神在(いず)る大陸の物語~月闇の戦記~【第三章】

坂田 零

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第一節 鋼色の空17

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 いつもは気強いはずのその眼差しも、その表情も、ずっと凍り付いたようにこわばったままである。
 緩やかに波打つ藍にも似た黒髪が彩る、彼女の綺麗な頬は、心なしか血色を失っているようだ・・・・
 そう見えるのは、多分、この部屋が薄暗いからだけではない筈だ。

 実直な光を宿す紫色の眼差しを、食い入るように見つめながら、レダは、再び、震える声で小さく呟いたのである。

「・・・・一人で・・・・いたくなくて・・・・こんなこと、貴方に言うのは・・・・きっと、何か間違ってる・・・・・・」

「・・・・・・・」

 その言葉に、何をも答える事もなく、シルバは、大きな両腕を、ゆっくりと眼前に立つレダの元へと伸ばし、しなやかなその体を包み込むように、そっと自らの腕に彼女を抱いたのだった。
 さして饒舌でもなく、戦うことだけを生業としてきた不器用な男には、きっと、こんなことぐらいしか出来ぬのであろう・・・・

 暖かいその腕の中で、レダは、僅かばかり驚いたように、鮮やかな紅の瞳を見開いた。
 青き華の紋章が刻まれた綺麗な額で、藍に輝く黒髪がふわりと揺れる。
 今、自分を抱きすくめる彼の腕に、抵抗など出来ない。

 抗うには、この大きな両腕は温かく、そして、余りにも優し過ぎる。
 父の命を奪い、彼女の行く道筋すら変えてしまった腕なのに・・・・

 まるで引き寄せられるように、白く秀麗なその頬を、彼の広い胸に押し当てると、何故だろう、苦悩に満ち溢れていた心が、不思議と落ち着いてくる。
 憎しみも悲しみも屈辱も、その全てを受け止めてくれるだろう、暖かで大きな両腕。

 彼は何をも語らない。

 窓を叩く激しい雨の音を背中で聞きながら、ただ、どこか切な気な眼差しで、真っ直ぐに虚空を見つめたままである。
 その複雑な胸中を、明かすことなど決して無い。

 そんなシルバの思いを知らぬまま、レダは、ゆっくりとその鮮やかな紅の瞳を伏せると、静かに両腕を伸ばし、彼の広い背中を抱きしめたのだった。
 今まで、自分が何を言っても、黙ってそれを受け止めていた彼に、きっと、甘えているのだと・・・・今更ながらにそんな事を思う。
 彼女は、ふと、彼に問うのだった。

「貴方は・・・・何も聞かないのね?」

「・・・・・聞かれたくない事を、無理に聞くような真似はしないよ・・・
それに、聞いたところで、どうしてやることも、俺にはできない・・・」

 相変わらず沈着な声と口調で答えて言うと、シルバは、深き地中に眠る紫水晶の澄んだ瞳で、自分の胸に頬に埋めたままでいる、レダの、甘い色香の漂う秀麗な顔を見やるのだった。

 そのしなやかで美しい彼女の肢体からは、芳しい花の薫りが漂っている。
 どこか切なそうな表情のまま、レダは、彼の背中にまわした腕にぎゅっと力を込めた。

 窓の外の嵐は、まだ、その激しい装いを呈し、吹き荒ぶ暴風と大粒の雨を止める気配など一向に見せずにいたのである・・・・

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