神在(いず)る大陸の物語~月闇の戦記~【第四章】

坂田 零

文字の大きさ
4 / 43

第一節 開戦の調べ3

しおりを挟む
「本当に、随分とじゃじゃ馬な姫君だな?あの姫君は?あれじゃ、スターレットもてこずるはずだ・・・・」

 実に愉快そうな口調で、あたふたするウィルタールに声をかけてきたのは、他でもないラレンシェイである。
 その美麗で妖艶な顔を、可笑しくてたまらないと言ったように綻ばせて、彼女もまた、傍らで草を食んでいたリタ・メタリカの軍馬の手綱を取るのだった。
 そんな彼女に振り返りながら、ウィルタールは、半ばやけになって叫んだのである。

「もう!なんて事を言ったのですか、貴女は!!?それじゃなくても不機嫌だったのに!!余計なことを言わないで下さいよ!!」

「何を言うか?ただ、本当のことを言ったまでではないか?あの姫君、あまりにも感情が露骨ゆえ、つい面白くて
な」

 何の悪気もなさそうにそう答えると、ラレンシェイもまた、傍らにいる騎馬の鞍へと機敏な仕草で飛び乗ったのである。

「おぬしも早く来い、あの姫を守るのがおぬしの役目であろう?」

 妖艶な唇で艶やかに微笑して、馬上から片手を伸ばすと、ラレンシェイは、半ば強引にウィルタールの腕を掴んだのだった。

「うわ!?」

 女性とは思えぬほどの豪腕で腕を引き上げられ、ウィルタールの華奢な体は、いつの間にか、腹這いの状態で鞍の後輪に乗せられていたのである。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!僕はまだ!スターレット様に・・・!!」

「スターレットとは後でゆっくり話もできように?よく掴まっておるのだぞ」

 抗議の声を上げたウィルタールを全く無視しきって、異国の女剣士のブーツが馬腹を蹴る。

「うわぁ!?」

 危うく振り落とされそうになったウィルタールが、咄嗟に鞍の下を掴んだ。
 軽快な馬蹄を響かせて、ラレンシェイの駆る騎馬が炎上するサーディナに向けて、海岸線を疾走し始める。
 長く見事な紅の髪が、しなやかに引き締まる彼女の背中で弾むように揺れていた。
 そんな彼女を睨むように見て、ウィルタールが怒ったように声を上げる。

「一体どういう人なんですか貴女は!?酔狂にも程がありますよ!?」

「そう言えば、スターレットにも似たようなことを言われたな?」

 しかし、全く物怖じしない彼女は、なにやら愉快そうに一笑するとそう答えて言ったのだった。
 騎馬が足を踏み出す度に揺れる、明るい茶色の前髪の下で、怒ったように眉根を寄せながら、ウィルタールは、尚も抗議の声を上げたのである。

「スターレット様を呼び捨てにしないでくださいよ!あの方は仮にも、ロータスの大魔法使いなんですよ!?」

「別によいではないか?私があやつをどう呼ぼうと、おぬしには関係あるまい?細かい奴だな?」

「そりゃ、確かに関係ないかもしれませんが・・・・!でも、礼儀というものがあるではありませんが!?」

「礼儀も何も・・・・・私はあやつの部下でもなんでもないからな・・・それに」

「それになんですか!?」

「ある意味私は・・・おぬしよりも、あやつの事を知っているかもしれぬしな」

「はぁ!?」

 何やら意味深な含みを持ったその言葉の意味が判らず、ウィルタールは、鞍に掴まりながら、実に怪訝そうな顔つきをして、その唇をヘの字に曲げたのだった。
 炎上するサーディナの街に、今、けたたましい馬蹄が急速近づいていく。
海鳴りの轟く最中、天空を渡る風の精霊は、未だに、激しい警告の声を上げ続けていた・・・・

        
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...