリエマを射抜くように、正確に照準を合わされる。

もう右腕しかないグリエマのボロボロの体に、追い打ちをかけた。

「が――――――――っ」

「‼エマさんっ!!」

全身から、大量の血液が噴き出す。
気持ちいいほど勢いよく。まるで噴水のように、ありとあらゆる場所……人間の急所とも呼べる頭部からも。
足が力を失い、崩れるように膝をつく。あまりの衝撃に意識が落ちかけそうになった。
何とかこらえ切ったか、あともう寸前のところ。
少しでも気を抜けば……文字通り全てが終わる。

「ごはっ……、まるで……あの時のロゼだな……。
死んでない分……マシとも捉えられる……がっ、……」

血反吐をぶちまけた後、顔を上げる。
もう既に攻撃は再開していた。追撃が……開始する。

「やめろぉぉぉぉ‼」

クロノアの懇願が、空間を限界まで振動させた。
いくつもの剣が、グリエマの周囲を漂っている。すでに剣先が向いているため、少しでも念じれば、グリエマの体に穴が空くことは確実だろう。

そうすれば、夢は正夢と化す。
自分が見た夢を、実現してしまうことになるだろう。

(体が……動かない。
ダメージがでかすぎるのか?それとも、私が弱くなったからなのか?)

静止していた剣がとうとう追撃を開始した。
距離的には届くが、数多の剣が邪魔をして恐らく間に合わないクロノア。しかしそれでも彼は動いた。助けるために、夢を実現させないために。

(……動けなくても、動け。
それでも動けないなら、無理にでも動け。とにかく……動けっ!!)

瞬間、グリエマの心臓が強く脈を打った。

死の淵を彷徨う。限界ギリギリの内。
そして……強い心の力。

筋肉が膨張を開始する。魔力の量が膨れ上がってゆく。
間隔が研ぎ澄まされていくのを、グリエマは感じた。

そして、消えるように姿が見えなくなったグリエマ。
グリエマがいた・・地面は直後に爆砕し、深い溝を生成した。

「ロゼ……私は君の分を生きるよ」

血に染まった視界は、時間が足並みを揃えてくれたようにスローモーションとなる。

――――――グリエマは目覚めた。

洞窟《ダンジョン》の壁を蹴り、あまりにも強かったからか破壊。
瓦礫が真下に落ちる。
瞬く間もなく、長剣による斬撃が戒禍隋《ハイ・カース》に傷を加えた。

――――――超越者に。
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