青女と8人のシュヴァリエ

りくあ

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第1章:黒髪の少女

第2話

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「さぁ。聞かせてもらうか?ヴィーズ。」
「僕もお腹空いたんだけどなぁ。食事の後じゃタメ?」
「ダメだ。今すぐ話せ。」
「もー…わかったよー。話せばいいんでしょ?話せば。」

白髪の青年は、私を見つけた時の事を話し始めた。
海辺で倒れている私を発見した彼は、街にある病院と呼ばれる建物に運び込んだ。そこで怪我の治療を受けたが意識は戻らず、眠ったままの私をこの場所へ連れ帰ったと言う。

「なぜ病院に置いて来なかった。意識が戻るまでは、預けて置くべきだっただろう。」
「意識は無いけど、身体自体は健康そのものだったんだ。軽い切り傷を治したら、後は家に帰って寝てろって追い返されちゃって…。父さんにアスールちゃんの面倒が見れるとも思えないし、ここに連れて来るしか無かったんだよ。…あ!ユーくんの家に連れて行けば良かった?」
「はぁ…経緯は分かった。次はお前に聞こう、アスール。意識が無くなる前の事を、どこまで覚えている?」

1番初めに目にしたのは、白い天井だった。意識が無くなる前どころか、意識を失った事すらよく覚えていない。

「…分からない。」
「何が分からない?」

何が分からないのか、それすらも分からない。

「…何も。」

アスールという名前が本当に自分の名前なのかすら、今の私には分からなかった。

「団長…。これって、記憶喪失って奴じゃ…」
「名前以外は何も覚えていないと言うのか?随分都合の良い記憶喪失だな。」
「あ、彼女の名前は僕が勝手に付けたよ?」
「え!?この子が名乗った訳じゃ無いの!?」
「だって、病院で見てもらう為には名前が無いと不審に思われるでしょ?今日は制服を着て無かったし。」
「さっきローゼも言っとったけど、なんでアスールって名前にしたん?青が…どうとか…」
「彼女の髪が、青色に見えたからだよ。光の加減かな…?綺麗な青だったから、アスールって名前がピッタリだと思ってね。」
「名前なんてなんでもいいだろ。こいつもどうせ覚えてねぇんだし。」
「家族や兄弟は?住んでいた家や、国の名前も分からないか?」

彼の問いに、返す言葉が見当たら無い。

「どうやら…何も覚えていないようですね…。」
「ならば、明日になったら役所へ行こう。捜索願いが出ているかもしれない。」
「そうだね。とりあえず、今日は僕の部屋で寝てもら…」
「嫌いな人の部屋で、大人しく寝てくれるかな?」
「き、嫌いとは限らないでしょ?それに、さっきまでは僕の部屋に寝てたんだよ?」
「それは意識が無かった時の話でしょ?僕だったら、触られたくない相手の部屋で寝たくはないなぁ。」
「整備士の部屋に寝るのが1番じゃないか?懐いているようだし。」
「えーやだよ!なんで僕が一緒に寝なきゃならないの!?寝る時くらい1人にさせてよ!」
「ちょっと待て。何の話だ?」
「それがさぁ…。何でか分からないけど、僕が触れようとするとアスールちゃんが…」
「説明するより見てもらった方が早いよ。はい。握ってみて。」

言われた通り、差し出された女性の手を握りしめる。

「アスールちゃん。僕の手も握って?」

目の前に、白髪の青年の手が差し出された。私はそれをぼんやりと眺める。
こちらに向かって伸びてくる彼の手に、思わず身を引き、椅子から飛び降りた。

「この子、僕とグリさんに触れられるのは平気だったんだけど、ヴィーズに触れられるのは嫌がるんだ。」
「なんでやろね?ルスケアとジンガは試しとらんの?」
「うん…。まだ試して無いよ。」
「俺もだ。」
「ほんなら、自己紹介しながら握手してみればええんちゃう?俺は、アルトゥン・ラークスパー。短い間やろうけど、仲良くしたってな!」

金髪の青年がこちらへ歩み寄り、私に向かって手を差し出す。彼は頭の後ろで髪の毛をまとめ、前髪の一部が黒く染まっている。

「…アルト?」
「なんか絶妙に違うけど…ま、ええか!」
「触りたくは…無いみたいだけどね。」
「うーん…。仲良くなるには、まだまだ時間が必要みたいやな…。」
「じゃあ、次は私が…。私はルスケア・コデマリ。よろしくねアスール。」

背の高い青年が私の前でしゃがみ込み、紫色の瞳がこちらを真っ直ぐ見つめた。 
彼の髪は、頭頂部が茶色で毛先がほんのり赤みを帯びている。先程は、髪全体が太陽のような赤色に見えたが、どうやら気のせいだったらしい。
手を伸ばし、差し出された手を握りしめる。

「わっ…!握ってくれた…!」
「…ルスキャ。」
「名前は間違っとるみたいやけどね~。」
「何それ?自分は握って貰えなかったひがみー?」
「べ、別にひがんどらんし…!」
「いいからお前もさっさと名乗れ。」
「あ、そっか。僕もまだ名乗って無かったっけ...。僕はローゼ・トレニアだよ。よろしく。」

彼女は桃色の長い髪が特徴的で、覚えやすい。

「俺はグリ・クフェア。グリでいい。」

差し出された彼の手を握り、顔を見上げた。彼の前髪は頭頂部へ持ち上げられていて、下から眺めても茶色の瞳がよく見える。

「調理師が子供と手を繋ぐ姿は新鮮だな。」
「繋いだ訳じゃねぇ。握手だ。」
「俺はジンガ。ジンガ・エリカだ。」

彼は無表情のまま、私に向かって手を差し伸べた。彼の髪は、先程外で会った時と変わらず、陽の光と同じ橙色をしている。

「...俺の手は握りたくないらしい。」
「そ、そんなに落ち込まなくても...。」
「え...落ち込んどるん?これで?」
「後は俺とヴィーズだな。騎士団長のユオダス・ノースポールだ。お前の身は、我々騎士団が責任を持って守ると誓おう。」

赤色の瞳の青年が私の前に立ち、胸に手を当てて背筋を伸ばした。髪は私と同じ黒色で、金髪の青年と同じ位置で髪を結っている。

「ちょっとユーくん。それじゃああまりにも硬すぎるよ~。僕はヴィーズ・グロキシニア。一応副団長だけど...気軽に何でも言ってね。」

白髪の青年が私の前にしゃがみこみ、目を細めた。

「まずは気軽に触ってもらえるとええね。」
「はぁ...。こんなに親切な男は、中々居ないと思うんだけどなぁ。」
「親切さで判断している訳では無さそうだな。この中で触れたのは、ルスケア、ローゼ、グリの3人か。」
「3人の共通点か~...なんやろうね?」

金髪の青年が首を傾げるのに合わせ、私も首を傾げる。

「ルスケア。お前には何か分かるか?」
「いえ...。私にもさっぱり分かりません...。」
「...そうか。」
「あ、団長。そろそろ戻らんと...。」
「そうだな。この話の続きは、また明日しよう。後の事は3人に任せる。」
「えー。そこは僕に任せてよー。」

すると、赤色の瞳の青年と金髪の青年が背を向けて部屋から出て行った。

「こうなったら...意地でも仲良くなって見返してやる...。」
「ヴィーズさん...何をムキになってるの?」
「付き合ってられねぇ...。俺はガキの世話なんてしねぇからな?」
「ちょっと...!ユオダスさんが、3人に任せるって言ってたじゃん!」

女性の静止を振り切り、灰髪の青年は奥の部屋へと立ち去って行った。

「俺は役に立てそうに無いな。部屋に戻らせてもらう。」

彼の後に続き、橙髪の青年も部屋を後にした。

「もー!みんなしてずるい!僕だって部屋で休みたいのにー!」
「ローゼくん。後の事は私とヴィーズ様で何とかするから…君も部屋に戻って良いよ。」
「え、本当!?やったー!ありがとうルスケアさん!」

勢いよく椅子から立ち上がり、女性は茶髪の青年の手を握りしめた。

「じゃあアスール。また明日ね!」

大きく手を振りながら、元気よく部屋を飛び出して行く。そんな彼女を見送ると、今度は茶髪の青年が私に向かって手を伸ばした。

「ヴィーズ様、まずはビオレータさんにも会わせてみたらどうでしょうか?」
「そうだね。博識なビオくんなら、何か分かるかも。」
「行こうアスールくん。」

手を握り、彼等と共に部屋を出た。
先程まで明るかった窓の外はすっかり暗くなり、窓の外の景色が見えなくなっていた。

「アスールちゃん、暗いのは平気そうだね。」

陽の光が入らなくなった影響で廊下は暗くなり、先の見通しが悪くなっている。しかし、歩く度に足元が明るくなるお陰で、先へ進むのに支障は無いようだ。

「怖がっている様子はありません。ただ...。」
「ただ?」
「それ以外の感情が、何も感じられません。ジンガくんと同じ...いえ、それ以上に酷いです。」
「ただの記憶喪失って訳でも無さそうだね。...家族が見つかれば良いけど。」
「感情が無いと言うのも、善し悪しですね...。これ程までに僕の能力が役に立たない相手は、彼女が初めてです。」
「相手の感情が読み取れるって言うのも、善し悪しだよね。ローくんが早く開放されたいって気持ちは、僕でも分かるくらいだったよ。」
「ヴィーズ様まで巻き込んでしまい、申し訳ありません...。」
「ううん。むしろ大歓迎。アスールちゃんの事を連れてきたのは僕だし、最後まで責任を持って面倒を見るよ。」

私達がやって来たのは、ほんのり明かりがついた薄暗い部屋だった。先程の部屋と同じくらいの大きさで、奥の方に空間が広がっているのが分かる。

「アスールくん。足元に本があるかもしれないから、気をつけて歩いてね。」

足元に視線を落とすと、膝ほどの高さまで本が積み上げられていた。木枠の中にも本が並べられていて、広いはずの部屋がものすごく狭く感じる。

「この間掃除したばっかりなんだけどなぁ...。おーい。ビオくーん。居るー?」
「...ーい。...まーす。」

遠くの方から、微かに声が聞こえて来る。

「居るみたいだね。行こうアスールちゃん。」

足元に注意しながら、声のした方へと歩き出した。
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