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第9章︰エーリ学院〜中級クラス〜【後編】
第74話
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「今日の実習楽しみだね。」
「だね!」
エーリの門の前には、上級吸血鬼と中級吸血鬼が集まり、用意された台の上に学院長のクレア様が立った。
「皆さん集まりましたかな?えー…本日は、上級吸血鬼1名と中級吸血鬼4名でグループを作り、課題に取り組んでもらいます。課題内容は、上級吸血鬼の皆さんに既に伝えてありー…」
「課題ってなんだろうね?」
「昨日ユノに聞いたけど、上級クラスは学院要請っていう依頼を実習で行うらしいわ。それをあたし達中級クラスも体験して、勉強するのが目的みたいね。」
「上級吸血鬼は、判断力とかグループをまとめる力とかを育てる為にやるって聞いた事があるよ。」
「へ~。」
クレア様の話が終わると、生徒達がバラけ始めてグループを作り出した。
「私達のグループ分けはどうしましょうか~?2組に別れるのはいいけど、7人だと1人誘わないといけないわよね?」
「せやな~。俺は2人以外、知り合いおらんし…。」
「そんなのあたしだってそうよ。」
「ど、どうしよっか…?」
「俺、他の人に話してみるよ。」
タックは私達の元を離れると、次々と生徒達に声をかけ始めた。
「残りの1人を待つ間、グループを組んでくれる上級吸血鬼の人を探す?」
「それならもう、昨日の内に話をつけておいたわよ。」
「やぁみんな。ご機嫌いかがかな?」
私達のグループの元に、ローブを身にまとったユーリさんとユノさんがやって来た。
「ユーリさん!ユノさん!」
「みんな…久しぶり。」
「ユノ先輩はユイの妹やからわかるけど、なんでユーリ先輩が…」
「ユノからのお誘いさ。レディーからの誘いを断るなんて、出来ないだろう?」
「は、はぁ…。」
「ところで…タクトの姿が見えないけど、彼はどこへ行ったんだい?」
「タックなら今、足りない1人を探しに…」
「みんなおまたせ~。」
戻って来た彼の後から、眼鏡をかけた少年がゆっくりと歩み寄って来た。
「あ、見つかったんだね!」
「うん!彼は、ツーヴェイニールくん。1人だったみたいだから誘ったんだ。」
「え…?ツーくん…?」
「……ラ、ララ…さん。」
ツーヴェイニールという名前の少年の口から、ララの名前が発せられた。
「え?知り合い?」
「うん…!ツーくんは、私の幼なじみなの!会うのは久しぶり…だよね…!」
「そう…ですね。」
「エーリに入ってたなんて知らなかったなぁ…。同じクラスだったのに全然気づかなかった…。どうして声かけてくれなかったの?」
「そ、そんな話は今必要なのですか?僕は、タクトさんに声をかけられて来ただけです。昔話をしに来た訳じゃありません。」
彼は彼女と目を合わせること無く、淡々とした口調で話し始めた。
「そ、そうだよね…!ごめん…。」
「と、とりあえず、2手に分かれようか!」
「俺らはユイとタックとレミリーでえんちゃう?」
「あら。なんだかついでみたいで寂しいわね~。」
「そ、そんな事ないで!?」
「あたしはユノと一緒に組みたいわ。」
「なら、僕達はユーリさんとだね。」
「よ、よろしくね…ツーくん。」
「…ええ。」
ユノさんがリーダーとなるグループは、ユイ、アレク、タック、レミリーの5人となった。ユーリさんがリーダーとなるグループに、私、ララ、フランに加え、ツーヴェイニールという名前の少年が加わり、私達は2組のグループを作った。
「ユーリさん。私達の課題って、どんなのなんですか?」
「そういえばまだ話してなかったね。休憩がてら、ちょっと座って話をするとしようか。」
歩いていた森の中で足を止め、草の上に座って休憩をする事になった。
「この、エーリの裏の森を抜けた先が崖になっているのだけど、最近そこに橋がかけられてその先に街道が出来たんだよね。」
「森の先に道が出来たんですね…!知らなかったなぁ…。」
「僕達、その街道を通ってどこか行くんですか?」
「ううん。その街道を通れるようにする事が、僕達の課題なんだよ。」
「街道が出来たのに通れないの?どうして?」
「まあまあ…落ち着きなよ。時間はたっぷりあるんだしさ。せっかくだから楽しまないとね。」
「そんなにのんびりしていたら、日が暮れてしまいそうですが…。」
「なら…続きは歩きながらにしよっか。ツーくんに怒られちゃいそうだ。」
「そ、その呼び方で呼ばないで下さい…!」
再び移動を始めてしばらく歩き進めると、森の出口にたどり着いた。彼の話ではこの先に橋があり、街道が伸びているはずなのだが、私達の目の前には大きな土砂が山のように積み重なって道を塞いでいた。
「こ、これが、ユーリさんの話してた土砂…ですか?」
「うん。この間の雨で山が崩れて、道を塞いじゃったんだ。これは…予想以上に酷いね。いやぁ…困った困った。」
「そんな呑気な…。」
「これだけの量を運んでたら…3日じゃ終わらないかも…。」
「馬鹿正直に運ぶ必要はありませんよ。風で飛ばすか、水で流すかしてしまえばいいのではないですか?」
「僕もそれがいいんじゃないかなって考えていたのさ。けど、この量は1人じゃさすがに厳しいと思うんだよね~。って事で…この中で、風か水の属性を使える子はいるかな?」
「わ、私出来ます!」
「僕も出来ますよ。」
私とツーくんが揃って右の手を挙げた。
「なら…僕、ツーくん、ルナの順番で1人ずつ魔法を使って土砂を片付けよう。魔力が消耗してきたら交代ね。」
「わかりました。」
「僕達は何をしたらいい?」
「今日はここで野宿をする事になるだろうから、テントを設営してくれる?あと、怪我をした時の為の薬草と…飲水の確保もお願いしようかな。」
「は、はい!」
「じゃあ…始めようか。」
「“血の盟約は互いの友好の証。我が血を糧とし力に変え、我が意思に従え。…ヴァン”」
さすが上級吸血鬼だけあって、威力の強さが目に見える程だった。上の方の大きな岩を吹き飛ばし、砂を巻き上げて土砂を減らしている。かれこれ10分ほどこれを繰り返しているが、彼は休まず魔法を発動している。
「凄いなぁ…ユーリさん。」
「当たり前ですよ。上級吸血鬼なのですから。」
「そ、そうかな…?」
彼が魔法を発動している間、私達は少し離れた所にある木の下に座って待機していた。
「あなたは、風と水のどちらをやるんですか?」
「どっちも出来るよ。ただ…上の方に水かけちゃったら、重くなって飛ばしにくくなるかもしれないから…最初の方は風にした方がいいかなって思ってるけど…。」
「同感ですね。水で流せばいいとは言いましたが、あの高さまで飛ばすとなると余計に魔力を消耗しそうですし。」
「えっと…ツーくんは…」
「…。」
彼の名前を呼んだ途端、彼はあからさまに嫌そうな顔をしてこちらを睨みつけていた。
「じゃなくて…ツ、ツー…ツヴェルくんは、風と水どっちが得意?」
「ざ、斬新な名前の付け方ですね…。」
「名前をつけたっていうか…愛称かな!結構、いい感じだと思うんだけ…」
「あ、ユーリさんが戻って来ました。次は僕でしたね。」
「あっ…。」
彼はその場に立ち上がった。
「…くん付けでなければ、その愛称とやらで呼ぶ事を許可します。」
目も合わせずにそう言い残すと、彼は歩き出してユーリさんと交代で土砂の前へ向かっていった。
「ふへぇ…。思った以上に手強いねあの土砂。」
ユーリさんは疲れた様子で隣に腰を下ろすと、手を後ろについて天を仰いだ。
「お、お疲れ様です…。でも、やっぱり凄いですね…!あんなに高威力で長時間発動出来るなんて!」
「魔法はひたすら反復練習だからね。僕は風しか扱えないけど、その分威力も美しさも兼ね備えているのさ。」
「た、確かに美しかった…デス。」
「君の美しい風魔法も期待しているよ。」
「は、はい!頑張りま…」
「“……意思に従え。…トルメンタ!”」
ツヴェルが発動した魔法は、彼が手に持っている杖のような棒から放たれ、岩を切り刻んで粉々にし、砂と共に吹き飛ばしてしまった。
「おおー。ツーくん凄いねぇ。彼の武器は杖みたいだし、これは活躍が期待出来そうだよ。」
「す、凄い…。」
「ユーリさん…!」
私達の後ろからララがやってくると、彼女は水の入った小さめのタンクとコップを手にしていた。
「これ、飲み水です!ここに1つ置いておきますね。」
「ありがとう。助かるよ~。」
「すごいねララ。いつの間にか魔法も上達してるじゃん!」
「えへへ…。ルナちゃんのおかげだよ。」
「無理しないで、休み休みでいいからね?日が暮れるまでに出来てれば充分だから。」
「わ、わかりました!ルナちゃんも頑張ってね。」
「ありがとうララ!」
「…お話は終わりましたか?」
「ぅわあ!?」
彼女の背中を見送っていると、後ろの方から突然声をかけられて思わず声を上げてしまった。
「そ…そんなに驚かなくても…。」
「ご、ごめんごめん。次は私だよね。」
「大きめの魔法の方が進みが早いと思ったんですが…。やはり、持続はしませんね。すみません。」
「そんな事ないよ!3人で少しづつ頑張ろ!」
「よろしくお願いします。」
「うん!任せて!」
いざ土砂を目の前にすると、その大きさに思わず唾を飲み込んだ。
「結構高さあるなぁ…。まぁ…やるしかないよね…。“血の盟約は互いの友好の証。我が血を糧とし力に変え、我が意思に従え。トルメンタ!”」
ツヴェルと同じ大きめの風魔法を発動し、上にある大きな岩を切り刻む。風でそれらを吹き飛ばして、土砂の上の方を少しだけ削った。こうして魔法と交代を繰り返しながら、土砂を崩す作業は日が暮れるまで続けられた。
「ひとまず1日目お疲れ様。」
「お疲れ様でした!」
すっかり日が落ち、森の中の開けた場所で焚き火を行い、暖をとっていた。
「なんだかんだ言って半分くらいまで減ったね。いいペースだと思うよ。」
「私も魔法で手伝えたらよかったのに…。」
「大丈夫だよ!ララは、別の所で力になってくれてるもん。」
「そうだよララちゃん。僕達は僕達で出来る事を頑張ろう?」
「う、うん…。」
「…。」
落ち込んでいるララを励ましている私とフランの姿を見たツヴェルは、なんとも言えない表情をしていた。
ララとフランが用意した2つのテントに、男女で別れて朝まで休息をとる事となった。フランはまだ眠くないのか、私達のテントに来てララと話をしている。
「僕達も、ちょっとは魔法を使って削れないものかな?風や水じゃなくても、出来そうな気がするんだよね。」
「闇属性の魔法とか?うーん…どうだろう…。」
「ちょっとやってみようよ。ルナちゃんも行く?」
「じゃあ…見るだけ見ようかな!」
彼の提案により、こっそりテントを抜け出して土砂の前へやって来た。すると、そこには既に人影があり、ツヴェルが何かをしている様子だった。
「あれ?ツヴェル~。どうしたのー?」
「…!な、なんだ…あなた達ですか…。」
「ツーくん、何してるの?」
「…少しでも削れればいいと思って試してたんですよ。」
「まだ魔法を使ってるの?無理しない方が…」
「誰が魔法と言いましたか?僕はこれを使っていたんです。」
彼の手には、魔法を使用する時に使っていた杖が握られていた。
「杖?やっぱり魔法じゃ…」
「魔法ではないと先程もいいましたよね?…説明するより見た方が早いでしょうから、やってみせますよ。」
すると彼は土砂の方を向き、手から杖を離した。杖は地面に落ちること無くその場に浮き、彼の手の動きに合わせて土砂の上の方に移動していった。
「え!浮いてる!?どうやって動かしてるの?」
「“ミシク”ですよ。」
「“ミシク”って…離れた物を移動させる血の魔法?」
「そういえば僕達も下級クラスの時やった事あるよね。…あの時は出来なかったけど。」
「それで…杖で一体何をするの?」
「叩いて砕きます。」
「へ?」
彼は伸ばした手を下に振り下ろすと、杖が連動するようにして動き、巨大な岩を叩き始めた。何度も何度も杖が叩きつけられ、やがて大きな岩は砕け散った。
「も、ものすごい破壊力だね…。」
「あんなに強く叩いても杖は壊れないんだね。僕の剣なんか、床に落ちただけでも砕けちゃうのに。」
「頑丈に作っているので、このくらいでは壊れません。」
「へ~。杖ってそんな使い方も出来るんだなぁ…。」
「で、でもツーくん…。血だってあんまり使わない方がいいんじゃ…。」
「寝たら少しは回復します。寝る前に少しくらい使っておこうかと思っただけですよ。」
「で、でもほら…!明日もあるんだし、無理は…」
「…昔から変わらないですね。」
「えっ…?」
「僕はあなたのそういう所が嫌いなんですよ。」
「…!」
「ツヴェル…!なんでそんな…」
「…なんですか?好き嫌いは誰しもありますよね?それとも好きだと嘘をついて、仲良くするフリでもしておいた方がよかったですか?」
「それは…。」
「僕は勉強としてここに来たんです。あなた達と仲良くなる気はありません。」
彼は吐き捨てるようにそう言うと、テントのある方向へ歩いていってしまった。
「ツーくん…。」
「ララちゃん。気にする事ないよ。」
「ごめん2人共…。私、先にテント戻るね…。」
「わ、私も戻るよ!フランも一緒に戻ろう?」
「そうだね。また明日もあるし。」
「…うん。」
「だね!」
エーリの門の前には、上級吸血鬼と中級吸血鬼が集まり、用意された台の上に学院長のクレア様が立った。
「皆さん集まりましたかな?えー…本日は、上級吸血鬼1名と中級吸血鬼4名でグループを作り、課題に取り組んでもらいます。課題内容は、上級吸血鬼の皆さんに既に伝えてありー…」
「課題ってなんだろうね?」
「昨日ユノに聞いたけど、上級クラスは学院要請っていう依頼を実習で行うらしいわ。それをあたし達中級クラスも体験して、勉強するのが目的みたいね。」
「上級吸血鬼は、判断力とかグループをまとめる力とかを育てる為にやるって聞いた事があるよ。」
「へ~。」
クレア様の話が終わると、生徒達がバラけ始めてグループを作り出した。
「私達のグループ分けはどうしましょうか~?2組に別れるのはいいけど、7人だと1人誘わないといけないわよね?」
「せやな~。俺は2人以外、知り合いおらんし…。」
「そんなのあたしだってそうよ。」
「ど、どうしよっか…?」
「俺、他の人に話してみるよ。」
タックは私達の元を離れると、次々と生徒達に声をかけ始めた。
「残りの1人を待つ間、グループを組んでくれる上級吸血鬼の人を探す?」
「それならもう、昨日の内に話をつけておいたわよ。」
「やぁみんな。ご機嫌いかがかな?」
私達のグループの元に、ローブを身にまとったユーリさんとユノさんがやって来た。
「ユーリさん!ユノさん!」
「みんな…久しぶり。」
「ユノ先輩はユイの妹やからわかるけど、なんでユーリ先輩が…」
「ユノからのお誘いさ。レディーからの誘いを断るなんて、出来ないだろう?」
「は、はぁ…。」
「ところで…タクトの姿が見えないけど、彼はどこへ行ったんだい?」
「タックなら今、足りない1人を探しに…」
「みんなおまたせ~。」
戻って来た彼の後から、眼鏡をかけた少年がゆっくりと歩み寄って来た。
「あ、見つかったんだね!」
「うん!彼は、ツーヴェイニールくん。1人だったみたいだから誘ったんだ。」
「え…?ツーくん…?」
「……ラ、ララ…さん。」
ツーヴェイニールという名前の少年の口から、ララの名前が発せられた。
「え?知り合い?」
「うん…!ツーくんは、私の幼なじみなの!会うのは久しぶり…だよね…!」
「そう…ですね。」
「エーリに入ってたなんて知らなかったなぁ…。同じクラスだったのに全然気づかなかった…。どうして声かけてくれなかったの?」
「そ、そんな話は今必要なのですか?僕は、タクトさんに声をかけられて来ただけです。昔話をしに来た訳じゃありません。」
彼は彼女と目を合わせること無く、淡々とした口調で話し始めた。
「そ、そうだよね…!ごめん…。」
「と、とりあえず、2手に分かれようか!」
「俺らはユイとタックとレミリーでえんちゃう?」
「あら。なんだかついでみたいで寂しいわね~。」
「そ、そんな事ないで!?」
「あたしはユノと一緒に組みたいわ。」
「なら、僕達はユーリさんとだね。」
「よ、よろしくね…ツーくん。」
「…ええ。」
ユノさんがリーダーとなるグループは、ユイ、アレク、タック、レミリーの5人となった。ユーリさんがリーダーとなるグループに、私、ララ、フランに加え、ツーヴェイニールという名前の少年が加わり、私達は2組のグループを作った。
「ユーリさん。私達の課題って、どんなのなんですか?」
「そういえばまだ話してなかったね。休憩がてら、ちょっと座って話をするとしようか。」
歩いていた森の中で足を止め、草の上に座って休憩をする事になった。
「この、エーリの裏の森を抜けた先が崖になっているのだけど、最近そこに橋がかけられてその先に街道が出来たんだよね。」
「森の先に道が出来たんですね…!知らなかったなぁ…。」
「僕達、その街道を通ってどこか行くんですか?」
「ううん。その街道を通れるようにする事が、僕達の課題なんだよ。」
「街道が出来たのに通れないの?どうして?」
「まあまあ…落ち着きなよ。時間はたっぷりあるんだしさ。せっかくだから楽しまないとね。」
「そんなにのんびりしていたら、日が暮れてしまいそうですが…。」
「なら…続きは歩きながらにしよっか。ツーくんに怒られちゃいそうだ。」
「そ、その呼び方で呼ばないで下さい…!」
再び移動を始めてしばらく歩き進めると、森の出口にたどり着いた。彼の話ではこの先に橋があり、街道が伸びているはずなのだが、私達の目の前には大きな土砂が山のように積み重なって道を塞いでいた。
「こ、これが、ユーリさんの話してた土砂…ですか?」
「うん。この間の雨で山が崩れて、道を塞いじゃったんだ。これは…予想以上に酷いね。いやぁ…困った困った。」
「そんな呑気な…。」
「これだけの量を運んでたら…3日じゃ終わらないかも…。」
「馬鹿正直に運ぶ必要はありませんよ。風で飛ばすか、水で流すかしてしまえばいいのではないですか?」
「僕もそれがいいんじゃないかなって考えていたのさ。けど、この量は1人じゃさすがに厳しいと思うんだよね~。って事で…この中で、風か水の属性を使える子はいるかな?」
「わ、私出来ます!」
「僕も出来ますよ。」
私とツーくんが揃って右の手を挙げた。
「なら…僕、ツーくん、ルナの順番で1人ずつ魔法を使って土砂を片付けよう。魔力が消耗してきたら交代ね。」
「わかりました。」
「僕達は何をしたらいい?」
「今日はここで野宿をする事になるだろうから、テントを設営してくれる?あと、怪我をした時の為の薬草と…飲水の確保もお願いしようかな。」
「は、はい!」
「じゃあ…始めようか。」
「“血の盟約は互いの友好の証。我が血を糧とし力に変え、我が意思に従え。…ヴァン”」
さすが上級吸血鬼だけあって、威力の強さが目に見える程だった。上の方の大きな岩を吹き飛ばし、砂を巻き上げて土砂を減らしている。かれこれ10分ほどこれを繰り返しているが、彼は休まず魔法を発動している。
「凄いなぁ…ユーリさん。」
「当たり前ですよ。上級吸血鬼なのですから。」
「そ、そうかな…?」
彼が魔法を発動している間、私達は少し離れた所にある木の下に座って待機していた。
「あなたは、風と水のどちらをやるんですか?」
「どっちも出来るよ。ただ…上の方に水かけちゃったら、重くなって飛ばしにくくなるかもしれないから…最初の方は風にした方がいいかなって思ってるけど…。」
「同感ですね。水で流せばいいとは言いましたが、あの高さまで飛ばすとなると余計に魔力を消耗しそうですし。」
「えっと…ツーくんは…」
「…。」
彼の名前を呼んだ途端、彼はあからさまに嫌そうな顔をしてこちらを睨みつけていた。
「じゃなくて…ツ、ツー…ツヴェルくんは、風と水どっちが得意?」
「ざ、斬新な名前の付け方ですね…。」
「名前をつけたっていうか…愛称かな!結構、いい感じだと思うんだけ…」
「あ、ユーリさんが戻って来ました。次は僕でしたね。」
「あっ…。」
彼はその場に立ち上がった。
「…くん付けでなければ、その愛称とやらで呼ぶ事を許可します。」
目も合わせずにそう言い残すと、彼は歩き出してユーリさんと交代で土砂の前へ向かっていった。
「ふへぇ…。思った以上に手強いねあの土砂。」
ユーリさんは疲れた様子で隣に腰を下ろすと、手を後ろについて天を仰いだ。
「お、お疲れ様です…。でも、やっぱり凄いですね…!あんなに高威力で長時間発動出来るなんて!」
「魔法はひたすら反復練習だからね。僕は風しか扱えないけど、その分威力も美しさも兼ね備えているのさ。」
「た、確かに美しかった…デス。」
「君の美しい風魔法も期待しているよ。」
「は、はい!頑張りま…」
「“……意思に従え。…トルメンタ!”」
ツヴェルが発動した魔法は、彼が手に持っている杖のような棒から放たれ、岩を切り刻んで粉々にし、砂と共に吹き飛ばしてしまった。
「おおー。ツーくん凄いねぇ。彼の武器は杖みたいだし、これは活躍が期待出来そうだよ。」
「す、凄い…。」
「ユーリさん…!」
私達の後ろからララがやってくると、彼女は水の入った小さめのタンクとコップを手にしていた。
「これ、飲み水です!ここに1つ置いておきますね。」
「ありがとう。助かるよ~。」
「すごいねララ。いつの間にか魔法も上達してるじゃん!」
「えへへ…。ルナちゃんのおかげだよ。」
「無理しないで、休み休みでいいからね?日が暮れるまでに出来てれば充分だから。」
「わ、わかりました!ルナちゃんも頑張ってね。」
「ありがとうララ!」
「…お話は終わりましたか?」
「ぅわあ!?」
彼女の背中を見送っていると、後ろの方から突然声をかけられて思わず声を上げてしまった。
「そ…そんなに驚かなくても…。」
「ご、ごめんごめん。次は私だよね。」
「大きめの魔法の方が進みが早いと思ったんですが…。やはり、持続はしませんね。すみません。」
「そんな事ないよ!3人で少しづつ頑張ろ!」
「よろしくお願いします。」
「うん!任せて!」
いざ土砂を目の前にすると、その大きさに思わず唾を飲み込んだ。
「結構高さあるなぁ…。まぁ…やるしかないよね…。“血の盟約は互いの友好の証。我が血を糧とし力に変え、我が意思に従え。トルメンタ!”」
ツヴェルと同じ大きめの風魔法を発動し、上にある大きな岩を切り刻む。風でそれらを吹き飛ばして、土砂の上の方を少しだけ削った。こうして魔法と交代を繰り返しながら、土砂を崩す作業は日が暮れるまで続けられた。
「ひとまず1日目お疲れ様。」
「お疲れ様でした!」
すっかり日が落ち、森の中の開けた場所で焚き火を行い、暖をとっていた。
「なんだかんだ言って半分くらいまで減ったね。いいペースだと思うよ。」
「私も魔法で手伝えたらよかったのに…。」
「大丈夫だよ!ララは、別の所で力になってくれてるもん。」
「そうだよララちゃん。僕達は僕達で出来る事を頑張ろう?」
「う、うん…。」
「…。」
落ち込んでいるララを励ましている私とフランの姿を見たツヴェルは、なんとも言えない表情をしていた。
ララとフランが用意した2つのテントに、男女で別れて朝まで休息をとる事となった。フランはまだ眠くないのか、私達のテントに来てララと話をしている。
「僕達も、ちょっとは魔法を使って削れないものかな?風や水じゃなくても、出来そうな気がするんだよね。」
「闇属性の魔法とか?うーん…どうだろう…。」
「ちょっとやってみようよ。ルナちゃんも行く?」
「じゃあ…見るだけ見ようかな!」
彼の提案により、こっそりテントを抜け出して土砂の前へやって来た。すると、そこには既に人影があり、ツヴェルが何かをしている様子だった。
「あれ?ツヴェル~。どうしたのー?」
「…!な、なんだ…あなた達ですか…。」
「ツーくん、何してるの?」
「…少しでも削れればいいと思って試してたんですよ。」
「まだ魔法を使ってるの?無理しない方が…」
「誰が魔法と言いましたか?僕はこれを使っていたんです。」
彼の手には、魔法を使用する時に使っていた杖が握られていた。
「杖?やっぱり魔法じゃ…」
「魔法ではないと先程もいいましたよね?…説明するより見た方が早いでしょうから、やってみせますよ。」
すると彼は土砂の方を向き、手から杖を離した。杖は地面に落ちること無くその場に浮き、彼の手の動きに合わせて土砂の上の方に移動していった。
「え!浮いてる!?どうやって動かしてるの?」
「“ミシク”ですよ。」
「“ミシク”って…離れた物を移動させる血の魔法?」
「そういえば僕達も下級クラスの時やった事あるよね。…あの時は出来なかったけど。」
「それで…杖で一体何をするの?」
「叩いて砕きます。」
「へ?」
彼は伸ばした手を下に振り下ろすと、杖が連動するようにして動き、巨大な岩を叩き始めた。何度も何度も杖が叩きつけられ、やがて大きな岩は砕け散った。
「も、ものすごい破壊力だね…。」
「あんなに強く叩いても杖は壊れないんだね。僕の剣なんか、床に落ちただけでも砕けちゃうのに。」
「頑丈に作っているので、このくらいでは壊れません。」
「へ~。杖ってそんな使い方も出来るんだなぁ…。」
「で、でもツーくん…。血だってあんまり使わない方がいいんじゃ…。」
「寝たら少しは回復します。寝る前に少しくらい使っておこうかと思っただけですよ。」
「で、でもほら…!明日もあるんだし、無理は…」
「…昔から変わらないですね。」
「えっ…?」
「僕はあなたのそういう所が嫌いなんですよ。」
「…!」
「ツヴェル…!なんでそんな…」
「…なんですか?好き嫌いは誰しもありますよね?それとも好きだと嘘をついて、仲良くするフリでもしておいた方がよかったですか?」
「それは…。」
「僕は勉強としてここに来たんです。あなた達と仲良くなる気はありません。」
彼は吐き捨てるようにそう言うと、テントのある方向へ歩いていってしまった。
「ツーくん…。」
「ララちゃん。気にする事ないよ。」
「ごめん2人共…。私、先にテント戻るね…。」
「わ、私も戻るよ!フランも一緒に戻ろう?」
「そうだね。また明日もあるし。」
「…うん。」
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氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
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