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終章 ゼンマイ
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『超越』が起こってから一ヶ月後。
相変わらず、神は力を使い人間たちの動きを観察していた。狩りの瞬間、会話の瞬間、死の瞬間、生まれる瞬間――――と、様々な場面を見てきた。
その中で一番成長していたのは、狩りに関連する戦闘技術の面。無限に湧き出る魔物と違い、数が限られている人間は、魔物と唯一の差違点である『知能』をふんだんに活用して、死を回避しながら魔物を狩り続けていたのだ。
それでも倒せない時には『超越』を起こす。トリガーはやはり『追い詰められること』……そしてもう一つの条件は『死を強く拒むこと』。
ただし、2つの条件が重なっても起きないことはある。
考えられる理由としては、起こりやすい個体と起きにくい個体がある、単なる確率の問題、あとはまだほかに条件がある、のいずれか。統計的には、大体四分の一程度の確率だ。
対して、魔物側は。
この世に初めて生まれ落ちた二体が、今も尚生き残っていた。
一方は限りなく人間に近いフォルムをした魔物。非常に強靭な肉体を有していて、人間もいくらか挑んでいたがもれなく返り討ちにあっていた。
一方は龍のような見た目の、黒と白が入り混じった鱗を持つ個体。こちらもかなり強力で、体躯的にも能力的にも人間の非にならない。こちらも人間が挑んでいたが、もれなく返り討ち。
更に、二種には共通点がある。それは、人間を突発的、もしくは衝動的に襲わないことだ。
通常魔物は人間が視界に入った瞬間、ノータイムで攻撃に移る。高い知能を持った個体でも、これは同じだった。
だが、そいつらは違った。
確実に理性を備えている。人間を見ても、本能が激動していない。ただの一個体として捉えているだけ。
一言で言うと、人間に限りなく近い魔物である。
最初期からその二体を目で追っていたクロノスは、その事実に気付いて驚きをあらわにしていた。
(……どうすんだ、これ。明らかに異常だぜ。もしこのままこれが成長したら……)
と、その先を想像するところで、眉間に力を込めて思考を振り払う。
「何見てるの……あぁ、その子ね。最初期からいる個体だけど、誰も討伐できてないやつ」
仰向けのイザナキが、隣から顔を覗かせて映像を覗いて言った。
「あぁ、そうだな。ありゃ人間の手に負えるもんじゃねぇ。
近いうちに武闘派の神に討伐させた方がいいな」
「だよねぇ……」
クロノスはスクリーンを消して対応。手のひらをひらひらさせて、呆れるような口調で言っていた。
「ヅチァラにでも頼むか?」
「あぁ……あの人なら多分引き受けてくれると思う。けどそうすると会議の時に司会をやる人がいなくなるからなぁ……」
思い悩んだような顔は上に向き、眉間にしわが寄っていた。
――司会を変えてくれないか?
等と突っ込む口を一度噤んで、別の言葉を模索する。
「そ、そうだな」
結局、口に出したのは肯定の意味を含む一言。
気にするな……別にいいんじゃないか。そういった類いの言葉を口に出してしまうと、どうしてもヅチァラに対しての悪口と聞こえてしまう。いや実際そうなのだろうが。しかしそうなると彼を気に入っているイザナキが気を落としかねない。
(まぁ、他に理由もあるが)
「なら火の神とかどうだ。フェニスなら絶対暇だろうし、あいつならほぼ確実にあの二体を処理してくれるだろ」
「お、いいね。強さ的にもちょうどいいし。あ、でもできればもう一人いると安心できるかな」
「もう一人か」
一度目を閉じて、頭の中にある記憶の海に、戦闘に向いた神の情報を探しに潜る。
――水の神、雷の神、風の神、知恵の神、死の神。
様々な神が彼の頭の中を浮かんだが、どれもパッとしない。戦力として数えることはできるのだが、その幅が高すぎたり微妙だったりで、適任が見つからなかった。
「……オーデン」
そうして思い浮かんだ人物名を、海岸と同時に口から零していた。
「それなら剣の神《ギルズ》の方がいいんじゃない? 槍の神《オーデン》選ぶ必要ある?」
「剣の神《ギルズ》でも確かに問題ないだろうが、槍の神《オーデン》だと槍を扱えるから遠距離で安全に処理できるだろ。至近距離で戦うと最悪死ぬ可能性もあるからな」
「なるほど、一理あるね」
数秒おいて、イザナキが立つ。
クロノスがどうしたのかと問うと、彼は一言だけ言って転移していった。
「フェニスとオーデンに頼んでくる。君は家に戻ってていいよ」
イザナキがいなくなったことで、静かな時が訪れる。
彼は暫く虚空を見つめた後、下を向いて溜息と同時に呟いた。
「順調……だな。とりあえずは」
相変わらず、神は力を使い人間たちの動きを観察していた。狩りの瞬間、会話の瞬間、死の瞬間、生まれる瞬間――――と、様々な場面を見てきた。
その中で一番成長していたのは、狩りに関連する戦闘技術の面。無限に湧き出る魔物と違い、数が限られている人間は、魔物と唯一の差違点である『知能』をふんだんに活用して、死を回避しながら魔物を狩り続けていたのだ。
それでも倒せない時には『超越』を起こす。トリガーはやはり『追い詰められること』……そしてもう一つの条件は『死を強く拒むこと』。
ただし、2つの条件が重なっても起きないことはある。
考えられる理由としては、起こりやすい個体と起きにくい個体がある、単なる確率の問題、あとはまだほかに条件がある、のいずれか。統計的には、大体四分の一程度の確率だ。
対して、魔物側は。
この世に初めて生まれ落ちた二体が、今も尚生き残っていた。
一方は限りなく人間に近いフォルムをした魔物。非常に強靭な肉体を有していて、人間もいくらか挑んでいたがもれなく返り討ちにあっていた。
一方は龍のような見た目の、黒と白が入り混じった鱗を持つ個体。こちらもかなり強力で、体躯的にも能力的にも人間の非にならない。こちらも人間が挑んでいたが、もれなく返り討ち。
更に、二種には共通点がある。それは、人間を突発的、もしくは衝動的に襲わないことだ。
通常魔物は人間が視界に入った瞬間、ノータイムで攻撃に移る。高い知能を持った個体でも、これは同じだった。
だが、そいつらは違った。
確実に理性を備えている。人間を見ても、本能が激動していない。ただの一個体として捉えているだけ。
一言で言うと、人間に限りなく近い魔物である。
最初期からその二体を目で追っていたクロノスは、その事実に気付いて驚きをあらわにしていた。
(……どうすんだ、これ。明らかに異常だぜ。もしこのままこれが成長したら……)
と、その先を想像するところで、眉間に力を込めて思考を振り払う。
「何見てるの……あぁ、その子ね。最初期からいる個体だけど、誰も討伐できてないやつ」
仰向けのイザナキが、隣から顔を覗かせて映像を覗いて言った。
「あぁ、そうだな。ありゃ人間の手に負えるもんじゃねぇ。
近いうちに武闘派の神に討伐させた方がいいな」
「だよねぇ……」
クロノスはスクリーンを消して対応。手のひらをひらひらさせて、呆れるような口調で言っていた。
「ヅチァラにでも頼むか?」
「あぁ……あの人なら多分引き受けてくれると思う。けどそうすると会議の時に司会をやる人がいなくなるからなぁ……」
思い悩んだような顔は上に向き、眉間にしわが寄っていた。
――司会を変えてくれないか?
等と突っ込む口を一度噤んで、別の言葉を模索する。
「そ、そうだな」
結局、口に出したのは肯定の意味を含む一言。
気にするな……別にいいんじゃないか。そういった類いの言葉を口に出してしまうと、どうしてもヅチァラに対しての悪口と聞こえてしまう。いや実際そうなのだろうが。しかしそうなると彼を気に入っているイザナキが気を落としかねない。
(まぁ、他に理由もあるが)
「なら火の神とかどうだ。フェニスなら絶対暇だろうし、あいつならほぼ確実にあの二体を処理してくれるだろ」
「お、いいね。強さ的にもちょうどいいし。あ、でもできればもう一人いると安心できるかな」
「もう一人か」
一度目を閉じて、頭の中にある記憶の海に、戦闘に向いた神の情報を探しに潜る。
――水の神、雷の神、風の神、知恵の神、死の神。
様々な神が彼の頭の中を浮かんだが、どれもパッとしない。戦力として数えることはできるのだが、その幅が高すぎたり微妙だったりで、適任が見つからなかった。
「……オーデン」
そうして思い浮かんだ人物名を、海岸と同時に口から零していた。
「それなら剣の神《ギルズ》の方がいいんじゃない? 槍の神《オーデン》選ぶ必要ある?」
「剣の神《ギルズ》でも確かに問題ないだろうが、槍の神《オーデン》だと槍を扱えるから遠距離で安全に処理できるだろ。至近距離で戦うと最悪死ぬ可能性もあるからな」
「なるほど、一理あるね」
数秒おいて、イザナキが立つ。
クロノスがどうしたのかと問うと、彼は一言だけ言って転移していった。
「フェニスとオーデンに頼んでくる。君は家に戻ってていいよ」
イザナキがいなくなったことで、静かな時が訪れる。
彼は暫く虚空を見つめた後、下を向いて溜息と同時に呟いた。
「順調……だな。とりあえずは」
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