中二病、転生する~異世界は想像よりもハードでした~

深沢しん

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二章

32

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北の国・フェンリルの王都、『ウォールズ』。国王が在住し、生きている街だ。
クロノアたちはそこに足を運んだ。今まさに国の門を潜り抜けた直後である。

隣には女の子を抱えて上機嫌のタリア。
街中ですれ違う人は、皆珍妙な目でその三人を見る。

「タリアさん……どこに向かってるんですか」

「そりゃ決まってるだろ、城だよ城。あそこに見えるだろ? オレは国専属の冒険者だからな、自分の部屋はあそこにあるんだよ」

タリアは人差し指を、全身を赤色と灰色で包んだ城に向ける。

「は、はぁ……」

「……そういやなんでこんなのろのろ歩いてんだ?
もっと手っ取り早い方法があったじゃねぇか」

「手っ取り早い方法?――――――ぇ」

赤い何かでくるまれたクロノア。かと思うと、彼の体に多大な重力がかかる。

(な、なんだ? ……え、と、ととと飛んでるぅ!?)

目に映った景色。建物やら人やらが、視界の中で豆粒のように小さくなっていく。
タリアの背には、つい数時間前に追われていた時と同様の、赤い翼が生えていた。

そうして、体にかかった負荷が無くなった時、次には背中に強い衝撃を受ける。

「……って!」

クロノアは軽く呻いた後で、床でのたうち回る。

「タリア様、いつも言っているでしょう。
ここに来るときは正門から来てくださいと」

「それがめんどくさいからこうやって来てんだろ。そもそもなんでこっちが駄目なのかが分からねぇな」

「いや、それはそうですが……あれ、そちらの方は?」

執事のような恰好、面構えをした角持ち・・・の男の視線が、クロノアに移る。
見知らぬ子どもへの警戒心からか、一瞬だけ全身の筋肉が強張る。

「この子を盗賊から守ってくれていたらしくてな、
褒美をやるためにここに連れてきたんだよ」

「……左様ですか。名は何と?」

「クロノアだ。ファミリーネームは知らん」

「クロノア……ディアムルスです」

「らしいぞ」

クロノアが名前を公開すると、執事の全身の筋肉が弛緩。
どうやら警戒心は解けたようだ。

「ディアムルス様ですね、かしこまりました。
私はデグネスと申します。以後お見知り置きを」

四十五度きっかりで頭を下げたデグネス。

「ディアムルス様。そこにあるソファーにおかけになってください。タリア様から聞きますので」

頭を上げ、顔面全体が見えるようになると、柔らかい口調で気遣った。

「あ、じゃあ……」

クロノアは体をおもむろに持ち上げる。ずきずきとした痛みが走る背中を軽くさすりながら、横長なソファーのような座席に浅く腰かけた。


♢♢♢♢


集会場。街中に間隔を空けて設置されている、話し合いをするための施設である。主にパーティーに加入した冒険者などが利用する、自由に出入りできる施設だ。
ドリンクなどを注文することもできる。

そこでは、4人で構成されたパーティのメンバーが面を持ち上げ話していた。

「それにしてもすごい人だったな、タリアってやつ」

「ですね。女の子の脇支えて、すっごい叫んでました」

両刃の剣を目の前に置いている中性的な見た目の男に、クロノアと森で顔を見合わせた顔見知りの杖持ちの女が同調する。

「あたし……『龍炎のタリア』ってもっと近寄りがたい感じだと思ってたんだけど。いや実際近寄りがたかったけど。……別の意味で」

鉄のナックルを真ん前のテーブルに置いた、いかにも腕っぷしそうな女が言った。
顔に2か所ほどの傷がついている。

「魔人……だったっか。最近はよく聞くな」

ガッシリとした筋肉を纏った男が、やや関連性のある話題を引っ張り出した。

「あぁ。なんでも、四つの国が国交を有益に運ぶための駒として使ってるらしいな」

「そうなのか。世の中物騒だな。魔物に魔人……それに魔獣。冒険者がいくらいても足りないぞ」

「……ですね」

会話はそこで途切れた。
杖持ちの女は、心の中である子供を思い浮かべる。

(あの……森で見た男の子、何者なんでしょうか……。急に走り出したかと思ったらすっごく速かったし、いきなり空から飛んできましたし。あの後この方たちと再会できたからよかったですけど)

どうしてもそのことを気にしてしまい、そこからはほかの3人がする会話が耳に入ってこなくなる。

女は大きく溜息を吐いた。


♢♢♢♢


執事が、クロノアに向かって説明をする。


「魔人というのはですね。長い年月生き永らえてきた魔物が、何かしらのきっかけを経て人間になった個体のことを言います。
魔人は魔物の時よりも体が小さくなったりしますが、人間相応の知能を得ますので、弱くなるどころか強くなることもあるんです」

「……なるほど」

タリアは足を組み、横でホワイトと戯れている。
頬をすりすりしたり、頭をなでなでしたりと。
顔は気持ち悪いほどにやついている。
ホワイトとはタリアが女の子につけた名前だ。
あれからほどなくして目を覚ました女の子を、我が子のようにかわいがっている。
クロノアは侮蔑の目を向けていた。

(褒美やるとか言ってたのに……あんたは何もしないのかよ)

「他に、なにかございますか」

「……じゃあ、魔人が元の姿に戻る事ってありますか?」

「えぇ、もちろんあります。逆化と言う現象で、魔人だけに許された能力です」

「……発動する条件とかは?」

「何かしらのトリガーを引くことですかね。
私でしたら感情が極限まで昂ると、鬼へ逆化します」

デグネスは額に生えた角を人差し指でつっつきながら、淡々と説明をした。

 「……だからホワイトはあぁなったわけか」

クロノアは顎に手を当て、思考を張り巡らせる。

(となると……ホワイトのトリガーは゛角を抜くこと゛ってわけか。一応、このオタク魔人にも言っとくか)

オタク魔人。まんまの意味である。

「タリアさん」

その説明を受けて、一つ思い立ったことがあったクロノア。そうして、衝動のままに声を掛けた。

「なんだ、クロノア。私は今この子に夢中なんだ、あまり邪魔をするな」

「いや、忠告というか、言っておきたいことがあって」

「なんだ。言ってみろ」

「その子の角、あまり動かさないでください。
逆化する可能性があるので」

「……あぁ、わかった。善処しよう」

「おい、クロノア。ついでに言っておくがホワイトの名は『その子』ではない。ホワイトという立派な名前があるんだ、次は間違えるなよ」

もにゅもにゅもにゅもにゅ。
クロノアに視線を寄越しながら頬でホワイトに触れている。彼の侮蔑の度合いが、またさらに強くなった。

「…………はい」

クロノアは大きく出そうになった溜息を堪え、一言だけ残して国王が参るのを待った。

(この人……色々やばそうだな。協調性なさそうだし)

そこで、ある人物とタリアが重なった。

(……過去の俺みたいだ)

クロノアは昔の自分に、旧懐《きゅうかい》を覚える。
開いた窓から流れ込んできた優しい風が、クロノアの頬を撫でた。
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