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人間編
地獄への選択
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ぞっ、と背筋が凍るような感覚がした。恐る恐る振り返ると、二人組の女が立っていた。手も足も血だけで、でもどこも外傷がなかった。眼帯をした、黒い髪の毛をひとつに編んだ女の人。珍しい形をしたクリーム色のセーラー服を着ている。もう一人は二つのお団子を低い位置で結んだ少女。制服だろうか。こちらも珍しいシャツを着ている。少女は、暗い顔をしていて黒いノートのメモをとっている。眼帯の女の人といったら、まんざらでもない様子でもう一人の少女に話しかけている。
「にしても、こんなところにいたのか。佐藤修真。バスに巻き込まれるって書いてあったから、探すの苦労するって思ってたけど、やっと見つけた。ねぇ、魅沙。ほら、あそこ」
修真、この人、今修真って言った? どうしてそれを? なんでそんな平気な顔をしているの? なんで…。
「魔莉奈さん、無駄口を叩くのはいいですけど、あの女の子見てください。私たちのこと見えてるっぽいですよ」
魅沙と呼ばれた少女が、私に向かって指をさす。暗い目だった。すると魔莉奈と呼ばれた女の人が、さっきまでと別人になったかのような冷たい目で私を見つめる。悪魔だ、悪魔に違いない。赤信号を出している。あれに近づいちゃだめだ、と本能が叫んでいる。
一歩後ずさりする。震えが止まらない。
「まぁ、魅沙、イレギュラーちゃんは置いといて、さっさと魂回収しちゃいなよ。ほら、あの子の担当は魅沙ちゃんだったでしょ」
「分かってます。でもちゃんと見張っていてくださいよ、その女の子、暴れないように」
「大丈夫だよ、もう動けないっぽいから」
魅沙はノートを仕舞い、代わりに小さなナイフを取り出した。なにを、するのだろうかー。魅沙は赤く染まった手で、弟を掻き分ける。悪寒が走った。やめろ、これ以上、弟を傷つけないでくれ。やめろ…。
「………ろ、……めろ、……めろ…やめろ、やめろやめろやめろやめろおおおおおおおっ」
素早く散らばった硝子を既で掴み、魅沙に飛びかかる。魅沙は驚いてバランスを崩す。私は硝子で首もとめがけてかっ切る。血が、吹き出して止まらない。私は頭が真っ白になって、同じ所を執拗に刺した。弟と同じような肉が見え始める。もっと、もっと刺さないと、弟があのナイフでぐちゃぐちゃにされてしまう。だから、もっと。
「もういいだろう、魅沙はもう、死んでいる。それに、君の手も傷だらけだ」
また、背筋になにかが走って、硝子を落とす。落ちた硝子が粉々になる。右手が痛い。血だらけでわからないけど、多分私の血も混じっているだろう。
「さて、イレギュラーちゃん、これは本当にイレギュラーだ。人間が神に逆らうなんて、長い歴史の中でも両手で数えるくらいもない。本来ならばここでイレギュラーちゃんを捕まえて、御上おかみに差し出さなければならない。だけど私は気まぐれの神だ。君に選択肢をあげよう。
まず一つ、このまま流れに身を任せて私に捕まえられる選択。その場合御上に事情を聞かれた後、八つ裂きにでもされるか冥界の牢に一生閉じ込められるだろう。これはイレギュラーちゃんにとっても最悪な結末だ。
二つ目、抵抗してどこか遠い所に逃げる。まぁこの場合も他の奴らに捕まえられるだろう。なにせ天からは丸見えなんだから。
三つ目、この魅沙に成り済ます。これが君が生きる最善の方法だ。それ以外に生きのびる方法はない
最後だ。これが一番楽な方法。君が今、自殺することだ。その場合、私が御上に事情を説明する。バスに敷かれたってね。まぁだいたいの人間がこの選択を選ぶことだろう。さぁ、どうする?」
「死ぬことは置いといて…。そっ、そんなに簡単に言うけど成り済ますなんて私に出来るの? 第一成り済ましがばれないわけがなー」
「そこは大丈夫さ、私が変装を手伝ってやる。それにイレギュラーちゃんは気付いていないだろうけど、顔は結構似ているから大丈夫だよ。同じといってもいい。知ってる? 世界には同じ顔が三人いるっていうやつ」
「そもそもあなたたちは何者? なんで修真を刺そうとしたの? なんでこんなところにいるの?なんでー」
「そう焦るなよ、イレギュラーちゃん。時間はたっぷりとある。そうだなぁ、まず私たちの招待から。私たちは死神。驚くのも無理はない。でも、必ず誰かが死んだ時やってくる。珍しいものではないんだ。ただちょっと、皆にはみえてないだけで。
なんでイレギュラーちゃんには見えたかって? そこがイレギュラーなんだ。私の見解ではこうだ。君は元々霊感が強い方だった。そんなことを言っても、君は人間だ。雨の日に墓地に行くと、ぼんやり霊が見える程度。それだけだった。しかし弟くんが無惨に死んだ今、君はこう強く願った。弟が生き返りますように。魂の底から、願ったんだろう。それこそ私たちに出会わなければ、禍々しい悪魔が表れていた。その悪魔はイレギュラーちゃんの命と引き換えに、弟くんが生き返ることを提案してることだろう。まぁそんな願い悪魔が叶えてくれることはないだろうけど。
話を戻そう。私たちは死神だ。だからここに来た。君は気付いていないだろうけど、バスの中は半数の人がもう死んでいる。その魂を回収しにきた。それで弟くんの魂を回収しようとしたとき、君に出会った。ざっとこんな感じだ。まぁ成り済ますってなったらもっと細かいことを教えてあげるから」
魔莉奈は深呼吸をして、さっきまでの軽薄な笑みを消した。それと同時にまたあの冷たい瞳をこちらに向けた。
「さて、そろそろ君が選択する番だ。たっぷり考える時間をあげたんだ。手短に頼むよ」
悪魔のような死神は、私に選択肢を渡した。もうなんだっていい。そんな気持ちで私は死神を睨んだ。
「にしても、こんなところにいたのか。佐藤修真。バスに巻き込まれるって書いてあったから、探すの苦労するって思ってたけど、やっと見つけた。ねぇ、魅沙。ほら、あそこ」
修真、この人、今修真って言った? どうしてそれを? なんでそんな平気な顔をしているの? なんで…。
「魔莉奈さん、無駄口を叩くのはいいですけど、あの女の子見てください。私たちのこと見えてるっぽいですよ」
魅沙と呼ばれた少女が、私に向かって指をさす。暗い目だった。すると魔莉奈と呼ばれた女の人が、さっきまでと別人になったかのような冷たい目で私を見つめる。悪魔だ、悪魔に違いない。赤信号を出している。あれに近づいちゃだめだ、と本能が叫んでいる。
一歩後ずさりする。震えが止まらない。
「まぁ、魅沙、イレギュラーちゃんは置いといて、さっさと魂回収しちゃいなよ。ほら、あの子の担当は魅沙ちゃんだったでしょ」
「分かってます。でもちゃんと見張っていてくださいよ、その女の子、暴れないように」
「大丈夫だよ、もう動けないっぽいから」
魅沙はノートを仕舞い、代わりに小さなナイフを取り出した。なにを、するのだろうかー。魅沙は赤く染まった手で、弟を掻き分ける。悪寒が走った。やめろ、これ以上、弟を傷つけないでくれ。やめろ…。
「………ろ、……めろ、……めろ…やめろ、やめろやめろやめろやめろおおおおおおおっ」
素早く散らばった硝子を既で掴み、魅沙に飛びかかる。魅沙は驚いてバランスを崩す。私は硝子で首もとめがけてかっ切る。血が、吹き出して止まらない。私は頭が真っ白になって、同じ所を執拗に刺した。弟と同じような肉が見え始める。もっと、もっと刺さないと、弟があのナイフでぐちゃぐちゃにされてしまう。だから、もっと。
「もういいだろう、魅沙はもう、死んでいる。それに、君の手も傷だらけだ」
また、背筋になにかが走って、硝子を落とす。落ちた硝子が粉々になる。右手が痛い。血だらけでわからないけど、多分私の血も混じっているだろう。
「さて、イレギュラーちゃん、これは本当にイレギュラーだ。人間が神に逆らうなんて、長い歴史の中でも両手で数えるくらいもない。本来ならばここでイレギュラーちゃんを捕まえて、御上おかみに差し出さなければならない。だけど私は気まぐれの神だ。君に選択肢をあげよう。
まず一つ、このまま流れに身を任せて私に捕まえられる選択。その場合御上に事情を聞かれた後、八つ裂きにでもされるか冥界の牢に一生閉じ込められるだろう。これはイレギュラーちゃんにとっても最悪な結末だ。
二つ目、抵抗してどこか遠い所に逃げる。まぁこの場合も他の奴らに捕まえられるだろう。なにせ天からは丸見えなんだから。
三つ目、この魅沙に成り済ます。これが君が生きる最善の方法だ。それ以外に生きのびる方法はない
最後だ。これが一番楽な方法。君が今、自殺することだ。その場合、私が御上に事情を説明する。バスに敷かれたってね。まぁだいたいの人間がこの選択を選ぶことだろう。さぁ、どうする?」
「死ぬことは置いといて…。そっ、そんなに簡単に言うけど成り済ますなんて私に出来るの? 第一成り済ましがばれないわけがなー」
「そこは大丈夫さ、私が変装を手伝ってやる。それにイレギュラーちゃんは気付いていないだろうけど、顔は結構似ているから大丈夫だよ。同じといってもいい。知ってる? 世界には同じ顔が三人いるっていうやつ」
「そもそもあなたたちは何者? なんで修真を刺そうとしたの? なんでこんなところにいるの?なんでー」
「そう焦るなよ、イレギュラーちゃん。時間はたっぷりとある。そうだなぁ、まず私たちの招待から。私たちは死神。驚くのも無理はない。でも、必ず誰かが死んだ時やってくる。珍しいものではないんだ。ただちょっと、皆にはみえてないだけで。
なんでイレギュラーちゃんには見えたかって? そこがイレギュラーなんだ。私の見解ではこうだ。君は元々霊感が強い方だった。そんなことを言っても、君は人間だ。雨の日に墓地に行くと、ぼんやり霊が見える程度。それだけだった。しかし弟くんが無惨に死んだ今、君はこう強く願った。弟が生き返りますように。魂の底から、願ったんだろう。それこそ私たちに出会わなければ、禍々しい悪魔が表れていた。その悪魔はイレギュラーちゃんの命と引き換えに、弟くんが生き返ることを提案してることだろう。まぁそんな願い悪魔が叶えてくれることはないだろうけど。
話を戻そう。私たちは死神だ。だからここに来た。君は気付いていないだろうけど、バスの中は半数の人がもう死んでいる。その魂を回収しにきた。それで弟くんの魂を回収しようとしたとき、君に出会った。ざっとこんな感じだ。まぁ成り済ますってなったらもっと細かいことを教えてあげるから」
魔莉奈は深呼吸をして、さっきまでの軽薄な笑みを消した。それと同時にまたあの冷たい瞳をこちらに向けた。
「さて、そろそろ君が選択する番だ。たっぷり考える時間をあげたんだ。手短に頼むよ」
悪魔のような死神は、私に選択肢を渡した。もうなんだっていい。そんな気持ちで私は死神を睨んだ。
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