神在(いず)る大陸の物語~月闇の戦記~【第三章】

坂田 零

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終節 時を告げる三日月 17

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暗黒の闇の中に浮かび上がる朽ち果てた箱庭に、深緑のローブが揺れる。
かつては、美しい水を湛えて水鏡のように煌いていただろう、枯渇した泉の辺に立って、得体の知れぬその青年は、頭からすっぽりと被ったローブの下で、ふと、紫電の走る漆黒の天空を見上げたのだった。

吹き荒ぶ激しい風が、『死人使い』という忌むべき通称で呼ばれる者の衣を、激しく虚空に棚引かせている。

かつて・・・・

此処で、魔王と呼ばれた者は、アーシェの一族でありながら、その体の半分にロータス一族の血をも宿した者に向かって、感情を押し殺したような強い口調でこう言い放った。

『そなたなら使いこなせる筈だ、これを持ってオルトランの元へ行け!
そなたは、この私と共に来るべき者ではない!』

眼前に鞘ごと差し出されたのは、妖の剣と呼ばれる金色の大剣、『告死の剣(アクトレイドス)』その名をとも『勇者の剣(ファルーカイス)』とも呼ばれる、強力な魔力を持った魔剣である。

その剣を眼前にして、アーシェの血とロータスの血を併せ持つその青年は、戸惑いを隠せないまま、魔眼と呼ばれるその色違いの瞳で、まっすぐに、本来のこの剣の持ち主、ラグナ・ゼラキエル・アーシェの端正な顔を見つめすえたのだった。

一族の掟を破り、二つの一族の垣根を越えて愛し合った者達の間に生まれた、二つの一族にとっての忌み子である、魔眼の青年。
その精悍にして繊細な顔を、にわかに悲痛の表情にして、彼は、主君である者に向かって叫ぶように言ったのである。

『何故・・・何故!?私は、貴方と行ってはならないのですか!?ゼル!!』

『それは、そなたが一番良く知っていよう・・・・エスターシアを思うなら、そなたが、その剣で、反逆者たるこの私の首を討ち取って見せろ!イングレー!!』

恐ろしい程の美しさを持つ魔王の緑玉の両眼が、静かだが激しく、それこそ燃え盛る炎の如き眼差しで、彼の魔眼を直視していた。

魔王の手から金色の妖剣『告死の剣(アクトレイドス)』を受け取ったその者の名は、イグレシオ・ローティシヤ・アーシェ・・・・・

イングレーとは、そんな彼のかつての愛称であった名だ・・・・

400年前、本来は、ラグナ・ゼラキエル・アーシェの重臣であった彼は、リタ・メタリカの王女エスターシアを愛し、あの戦の折、魔王の弟オルトランと共にリタ・メタリカに荷担した。

リタ・メタリカの伝承では、魔王を討ち取った者でありながら、何者かの策略で斬首されたとされ、その死を嘆き悲しんだ王女エスターシアは、彼の首をに抱き、ひなげしの花となった・・・・今尚、多くの吟遊詩人やジプシーの間でそう語り継がれている、悲劇の英雄イグレシオ。

そして今は・・・・

悲哀の墓守(リドガー・テレス)と呼ばれる者・・・・
激しい風にあおられた深緑のローブが、音もなくその広い肩へとこぼれ落ちる。

暗黒の闇に乱舞する、その長く艶やな赤銅色の髪。
その下にある、精悍にして繊細な美青年とも言うべき顔立ちと、魔眼と呼ばれる色違いのその瞳。

右の瞳は澄み渡る銀水色、左の瞳は異形と呼ばれる緑玉の瞳。
不思議な雰囲気を醸し出すその眼差しが、ひどく悲し気に輝きながら、今、暗黒の闇を見つめすえている。

この箱庭に・・・いや、この『幻の城(ロイヤー・カークス)』に、400年前の姿のまま、何故、彼がこうして在るのか・・・・

その理由を知る者は、まもなく、その全てを携えて目覚めるだろう、真実の魔王しかいない・・・・・・

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