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終節 時を告げる三日月 18
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遍く天空が、紺碧色に輝いている。
金色の太陽が照らし出す、久方ぶりに凪いだ内海アスハ―ナの海原を、おびただしい数の戦艦隊が、打ち寄せる漣を
切り裂きながら、東に向けて進路を取っている。
その船団の只中にある一隻の武装戦艦の中に、北方の小国カシタ―シュ公国から、捕虜として連行されてきた美しい女魔法使いの姿があった。
船体に波を受け、緩やかに揺れるその船室の中で、クスティリン族の美しき魔法使いのは、銀水晶のような綺麗な瞳を心なしか伏せがちにして、狭い窓から、切り裂かれる白い波飛沫を、ただ黙って見つめやっていた。
その秀麗な頬に緑銀の特殊な塗料で描かれた、竜の翼のモチーフ。
そこにかかった優美な銀色の髪束が、船体が揺れるたびに、静かに、その透き通るような白い肌を撫でる。
この戦艦隊は、サングダ―ル王国軍の武装船団であり、これから、総数8万もの兵士達を連れ、魔物達の来襲を受ける大国リタ・メタメタリカに攻め上っていく。
船室の外で悲鳴を上げる海風に、風の精霊達の警告の声が混じっていることを、クスティリン族の魔法使いの長、マイレイ・カーラ・デルーソフは知っていた。
強者たちが、この海の向こうにある広大な地で、侵略者の率いる船団を待っている・・・・
風は、確かにそう伝えて来ていた。
マイレイの妖艶な唇が、心なしか小さく微笑する。
ふくよかな胸元で静かに揺れる、優美な銀色の髪。
しなやかな手首に填められ封魔の手械が、その綺麗な白い肌に赤い痣を作り上げていた。
痛々しいその手を握りながら、マイレイの弟子である見習魔法使いの少女ディーテルが、ひどく不安そうに、赤銀の大きな瞳で彼女の美麗で秀麗な顔を見つめている。
「お師匠様・・・・私達は、これから、どうなるのでしょう・・・・?」
「案ずるなディーテル・・・・・リタ・メタリカの地に入れば、必ずや、また自由の身に戻れる・・・・」
マイレイは、銀水晶の瞳をどこか誇らし気に細めて、真っ直ぐに、不安気に眉を潜めるディーテルの顔を顧みた。
重き宿命を背負った者が、必ずや、彼女と、そして、サングダ―ルの愚かな王に囚われた弟子達を救ってくれるはず・・・・
それは、理由の無い確信であった。
太陽が放つ金色の光の矢の中に、内海アスハ―ナの白い波飛沫が、きらきらと輝きながら舞い踊っている。
深い藍色の海面が大きく揺らぎ、轟く海鳴りが、吹き付ける強い風の最中に響き渡っていく。
泡沫の鏡の如く輝く海原が、今、大きく波打った。
嵐が過ぎ、よく凪いだこの海原の先には、やがて、混迷と混乱に騒然とする、大国リタ・メタリカの大地が見えてくるだろう・・・・
アーシェの者よ・・・・・それ故に、悲しく過酷な運命を背負いし者よ・・・・
そなたのその強い眼差しを、再び、この目に出来ると思うと・・・
私は、嬉しくて仕方ないのだ・・・・・
その名を棄てし者よ・・・・
「神る大陸の物語」【月闇の戦記】第三章 ~End~
遍く天空が、紺碧色に輝いている。
金色の太陽が照らし出す、久方ぶりに凪いだ内海アスハ―ナの海原を、おびただしい数の戦艦隊が、打ち寄せる漣を
切り裂きながら、東に向けて進路を取っている。
その船団の只中にある一隻の武装戦艦の中に、北方の小国カシタ―シュ公国から、捕虜として連行されてきた美しい女魔法使いの姿があった。
船体に波を受け、緩やかに揺れるその船室の中で、クスティリン族の美しき魔法使いのは、銀水晶のような綺麗な瞳を心なしか伏せがちにして、狭い窓から、切り裂かれる白い波飛沫を、ただ黙って見つめやっていた。
その秀麗な頬に緑銀の特殊な塗料で描かれた、竜の翼のモチーフ。
そこにかかった優美な銀色の髪束が、船体が揺れるたびに、静かに、その透き通るような白い肌を撫でる。
この戦艦隊は、サングダ―ル王国軍の武装船団であり、これから、総数8万もの兵士達を連れ、魔物達の来襲を受ける大国リタ・メタメタリカに攻め上っていく。
船室の外で悲鳴を上げる海風に、風の精霊達の警告の声が混じっていることを、クスティリン族の魔法使いの長、マイレイ・カーラ・デルーソフは知っていた。
強者たちが、この海の向こうにある広大な地で、侵略者の率いる船団を待っている・・・・
風は、確かにそう伝えて来ていた。
マイレイの妖艶な唇が、心なしか小さく微笑する。
ふくよかな胸元で静かに揺れる、優美な銀色の髪。
しなやかな手首に填められ封魔の手械が、その綺麗な白い肌に赤い痣を作り上げていた。
痛々しいその手を握りながら、マイレイの弟子である見習魔法使いの少女ディーテルが、ひどく不安そうに、赤銀の大きな瞳で彼女の美麗で秀麗な顔を見つめている。
「お師匠様・・・・私達は、これから、どうなるのでしょう・・・・?」
「案ずるなディーテル・・・・・リタ・メタリカの地に入れば、必ずや、また自由の身に戻れる・・・・」
マイレイは、銀水晶の瞳をどこか誇らし気に細めて、真っ直ぐに、不安気に眉を潜めるディーテルの顔を顧みた。
重き宿命を背負った者が、必ずや、彼女と、そして、サングダ―ルの愚かな王に囚われた弟子達を救ってくれるはず・・・・
それは、理由の無い確信であった。
太陽が放つ金色の光の矢の中に、内海アスハ―ナの白い波飛沫が、きらきらと輝きながら舞い踊っている。
深い藍色の海面が大きく揺らぎ、轟く海鳴りが、吹き付ける強い風の最中に響き渡っていく。
泡沫の鏡の如く輝く海原が、今、大きく波打った。
嵐が過ぎ、よく凪いだこの海原の先には、やがて、混迷と混乱に騒然とする、大国リタ・メタリカの大地が見えてくるだろう・・・・
アーシェの者よ・・・・・それ故に、悲しく過酷な運命を背負いし者よ・・・・
そなたのその強い眼差しを、再び、この目に出来ると思うと・・・
私は、嬉しくて仕方ないのだ・・・・・
その名を棄てし者よ・・・・
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