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第二節 落日は海鳴りに燃ゆる3
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どこの国にとっても、リタ・メタリカの大魔法使いは驚異でしかない。
それを心底熟知しただろう彼女は、必ず、スターレットの首を取りにかかるはず・・・・
一抹の切なさが、うら若きロータスの大魔法使いの胸に過ぎっていく。
そうなのだ・・・・
彼女は、あくまでも敵国の人間であって、自国の人間ではない、ましてや、エストラルダ帝国の誇る勇敢で強靭な女人部隊、アストラ部隊の一人である者だ・・・・
下手な手加減など、してはこないだろう。
そんな女性(にょしょう)だからこそ、これほど強く惹かれたのかもしれない・・・・
その複雑な胸中を隠すこともなく、スターレットは、揺れる蒼銀の前髪の下で、綺麗な銀水色の瞳を静かに細めたのだった。
そんな彼の視界の中で、異国の美しき女剣士が、もう一度艶やかに不敵に微笑する。
あの時、指先に絡み付いていた長く艶やかな紅の髪が、一際強い海風に煽られ、まるで、思い留まろうとする心を揺らすかのように、彼の秀麗な頬を柔らかく撫でたのだった。
「そなたのことは、風が同朋の元へ運ぼう・・・・・・・気をつけて行け」
そう言ったスターレットの銀水色の瞳が、一瞬にして鮮やかで美しい深紅の色に変貌する。
甲高い音を上げて渦を巻く蒼き疾風が、異国の美麗な女剣士のしなやかな肢体を包み込んだ。
その中から、ふと差し伸ばされたラレンシェイのしなやかな指先が、柔らかく彼の唇に触れる。
「次に会う時は敵だ、容赦はしない」
紅の髪が虚空に乱舞し、その妖艶な唇が三度艶やかに微笑んだ。
甲高い音を上げる蒼き旋風が、彼女の羽織る紅色のマントを、千切れんばかりに棚引かせる。
その時、緩やかに開かれた唇が、エストラルダ語で何かを囁いた。
『・・・・・・、・・・・・・思うか?・・・・・、・・・・・・・・・・故』
甘美な響きを持つその言葉が、蒼き疾風を通して確実にスターレットの耳に届いた時、彼は、一瞬、驚いたように深紅の両眼を見開いたのだった。
差し伸ばされていた指先が、緩やかにそんな彼の唇から離れていく。
眩いばかりの蒼き閃光を放ちながら、甲高い音を上げて渦を巻く疾風に、見事な紅の髪を揺らす彼女の美麗な姿が、艶やかな微笑みを残したまま、たおやかに掻き消されていった・・・・・
呆然としたまま、天空を駈ける蒼き疾風を見送ったスターレットの蒼銀の髪が、ふわりと虚空に跳ね上がる。
流星のように南へと向かう一筋の閃光を、その深紅の両眼で追いながら、ロータスの雅な大魔法使いは、どこか切なそうに微笑して、思わずこう呟いたのだった。
「・・・・そなたは、本当に魔性だな・・・・・・・どこまで私を惑わせば気が済むのか・・・・・・」
遠く海鳴りが響く。
つい今しがたまで、戦乱と混乱が街を覆い尽くしていたというのに、内海アスハ―ナから吹いてくる風は、やけに穏やで、そして、暖かかった・・・
だがしかし、この日、このサーディナの町で起こった混乱は、実は、これだけには留まらなかったのである・・・・
それを心底熟知しただろう彼女は、必ず、スターレットの首を取りにかかるはず・・・・
一抹の切なさが、うら若きロータスの大魔法使いの胸に過ぎっていく。
そうなのだ・・・・
彼女は、あくまでも敵国の人間であって、自国の人間ではない、ましてや、エストラルダ帝国の誇る勇敢で強靭な女人部隊、アストラ部隊の一人である者だ・・・・
下手な手加減など、してはこないだろう。
そんな女性(にょしょう)だからこそ、これほど強く惹かれたのかもしれない・・・・
その複雑な胸中を隠すこともなく、スターレットは、揺れる蒼銀の前髪の下で、綺麗な銀水色の瞳を静かに細めたのだった。
そんな彼の視界の中で、異国の美しき女剣士が、もう一度艶やかに不敵に微笑する。
あの時、指先に絡み付いていた長く艶やかな紅の髪が、一際強い海風に煽られ、まるで、思い留まろうとする心を揺らすかのように、彼の秀麗な頬を柔らかく撫でたのだった。
「そなたのことは、風が同朋の元へ運ぼう・・・・・・・気をつけて行け」
そう言ったスターレットの銀水色の瞳が、一瞬にして鮮やかで美しい深紅の色に変貌する。
甲高い音を上げて渦を巻く蒼き疾風が、異国の美麗な女剣士のしなやかな肢体を包み込んだ。
その中から、ふと差し伸ばされたラレンシェイのしなやかな指先が、柔らかく彼の唇に触れる。
「次に会う時は敵だ、容赦はしない」
紅の髪が虚空に乱舞し、その妖艶な唇が三度艶やかに微笑んだ。
甲高い音を上げる蒼き旋風が、彼女の羽織る紅色のマントを、千切れんばかりに棚引かせる。
その時、緩やかに開かれた唇が、エストラルダ語で何かを囁いた。
『・・・・・・、・・・・・・思うか?・・・・・、・・・・・・・・・・故』
甘美な響きを持つその言葉が、蒼き疾風を通して確実にスターレットの耳に届いた時、彼は、一瞬、驚いたように深紅の両眼を見開いたのだった。
差し伸ばされていた指先が、緩やかにそんな彼の唇から離れていく。
眩いばかりの蒼き閃光を放ちながら、甲高い音を上げて渦を巻く疾風に、見事な紅の髪を揺らす彼女の美麗な姿が、艶やかな微笑みを残したまま、たおやかに掻き消されていった・・・・・
呆然としたまま、天空を駈ける蒼き疾風を見送ったスターレットの蒼銀の髪が、ふわりと虚空に跳ね上がる。
流星のように南へと向かう一筋の閃光を、その深紅の両眼で追いながら、ロータスの雅な大魔法使いは、どこか切なそうに微笑して、思わずこう呟いたのだった。
「・・・・そなたは、本当に魔性だな・・・・・・・どこまで私を惑わせば気が済むのか・・・・・・」
遠く海鳴りが響く。
つい今しがたまで、戦乱と混乱が街を覆い尽くしていたというのに、内海アスハ―ナから吹いてくる風は、やけに穏やで、そして、暖かかった・・・
だがしかし、この日、このサーディナの町で起こった混乱は、実は、これだけには留まらなかったのである・・・・
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