戦闘学園

深沢しん

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入学編

十話 学園のルール・制度について

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 数分間、この学園のルールについて説明された。ちなみに言うとこの後気絶した生徒たちにも説明するとのこと。
 一つ目は、あの場で生き残った、猿間龍二を除いた二十九名とプラス繰り上げでもう一名、つまり全体の十%に相当する生徒が最初のしるべとなる、というもの。
 標とは、この学園におけるランクにて、上位三十人の座に居るもの達のことを指し、標は三つの恩恵を受けることができる。
 毎月十万円にも相当する金がもらえるということ。約三年後、三年の三月一日時点で標であれば、戦士ファイターの選考出場権を得れるということ。戦士ファイターは学園長が先述した通り、格技戦争マーシャル・ウォーのコマとして起用される人のこと。更に追加の説明で、貢献度に関わらず多額の報酬が支払われるということが明かされた。入れば将来の心配はなくなる、学園長が言った通り、考えていいだろう。
 三つ目の恩恵、これが一番重要だ。

 島を出る際の記憶の改ざんがなくなる・・・・・・・・・・・、ということ。

 記憶の改ざん。文字通り、記憶を別の記憶のすげ替えられる。この島の、この学園の秘密を守るために、この島から出る生徒にここで過ごした時の記憶とは異なった記憶を植え付けられるのだ。
 真実かどうかはわからない。ただここで嘘をついたところで、何かメリットがあるわけでもないだろう。
 記憶は生きる糧と、力になる。それを餌にして、ここで高みを目指すことを強制させる、そういった意図があるのかもしれない。しかし、ネイアパスを発明できるほど技術力のある場所だ、それぐらい出来ても可笑しくはない。それにそれが正しければ全ての辻褄が合う。脅し文句というわけではなさそうだ。

 この話を聞いた生徒たちは反感を買っていた。国が運営してると言っても、それはひどすぎるのではないかと。真実だということを仮定しても、あまりにもひどい処置ではないかと。だがそれは無意味にも等しかった。

「……これは国家が秘匿で運営している学校。だからこそ、だ。意味はわかるな?」

 そう、オルネイア学園はただの学校じゃない。政府の息がかかった、戦士ファイターの育成学校。それも存在を隠匿されている、トップシークレットとも言っていい、離島に建つ学園。いや、離島そのものが学園と言っていい学園。
 よって、人道的でないことも平然と行える。この学園で逆らうということは国内最大級の権力と戦うことと等しいのだ。
 それを理解したからか、生徒たちは口を挟むことをしなくなっていた。

 もはや、この学園に入学した彼らに逃げ道はないのだ。
 戦う。或いは諦め、三年という決して短くはない時間を棒に振るか。その二択を強いられる。
 本国に逃げる、退学するという選択は、絶対に取れない。取れせてくれない。
 やりようによっては実現できるのかもしれないが、距離的にも、通信手段的にも、実現可能性は低い。そもそもここが日本のどこの島であるかさえわからないのだ。十中八九、いや、十中十十、この島から逃げることは出来ないだろう。

 ……二つ目、ルールや制度について。

 この学園は一日目のホームルームでも言われたとおり、格闘能力を至上とする学校。格闘能力がなければこの学園で優位に立つことはできない。標《しるべ》、上位十%に入ることがこの学校で快適に暮らせる最低条件だと言っていい。標でない生徒も毎月三万円のNMが入るらしいが、食費やその他生活雑貨に当てることを考えると、遊びに使うことは殆どできないだろう。

 ランクを上げ標に入るには二通りの方法がある。一つは年四回行われる試験で白星を勝ち取ること。一つは決闘タイマンで格上の生徒に勝利すること。

 決闘タイマンとはその名の通り、両者が自分のランクを賭け、両者合意の上で行う殴り合うこと。場所はこの島にある三つの闘技場、その競技ホール。アプリで任意の相手を選択することでいつでも行うことができる。武器は一切支給されない。ただ自分の身のみで相手と殴り合う。審判が終了の合図を言い渡すまで永遠と続く。

 両者合意の上。つまりは合意しなければ戦わなくて問題はない。なら標たちは、戦わずとも永久のその地位に居座ることができてしまうのではないか。
 だがもちろん、それを回避するためのルールも設定されている。決闘タイマンを申し込まれ断ればランクが落ちていくというルール。これがあることで、ランクの変動が殆ど行われないという事態を防ぐことができる。

 そして、ランクの変動は両者のランク差が激しいほどに大きくなる。例えば、ジャイアントキリング成し遂げた場合、ランクが通常よりも大きく跳ね上がる。逆にランクが僅差の場合はランクの変動が少ない。運要素排除するために設けられたルールだろう。

 以上、これがこの学園内に設けられたルール。再喝するが、暴力行為はあくまでも決闘タイマンや試験などで教員が認めた場合のみに限られる。それ以外は本国と同様。万引きはできないし、脅迫、殺人未遂も同様に違法となる。
 ここはあくまで、戦士ファイターという名の強者を育て上げるための機関なのだ。

 学園長は話の最後で、ネイアパスにも同様の説明が記されていることを伝えた。ネイアパスを起動したときに見える『ルール』というパネルを押せば確認できるらしい。

 生徒たちはほとんどがしかめっ面で、警戒心や敵意を剥き出しにしたような顔で傾聴していた。しかし無理もない、確実に反感を買うようなことを口に出しているのだ。もしこの制度の是非を選挙で決めるとしたら、十中八九反対派が多数となるだろう。
 説明の工程が終わると、学園長は帰宅するようにと指示を仰いだ。

(……本当に強いのは十人程度。それ以外は偶然、運、その他……ってとこか)

「お前たちには期待している。先の戦いを見たところ、今回・・は粒揃いみたいだからな。
この国の未来をより良くするためにも、頼んだぞ」 

 嫌味。というより、心からの本音。
そういう風に受け取れた。

 そんな言葉を最後に自宅へ向かう西道は、今後の展開を軽く予想していた。

 ……依然、抱きついている神藤に時折視線を送りながら。

「あのさ、もう家着いたんだけど」

 玄関前に来ても神藤は離れなかった。

「……また後で連絡する。その時に話聞くから、さ。一旦その、離してくんない?」


「……や」

 掴む力をより一層強くした。

(――あぁ、もう無理だ、これ。色んな意味で)

 自然に離れてくれることを願うことしか、西道に選択肢はなかった。

 拘束のない左手でポケットから鍵を取り出すと、鍵穴に差し込んで中に入る。
 そして、結局どんな行動をしても神藤が離れることはなかった。
 折り畳み式のテーブルの前に移動しコーヒーを飲んでるときでも、彼女が離れることはなかった。

(……俺は貧乳派だ。落ち着け、落ち着け。こんなんで怯むような男じゃないだろ。大丈夫だ、大丈夫だ。
自分を信じろ……belieave in myself自分を信じろ!)

 西道が自分を言い聞かせるようにしている間にも、神藤のより一層強みを高めていく。
 更に、それだけではない。時々体制を変えながら、また若干違った感触を彼に届けてくれる。

 そういったこともあり、彼は理性と野生の狭間で彷徨ほうこうを続けていた。
正直、いつ理性崩壊してもおかしくはなかった。それでも彼は耐え続ける。耐え続けた。
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