戦闘学園

深沢しん

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入学編

五話 如月との邂逅

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 学校の門をくぐると、そこにはとてもじゃないが学校が有していいとは思えない広大な敷地が視界の大半を占めた。

 周りには生徒。男、女、背が高い、背が低い、など。様々な個性が見受けられた。
 男に見えるのにスカートを履いていたり、はたまたその逆だったりと。
 ここが学校であることを再認識した瞬間だった。

「いやぁ、これからどんな生活が始まんだろうな!? 俺楽しみすぎて夜も眠れなかったぜ!」

「楽しいのは同感。
けど俺は結構ぐっすり眠れた方だな」

 主にあいつのせいだけど、と心の中で付け足す西道。そんな中、見覚えのある生徒が目に映った。

(やっぱ如月あいつだったんだな、昨日机に突っ伏してた奴。……同じクラスか、めんどくせぇことになりそうだ)

 一方的な視線を送り続けていると、それに気づいたようにその生徒がこちらを向く。
 火のように熱い赤髪だ。眼は死んでいるが、体格は生物学的な性別を思わせぬほどがっちりしている。

「よう、久しぶりだな」

 女生徒が西道との距離を詰めると、言った。

「よう、久しぶりだな」

 オウム返しでもするようにして、西道は応答する。

「お前がこの学校に来てたとはな」

「特に行きたい高校とかがなくてな。担任に進められて、この高校に進学したんだよ」

「あくまで偶然とでも言いたいのか? 孤島にある島に何もないわけないだろ」

「いや、特に警戒はしなかった。孤島で学園生活送れるとか、最高だろ」

「……ハッ」

 鼻抜け声で、何かのたくらみを思わせるような笑みを浮かべると、如月は西道に背を向けた。

「まぁ、そういうことにしといてやるよ。またな」

 手をひらひらさせながら、如月は歩いて行った。この場にいる全員が向かう下駄箱へと。

 如月は西道の中学時代の友達だ。あるきっかけを経て、時々話すようになった。
 正直めんどくさく思う時もあるが、それは自分への戒めということで、割り切っている西道だった。

「……剛?」

「お、終わったか? あ、あいつと話すの」

 西道が『なんでそんなびくついてんだ?』という意味を込めて名前を呼ぶと、剛は顔だけを覗かせて西道に安全確認を取る。剛の竦んだような目は、如月の後ろ姿を正確に捉えている。

「何だお前、如月となんかあったのか?」

「い、いや、なんにもねぇけどさ。なんか、あいつ、怖い。なんか、よくわかんねぇけど、怖ぇんだよ!」

(お前その見た目で臆病なのかよ……)

 意外なところもあんだな……と、かがんでブレザーの裾を引っ張ってくる剛に、まるで子供でも相手にするかのように目線を合わせた。

「あいつは何もしなければ何もしない。だから大丈夫だ」

「ほ、本当か?」

「あぁ、本当だ。俺が保証してやる」

 俺は言い切る。不安要素を完全に取り除いてやるためにも、声に迷いを入れないようにして発生した。

「そ、そうか……」

 立ち上がる剛を上目を上目を遣う。すると、下駄箱の方を向いて元気よく言った。

「おし、行くか! 西道!」

「はぁ……全く。切り替えは早いんだな、あいつ」

 溜息を吐く西道だが、腰を上げて剛の後を追う。
 なんだかんだ言って自分はあいつが好きなのだと気付いた瞬間だった。

 そして、その場を離れた理由はもう一つある。

「あぁ、もう! 私の馬鹿! なんで逃げちゃったのよ! 西道くんに……正直な気持ちを打ち明けるチャンスだったじゃないっ!」

 玄関へたたたと小走りする西道を眺めながら、神藤は己を責め立てていた。                  

 校舎の陰に隠れてこちらの様子を窺う彼女の存在に気付いたからだ。
 先程ついた溜息には、そんな要因も絡んでいた。西道は元気になった剛の横に並び、クラスへ続く階段を上がりながら、つい今朝の彼女の表情を思い浮かべていた。

――――いや、なんであいつのこと思い出してんだよ。

 西道はそんな想像を頭から振り払う。やがて教室に着くと、桂坂から体育館の移動を促された。
 順番の指定は特にないらしい。『自分でよく考えて決めろ』、とのことだった。
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