戦闘学園

深沢しん

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入学編

六話 入学式

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 体育館へ移動。桂坂を先頭として列になり、西道のクラスは一番右端へと並んでいた。

 ちなみに西道と剛は一番先頭。特にこだわる必要もないと思ったためだが、西道はあの教師が言っていた言葉が何故だか頭に残っていた。歯と歯の間に挟まった食べ物が取れないのと感覚は似ている。

――まさか。

「司会の御内みうちです。では、入学式を始めます」

 これは杞憂なのかもしれない、西道はそう思った。なにせ司会が式を始めてから、ずっと普通・・なのだ。
 式の演目に新入生入場がなかったり、在校生がいなかったりするのは、おかしいと言われればそうだろう。だがそれ以外は普通だ。新入生全員の名前を呼んでいき、次に担任の先生の紹介が始まる。自然な流れだ。

 何の異常もなく、ただただ普通の入学式が進んでいたのだ。

「では、神藤学園長。よろしくお願い致します」

 校長先生、ではなく学園長。生徒たちの雰囲気ががらりと変わったように感じた。
 かくいう西道も、杞憂を再び掘り返していた。だがそれもそうだ、格闘能力至上を謳い、更にそれを隠しているような学校だ、普通の枠に収まるような式で終わるわけがない。

 登壇した学園長とやらは、マイクの前に立つと掌を机に着けた。

「学園長の神藤だ」

 声はかなり低く、少なくとも平均的ではない。しかしそれでいてよく通る声だ。
 この声を聴いただけで学園長であることが分かるくらいには、特徴的な声だった。

「早速だが君たち新入生に問おう。現在、この世界に戦争が起きているかどうか」

 自分の胸に聞け、とでも言いたそうな顔だ。
 十秒ほどの間を空けると、学園長は正解を告げた。

「答えは当然、起きている、だ。数は減ってきているが着実に戦争は起きている。核が用いられていることは稀だろうが、戦車や戦闘機、銃や暗器による暗殺など、我々が知らない所で戦争は起きている」

――『あれ』を言うのか。西道は学園長がする話の方向性を察して、危惧していた。

「次に問おう。今、日本は戦争をしていると思うか」

 危惧が現実になる。予測ではなく、確信という形で。
この学校の制度、たった今の学園長の発言。それによって、確信はより真実味を増していた。

「答えは――している、だ。今日本では、他国と熾烈な戦争を繰り広げている。戦争と言っても形式は変わる。がしかし、戦争であることには変わらない。領土なんかをかけたりしているからな」

 予想と大きく異なるであろう答えが返ってきたことで、新入生全体が騒めく。
 そんな中、西道は全く動揺を露にしていない生徒たちを探した。大体三人ほどだ、その中には如月もいた。

格技戦争マーシャル・ウォー。各国が選んだ五人の戦士をぶつけ合う。その勝敗によって領土、関税自主権などを自由に得ることができる。これはあくまで例だが、レベルが高くなるともっと重要なものを賭けてやることもある」

 遂に言ったか……個体から液体へと状態変化するように、西道の体の力が抜けた。
 学園長は顔を深く垂らし、鋭い眼光を飛ばしながら、冷たく言い放つ。

「もう一度言う。これは形式が変わった戦争だ」

「ここまで言えば、サルでもなければもうわかるだろう」

 小馬鹿にするように彼は鼻から息を出す。

「ここは格技戦争《マーシャル・ウォー》で勝利をもたらすために作られた教育機関。勉強などしない、させない。ここでは徹底的に己の゛力゛と向き合ってもらう」

「だが、それを行った上での青春は自由だ。しかしそれをするのにも苦労が伴うとだけ、言っておこう」

 持ち上がった学園長の口から、強烈な気迫を感じさせる一言が告げられる。
 それは青春を謳歌しようと企んでいた生徒たちの背骨を、木っ端微塵に叩き潰したのも同義だった。

「――――今から試験を開始する」

 追い打ちをかけるように、学園長は言い渡した。

 同時に、体育館に備え付けられたあらゆる『出口』が封鎖。届かなくなった居陽光の代わりとして、天井にぶら下がる照明が光を放出し始める。外からの光を断絶する空間には、天井から刺すちっぽけな光しかない。

――この空間の閉鎖。司会と学園長以外に教員がいないと言う事実。
 それらの要素は、これから始まる試験がいかに凄惨なものであるかということを、如実に証明していた。

「殴り合え。
気の向くままに。やるもやらないも自由だ。我々はそれを見て君たちを審査する」

 神藤学園長の発言により、場はプロ野球会場の如く張り詰めた空気と化した。
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