神在(いず)る大陸の物語~月闇の戦記~【第四章】

坂田 零

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第一節 開戦の調べ19

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 一直線に大地を貫いた紫電の凄まじい残光が、尚も天空から雷撃を呼び、更にその破壊力を増していく。

 頭上から降り注ぐ紫電の光線を、防ぐ手立てなどあるはずもなく、迸る無数の雷撃が虚空で破裂し互いに共鳴を起こしながら、兵士たちの脳天を容赦なく貫いていく。
 辺りには、人馬の肢体から上がった白い煙が充満し、潮の香りに死臭が漂った。
 利き手に白銀の剣を構え、白銀の雷光をその身に纏ったまま、シルバは、その深き地中に眠る紫水晶の右目を爛と輝かせた。

 破裂しながら舞い上がる銀色の雷の中に、長い黒髪と純白のマントが千切れんばかりに乱舞する。
 もはや、サングダ―ル軍に勝ち目はない・・・・
 鋭く細められた視界の先で、蒼き疾風が舞った。

『魔法剣士だ!魔法剣士がいるぞ!!?』

 サングダ―ル語の叫びが、吹き付ける海風の中に轟き渡る。
 先行部隊は既に壊滅し、天空から迸る紫の雷光は後方部隊の先頭にまで及んでいた。
 この時、サーディナの街に侵攻してきたこの騎兵達は、自国の王の首が討ち取られていたことなど知る由もない・・・

 怒号が轟く後方部隊の只中に、不意に、一筋の冷たい疾風が走り抜けた。
 その次の瞬間、その風に触れた兵士たちの首が音もなく虚空に跳ね上がり、その腕が、肩が、まるで刃に薙ぎ払われたかのように深紅の鮮血を吹き上げたのである。

『ぎゃぁぁぁ―――――っ!!』

 騎馬が高く嘶き、馬上の兵士たちを振り落として町のあちこちに逃げ去っていく。
 一体、何がそこに起こったのか考えもつかない兵士たちが、驚愕と驚異に目を剥いた・・・・

 その時だった、白刃をかざす騎兵の合間に、一際大きな旋風が巻き起こり、どよめき立つ異国の兵士の合間に、蒼き疾風を纏った雅で秀麗な青年が一人、禍々しくも神々しく輝く深紅の瞳を鋭利に細めながら、その姿を現したのである。

 疾風にたゆたう紺色のマントと、古代紫の軍服・・・・
 跳ねるように虚空に揺らめく、輝くばかりの蒼銀の髪・・・・
 美しいとも言える秀麗な顔を厳しく歪めながら、ロータス一族の大魔法使いスターレットが、今、ゆっくりとその右腕を頭上に掲げる。

 甲高い声を上げて、蒼き疾風が悲鳴を上げた。

「我が名は、スターレット・ノア・イクス・ロータス・・・・リタ・メタリカの地を侵す者よ・・・・・その報いを受けるがいい・・・・」

 流暢なサングダ―ル語を紡がれたその言葉に、兵士たちの顔がにわかに戦慄の様相を呈した。

『大魔法使いだ!!ロータスの大魔法使いだぁぁぁ―――――っ!!』

 たゆたうように揺らめく蒼きオーラが、凄まじい旋風を巻き起こしながらスターレットの肢体に絡み付いていく。
 綺麗な眉を鋭利に眉間に寄せて、その薄く知的な唇が呪文と呼ばれる古の言語を紡ぎ出した。

『古に眠りし怒りの精霊 我は呼ばわう 其が力・・・・・』

 弾けるように湧き上がる蒼きオーラが、轟音を上げてその輝きを増していく。
 広い肩に羽織られた紺色のマントが虚空に棚引き、最高まで高められたその魔力が、周囲に蒼銀のヴェールを作り上げ、彼の肢体をそのまま覆い尽くしていく。

 周囲の空気がざわめき、細い音を立てて走る閃光の雨。
 深紅の瞳を爛々と煌かせ、蒼銀の閃光を纏うロータスの大魔法使いが紡がんとしているその呪文は、竜狩人(ドラグン・モルデ)の扱う呪文より更に強力な、大魔法使いの名を持つ者にしか扱うことの出来ない、特有呪文と呼ばれる最強の呪文である。

 甲高い音を上げ地面から吹き上がる激しい蒼銀の旋風が、辺りにひしめく異国の侵略者達をみるみる取り囲んでいく。

『我 大魔法使いの名において  引き裂く光 破壊の風  ここに解放する・・・』

   スターレットが纏う蒼銀の疾風が、今、目が眩むほどに眩く神々しいばかりの凄まじい光の帯を宿した。

 『 来たれ崩壊の嵐(アルガード・ハンザーダ)』

 その唇が、遂に最後まで呪文を口にした時、彼を囲んでいた蒼銀の光が轟音と共に分散し、たゆたうように虚空に舞い上がると、にわかに頭上に掲げられた右腕に、その全てが一瞬にして集結する。

 弾ける閃光を伴う凄まじい爆風が巻き起こり、スターレットの輝くような蒼銀の髪を激しく宙に乱舞させた。

 頭上に振りかざしていた腕を、ふわりと眼前に振り下ろすと、巻き上がった爆風が、凄まじい勢いで蒼銀の光を飲み込み、その眼前に、巨大な閃光の竜巻を作り上げたのだった。

 それは、激しく発光しながら空気を捩じ曲げ、蒼き光の曲線を描いて、いまだだ数千はいるだろう侵略者たちを舐めつくすように、豪速で周囲に舞い飛んだのである。

『ぎゃぁぁぁぁぁ――――っ!!?』

 天地を揺るがす凄まじい衝撃が、海辺の町を震わせる。
 驚愕と戦慄の叫びが、敵国の兵士の合間から迸った。
 辺りを埋め尽くさんばかりの激しい光と爆風が、轟音と共に、焼け残った家屋を振動させ、膨れ上がる閃光の竜巻は、無粋な侵略者達を容赦なく飲み込んでいく。

 幾筋もの光の矢が、まるで生き物であるかのように、天と海と地に飛び交い、それは絡み合うようにして、縦横無尽に、流星にも似た閃光の雨を降らせた。

 地面が脈打つような激しいの脈動が天空さえ揺るがせ、眩い閃光が辺りに伸び上がる。
 それは、にわかに虚空で砕け散り、一瞬にして、ひしめきあうようにしてそこに居たサングダ―ルの兵士たちを、  その体の一部すら残さぬまま、その場から完全に消滅させたのである。

 辛うじて生き残った僅かな者たちは、ぺたんと地面に座り込んで、ただ、呆然と虚空を仰ぐばかりだった・・・・・

 数万騎はいたはずのサングダ―ル騎兵は、もはや、十数人の幸いな者だけを残し、壊滅した。
 それはまさに、ほんの一瞬の出来事であった。
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